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正妃の偽り  作者: 雨生
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襲撃 〜正妃は狙われる〜

「是非、正妃様と一緒にお越し下さい」

 トシェンがそう、誘われたのは、ハンクルイエ老公爵の私的な舞踏会だった。

「もう、半分棺桶の中」

 などと周囲が言うハンクルイエ氏は、御歳90歳を越えても、まだティヒカと呼ばれる三拍子のゆったりとしたダンスを楽しむくらいに元気な老人だった。


 ハンクルイエ老公爵の私的な集まりとはいえ、出席者には長老方全員が全員名を連ねており、トシェンもおろそかに出来る集まりではなかった。

 トシェンはエリリーテとお供のエルーシアン、近衛騎士団のクリアージュとメリタルーシェなどを伴って郊外のハンクルイエ氏の私邸を訪れていた。


 その日のエリリーテの装いは、深いボルドー色のビロードに、金糸のレースが上品にあしらわれた、気品ある中に流行も取り入れたドレスだった。

 紺色に金糸の刺繍があるエファーを纏ったトシェンとはとてもお似合いだと誰もが思っていた。そして、その周りを彩る美貌の騎士達。

「眼福です!!」

 と、出席していた全ての女性陣達が感涙にむせび泣き、その集団に見とれていたくらいだった。


 いつもの夜会なら、トシェンは最初にエリリーテと一曲踊って、後はエルーシアンやクリアージュに任せて自分は政治的な社交に話しの花を咲かせるのだが・・・今日は何故か三曲踊っても、まだトシェンはエリリーテの手を離さなかった。


「あの・・・トシェン様?」

「何だ?」

 四曲目に突入した時、思わずエリリーテはトシェンに声をかけた。

「あの、いつまでも私の相手をしていただいていて、その、大丈夫なのですか?」

 トシェンは、一瞬眉を潜めたがそっとエリリーテにささやくように聞いてくる。

「その・・迷惑か?エルーシアンと変わった方が・・」

「いえっ!そうではないのですが・・・・」

「今夜の・・・ドレスもそなたに似合っている。優しい色も濃い色も、そなたには似合うのだな」

 そう言って優しげに目を細めて微笑むトシェンに、エリリーテの胸は激しく騒ぐ。

 この鼓動が、トシェン様に聞こえてしまうのではと、心配になるくらいにエリリーテはトシェンの優しげな微笑みにドキドキしていた。


 その時、クリアージュの元に、一人の人物が走り寄る。

 それは城からの伝令だった。

 クリアージュはエリリーテの手を取り踊るトシェンの側にやってくると、トシェンに耳打ちをする。

「それは・・・急ぎ戻らねばなるまい・・・」

 トシェンは側に来ていたエルーシアンにエリリーテを託すと、今夜の舞踏会の主催者であるハンクルイエ老公爵の元に歩み寄り、話しをしている。

「踊りたい?」

 そう、エルーシアンが聞いてくれるが、エリリーテはトシェン達が気になってそれどころではなくなって、壁際のソファーに戻った。

 何事かと、他の長老達もトシェンの周りに集まって話していたが、そのままトシェンは広間から出て行ってしまった。

 エルーシアンとエリリーテの元に、クリアージュが戻ってきた。

「何があった?」

「いや、詳しくはわからないが、グラードとの国境付近で不振な動きがあったようだ。伝令の早馬が来たらしい。トシェン様は状況の確認のために城に戻られた。私と君とでエリリーテ様を警護して戻るようにと言われている」


「もう少し踊っていかれては?」

 と、老公爵には引きとめられたが、そんな気分にもなれず、エリリーテは早めに帰路につくことにした。

 舞踏会は深夜まで行われるのが常だ。

 でも、今は緊急時だから、途中退席も失礼にはならないだろうと、クリアージュも判断したのだった。


 この時期、この国の日暮れは遅く、完全に日が暮れるのは夜も10時を廻る頃だった。 今の時刻は9時過ぎ。 

 宵闇迫る道を、エリリーテとエルーシアンを乗せた馬車とそれを警護する騎士たちは城へと向かっていたのだった。

 

 しばらく走り、森に差し掛かった頃、突然馬車の速度が上がり、揺れが激しくなった。

 馬車でエリリーテの隣に座るエルーシアンが、小窓を覗いて、後方を確認している。


 いつの間にか、黒ずくめの騎馬の数騎がエリリーテの乗った馬車に追いすがるように現れていた。

「クリアージュ!!」

 エルーシアンが、馬車の脇を騎馬で守るクリアージュに声をかける。

「分かっている!このまま、キハヤの関まで駆ける!」

 タン!タン!と聞こえるのは、後方から射かけられた矢が馬車の壁に突き立てられる音だ。森を抜けたキハヤの関には警備の騎士団が常駐している。そこまで逃げ切れるか?

 エルーシアンがエリリーテを抱きしめる。

 ガラガラと大きな音を立てて馬車が激しく揺れながら、追っ手を振り切ろうと暴走する。

「エルーシアン!クリアージュたちがっ!!」

「大丈夫だ!舌を噛むよ。黙ってて!!」


 その時、暮れなずむ森の道の前方から数騎の騎馬が駆けてくるのが見えた。

 クリアージュは息を飲む。

「新手か?」

 挟み撃ちにされれば万事休すだ。

「クリアージュ様!!」

 新手の先頭がクリアージュの名を呼んだ。援軍だ!!

「応援が来たぞ!エルーシアン!」

 クリアージュの声が馬車の中にも届く。

 それはキハヤの関に詰めている騎士団だった。  

 

 多勢に無勢と見たのか、追いすがっていた謎の騎馬隊はあっという間に引き返して見えなくなっていった。


 馬車はようやく速度を落とし、中にいるエリリーテもやっと少し身体の力を抜いた。

 気が付けば、握りしめた手が小刻みに震えていた。

「エリリーテっ!!」

 その時、声が聞こえた。

「えっ?」

 聞き覚えのある声に、エリリーテの鼓動が撥ねる。

「エリリーテは無事か?」

 その声に馬車が止まり、エルーシアンが内鍵を外して扉を開ける。

 そこには、声の主、トシェンの姿があった。 


「トシェン様・・・」

 トシェンが手を差し伸べて来て、エリリーテが反射的にその手を取ると、そのままふわりと馬車から抱き下ろされた。

 そして、そのままギュッと抱きしめられる。 

「・・無事で・・・良かった・・・」

 エリリーテは先ほどまでの恐怖に震えている身体を、力強く抱きしめてくれるトシェンにゆだね、やっと安堵のため息を漏らしたのだった。


 なんとか連投・・・。

 

 読んで下さってありがとうございます。

 奇跡的に今日は時間が少し作れて連投できました。


 応援して下さる皆様の声が、私の背中を押して下さって、少しでも期待に応えたいと頑張る力を生み出します。

 

 お気に入り登録が1700件を越えて、お気に入りユーザー登録も35人を越えました。

 信じられないほどの幸せです。

 本当にありがとうございます!!


 これからも、読んで下さる方が居て下さるかぎり、頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!!


 雨生あもう

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