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正妃の偽り  作者: 雨生
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企み 〜反逆者は暗く微笑む〜

「・・・飽きた・・・」

 起き抜けの乱れた髪をガシガシとかき混ぜながら、大きく伸びをした黒髪の男が呟く。

 彼の傍らには、一糸まとわぬ姿の娘が眠っている。蜂蜜色に輝く、金色の髪を持つ娘だ。容姿も美しい。

 だが・・・それでも自分の気持ちは揺らがぬ・・・。

 そう、男はため息を付く。


 もうとっくに夜は明けただろうに、薄暗いのは雨が降っているからかと、利く方の目を窓の外へ向ける。

 街を行けば10人中8人の女性が振り返るような、整った顔立ちではあったが、惜しいのはその顔に付いた醜い刀傷だった。

 左の額から右目を通り、右頬にまで達する刀傷。

 彼はその傷を顔の右半分を覆う形の黒い仮面で隠す。

 こんな雨の日は、古傷がジクリと疼く。


 彼女に会いたかった。

 身代わりに集めた蜂蜜色に輝く金の髪の娘を何人抱いても心は満たされず、ひたすらに彼女を求めてしまう。

「ダリューシェン・・・」


 今も鮮明に思い出すことができる、彼女の肌のすべらかな感触。

 彼女の夫となったエヴァンスの命を盾に取り、無理矢理抱いた。

 

 でも、その恍惚感。


 幸せだと思った。

 この腕の中に彼女が居る。

 彼女の心が自分に向いていなくても・・・。

 いや、向けていてくれたなら、例えばそれが憎悪であったとしても・・・。

 ただ、自分のモノにしたかった。

 閉じこめて、独り占めにしたかった。


 幼い頃から、望んで手に入らない物など無かった。

 全てが、自分の思うままになった。

 だが、王太子の座は手に入らなかった。

 せめてもう半年長く、父上が王位に居て下さったら、私が王太子になれたのに・・・。

 そして、初めて彼女を見た時、「この娘だ」と思った。

 そこにあったのは、幼いながらも完璧な美。

 自分が探していたのはこの娘だと思った。


 だが、彼女は私に気付く前に、私の甥を運命の相手だと見誤ってしまった。

「我が誤りを正してやらねばならない。本来なら王太子は我なのだからな・・・」

 彼女が甥を選んだのは、甥が王太子だったからだろう。

 自分が王になれば、彼女は自分のモノになると、それが彼の理論だった。


「ぅん・・・エルンストルさ・・ま?」

 起き抜けの甘えた声を上げ、傍らに眠っていた娘が身を起こす。

「飽きた・・・もうよいから去れ」

「っ・・!エ、エルンストル様?!あ・・あの、私、何か粗相を?」

 怯えたように見つめてくる娘を、エルンストルは冷ややかに見下しそう告げる。

「飽きたと言ったが、聞こえなかったか?」

 氷のように冷たい声だった。

「うっ・・・」

 娘はその美しい顔を歪ませて、泣きながら着てきた夜着を身に纏い、よろよろと寝台を後にする。


 エルンストルは寝台の横にあるテーブルから呼び鈴を取り上げてリンッと澄んだ音色を響かせる。

「お呼びですか?」

 そう、低い声を響かせる男が現れる。

 いつ見ても、死神のように見えるなとエルンストルはその痩せた長身の灰色の髪を長く伸ばした男を見る。

 両脇に地獄の門番のような筋肉質の厳つい護衛を従えている、エルンストルの腹心の部下、バーガンディール。

「バーガンディール、・・・姫君がお帰りだ・・・」

 気が付けば、娘の名すらろくろく覚えていないのだ。我ながら薄情なものだなと、可笑しくなる。

「して・・どのように?」

 揺らがぬ黒曜石のような暗い瞳が、己の主を見つめていた。

「そうだな・・・傭兵達にでも下げ渡してやれ・・・」

 それを聞いた娘は青ざめる。

「えっ・・・イヤっ!!お願いです!エルンストル様っ!お慈悲を!!」

 だが、問答無用と泣き叫ぶ娘をバーガンディールの二人の護衛が引きずって出て行った。


 女に飢えている傭兵たちにあのような美女を投げ与えれば、どんなことになるかは目に見えているなと、エルンストルはニヤリと笑う。

「あの娘は・・・」

 そう、咎めるような声をバーガンディールが上げる。

「何だ?」

「いえ・・・確か、この国の下級貴族の娘であったかと・・・」

「それが何だ?」

「・・・いえ・・・」

「この国の王である叔父上が、甥である私のために宛がって下さった娘だ。私がどうしようと勝手だろう」

「・・・御意・・・」

 バーガンディールはすっと一礼をして出て行こうとした。

「バーガンディール、叔父上に会いたい。手配を」

 呼び止めてそう告げると、

「御意」

 そう言ってバーガンディールは出て行く。


「ダリューシェン・・・今、救いに行くよ・・・」

 そう、言って微笑むエルンストルの微笑みは、狂喜に彩られていた。


「トシェン・・・今に見ていろっ!!」

 自分の顔をこのように傷つけ、自分からダリューシェンを奪い、側妃にした甥をエルンストルは激しく憎んでいた。

 何もかもが間違っている。

 自分は王であるべきだし、ダリューシェンは自分のモノであるべきなのだ!

 母上も救わねばならぬしな・・・。

 エルンストルはトシェンをどのように葬ってやろうかと考えながら、暗い笑みを浮かべるのだった。


 お待たせしました。

 お読み頂いて、本当にありがとうございます。


 いよいよ反逆者、エルンストルの登場です。

 後半戦の幕開けとなります。


 年内完結目指して頑張って書きますので、応援よろしくお願いします!


 雨生あもう


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