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正妃の偽り  作者: 雨生
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邪(よこしま)な者たち 〜反逆者は企む〜

「神の御子だと・・・?」

 エルンストルはリアルシャルンに潜ませた間者からの報告書を読んで驚愕した。

 神国と呼ばれ、神々の末裔が治めていると言われるトリデアルダ。リアルシャルンの王位を継いだトシェンがそこから正妃を娶ったというのは知っていたが・・・。

「まさか、神の御子が国外に嫁ぐとは・・・トリデアルダはそこまでトシェンを買っているのか?」

 トリデアルダはこのパステロード大陸の中で、一番古く力を持っている国だった。

「トリデアルダが後ろ盾になってくるとしたら、少々厄介だな・・・」


 エルンストルは報告書の続きに目を通していく。

 そこには、彼の愛するダリューシェンは、王子を産み落とし、トシェンの側妃となった後、森の離宮と呼ばれている旧王宮に閉じこもっていると記されている。

「ダリューシェンも母上と同じで、幽閉されているようだな・・・トシェン・・・あいつだけは許せぬ!」


 自分こそが王太子に相応しいと、限りない愛情を注いでくれた母。

 王太子を産むために、リアルシャルンの歳が親子ほども離れた王に嫁がされた哀れな姫。

 だが、彼女が子を孕む前に、王は病気療養を理由に王座を退いてしまった。

 あと少し、彼が王座に居たならば、新たな王の弟であるエルンストルが王太子であったはずだと、母は幼い頃から彼に言い続けてきたのだ。

「次の王に相応しいのは、エルンから来たあの小娘の産んだ王子ではなく、歴史あるグラードから嫁いできた私が産んだ王子であるあなたなのですよ。あなただけが、この母の希望なのです」

 そう、本来ならあの王座に座るべきなのは自分なのだと、エルンストルは思いこんで生きてきたのだった。



「エルンストル様、そろそろお時間です。陛下がお待ちです」

 そう、声を掛けてきたのは、灰色の長い髪を垂らした痩身で長身の男、バーガンディール。黒い服に身を包んだこの男は死神のようにエルンストルに寄り添う腹心の部下だ。

「そうだな、まずは叔父上に相談して、挙兵の時期を決めなければならぬな・・・いや・・・、待てよ・・・」

 リアルシャルンへの侵略の機会をうかがっている、叔父であるグラード王との会見を心待ちにしていたエルンストルだったが、ふと、足を止めて考え込む。

「エルンストル様?」

「正攻法で攻めても面白くはないな・・・何か、面白いことを考えなければな」

 そう言ってくつくつと笑うエルンストル。

「御意・・・」

 そう頷いて、バーガーンディールはエルンストルに外出用のマントを着せ掛けたのだった。


 今、彼等が過ごしているのは、エルンストルの母の母国、グラード。

 大陸の南に位置し、北にリアルシャルン、西に小国ヘス南はカストラーデ海。そして東に砂漠を挟んで神国トリデアルダがある。

 気候は温暖で、過ごしやすい土地ではあるが、国土の広さはリアルシャルンの四分の一ほどだった。

 グラードの王が狙うのは、最近になって発見されたエザン山脈の鉄鉱石の鉱脈なのだ。偶然に発見されたものだったが、その鉱脈があるエザン山脈のほとんどの部分がリアルシャルンの領土で、グラードが採掘出来るのは、その端の少しの部分だけだった。

 グラードの王は、エザンの鉄鉱石鉱脈を手に入れ、武器の製造に力を入れ、それらを輸出して国益を増やすだけでなく、強い国軍を整備して、領土を拡大することを望んでいるのだ。

 まだリアルシャルンが本格的に鉄鉱石の採掘を始めていない今なら、あっという間にエザン山脈辺りだけなら手中にできたはずだ。

 だが、しかし、やっかいなことに、エザン山脈はトリデアルダにも接しているのだった。



「叔父上、挙兵の時期を見合わせるとは?どういうことですか?」 

 エルンストルの叔父、グラードの王であるティオニムルは白い物の混じり始めた褐色の髪を撫でつけながら、眼光鋭くエルンストルを見つめた。

「今は、まだ、その時ではないというだけのことだ」

 ティオニムルの私室に招き入れられたエルンストル。

 

 あの反乱の時、この馬鹿甥が女にうつつを抜かしたりしていなければ、もっと早くに決着が着いていたものをと、苦々しく思いながら、憤る甥エルンストルを見つめる。

 好みの女を何人か見繕って送り込んでやっても、まだ、あの女を引きずっている。

 妹がすっかり甘やかして育てていなければ、もう少しまともな男になっただろうにと、使えない甥を目の前に、ため息を付きたくなるティオニムルだった。


 鉄鉱石の鉱脈は必要だった。しかし、トシェンがトリデアルダから「神の御子」を正妃に向かえたと聞けば、うかつに兵を動かし、両国を敵に回すのは得策ではないと判断した。


「なに、挙兵しなくてもトリデアルダを手に入れることは出来る」

「叔父上?」

 甥の前に置かれた杯に、自ら酒を注いでやりながら、ティオニムルは微笑む。

「邪魔者を片付ける方法は、戦だけでは無いからな・・・やり方は色々ある」

 ハッとした顔でエルンストルが呟く。

「暗殺・・・」

「正妃が世継ぎを孕む前に、やらねばなるまいな」

 そう言ってティオニムルは杯を煽る。

「しかし、叔父上、王太子はダリューシェンの産んだ息子が!」

「誰の子かはっきりせぬのだろう?あの女がしばしオマエのモノであったことは周知の事実なのだからな」

「確かに、我の子かもしれませんが・・・」    

 子が生まれる前、エルンストルもダリューシェンを抱いている。自分の子である可能性もあるとは、エルンストルも思っていた。

「まだ幼い子供だ。オマエが父親の名乗りをあげて、後見に収まってしまえばよいだろう?今ならトシェンを始末すれば、王族の男子はオマエと幼い王太子だけになるのだからな」

 そう言って、ティオニムルはニヤリと微笑むのだった。


 読んで下さって、ありがとうございます!


 何とか連投!!


 次はまた明日UPします。

 一日一話ペースじゃないと、年内完結が無理なことに今更気が付きました(笑)


 頑張りますので応援よろしくお願いします!


 雨生あもう

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