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正妃の偽り  作者: 雨生
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昔語り・その1 〜神王は語る〜

 主人公エリリーテの出生の秘密です。

 誰かが泣いている。

 とても悲しいと・・・。


 神王ルーファースルはその声に導かれるように、奥宮の最奥の庭に入る。


 一人になりたくて、たまにこうして最奥の庭をそぞろ歩くのが、神王になってからの彼の唯一の息抜きだった。誰かに見とがめられてはいけないと、どこから見ても神王だと分かってしまう長い虹色に光る銀の髪はフード付きのマントに治めてある。少々暑苦しいが、多少の自由を手に入れるためには仕方がない。


 直接泣き声が聞こえた訳では無い。彼には、そういう人々の心が起こす波紋を受け止める力があった。

 

 その奥には確か、この城が建つ前からある、古い泉があったと、彼は思い返す。

 木立を抜けた、すこし開けた場所にある小さな泉。

 この泉は祭壇に捧げる水を汲む所だった。


 その泉の側で、一人の娘が泣いていた。美しい金の髪に木漏れ日が踊る。

 目を細めて見ると、光の精霊たちがその身に集っている。まるで彼女を慰めるように。

 邪気の無い、清らかな存在であることの証明だ。

 この国で最も尊ばれる光の精霊に愛される無垢な娘。その娘が、本当に悲しそうに泣いている。

 思わず彼は声を掛けていた。

「どうしたのだ?何を泣いている?」

 驚かせてはいけないと、そっと声をかけたつもりだった。

 しかし、彼女はとても驚いて、凍り付いたように瞬きもせず、彼を見上げる。

 その瞳の青い輝きに、彼は心を奪われて、声を失い、ただ見つめてしまう。


「・・・どなた?」

 怯えて、座ったまま後じさる彼女。

 しかし、彼女の悲しみの元は、その泉の中にあるようだった。

「何故、泣く?」

「あの・・・大切な物を泉に落としてしまいました」

 彼は力を使い、泉の中を視る。

 泉の中には、一枚の布が沈んでいる。

 神聖な泉に何故?

 そっと泉に手を翳し、水の精霊達に呼びかけて、その布を泉の底から引き上げる。

 それは一枚のハンカチだった。

「これを落としたから泣いていたのか?」

 その時、はらりと銀の髪が一筋、フードからこぼれて虹色に輝いた。その一部始終を見つめていた彼女はひれ伏した。

「もしかして・・・神様?!ごめんなさい!泉を穢してしまいました」

 身を伏せたまま、怯えてしまった彼女。

 しかし、そのあたりの精霊に聞けば全てはわかる。数人の侍女姿の者たちがこの娘を取り囲むようにしているのが視える。そして娘からハンカチを取り上げて、泉に投げ込んでいる姿も・・・。

「そなたが、自分で落としたのではない。そうだな?」

 そう言うと、

「何故?それを・・・」

 と、驚いた様子の彼女。

 彼女が身に纏っているのは、侍女見習いの制服だった。

 裕福な家庭の娘なら、行儀見習いに王宮勤めをすることもある。先輩達の後輩いじめか・・・。

 ハンカチを差し出すと、彼女は本当に嬉しそうにそのハンカチを胸に抱いた。

「ありがとうございます。これはお姉様に頂いた、大切な物だったんです」

 彼を見上げて微笑む笑顔に、一瞬で心を奪われていた。


「名は?」

「え・・・エリンです・・・あなたは?」

 そう聞かれて返答に困る。

 神王がこんなところをふらついていると、吹聴されても困る。それに神王だと知られたら、彼女が逃げてしまうような気がした。

「私か?・・・私は・・・この泉の精だ・・・」

 自分でもちょっと赤面モノの台詞だったが、彼女は素直に信じてくれた。

 神王たる彼が人前に姿をさらすこととは滅多に無かったから、侍女見習いの彼女が神王を目にする機会は無いに等しかったはずだった。


 本来なら、出会うはずも無かったはずの二人。

 だが、運命の歯車は廻った。


 何度かこの泉の畔で会う内に、ルーファースルはどんどん彼女に惹かれ、癒されて、彼女の側でしか得られない安らぎを覚えていった。

 彼女も自分を慕っていると、そう告げられた時には、天にも昇るような心地だった。

 もちろん、彼の正妃も側妃たちもそう告げてくれるが、何がどう違うのか、それは神王でも分からなかった。


 彼女の側では、自分は神王ではなく、ただの男になって、甘えくつろぐことが出来た。

 そうして逢瀬を重ねるうちに、どうしても彼女を自分の物にしたくなった。神王とはいえ、一人の男なのだからそれは仕方がない。


 そうして、彼は彼女を手に入れた。

 彼はとても幸せだった。

 彼女も幸せだと言ってくれた、


 このまま、ずっと、この泉の奥の森に小さな別邸を建てて彼女をかくまって住まわせて、この森の守人としての役割を与えようかと考えていた。

 そこに通いたいと思っていたし、その計画も進めようと考えていた。

 調べてみたが、彼女は商家の生まれで、正妃の遠縁にあたると言うことで、正妃の推薦で宮仕えをすることになったらしい。

 奥宮で側妃とするにはあまりにも身分が低く、そして、そのようなことは望まない娘だったからだ。


 しかし、ある時、彼女に彼の正体がバレてしまう。

 彼はこの国の神王だ。


 彼女は泣いた。

 私は・・・お姉様を裏切ってしまった・・・。

 彼女は表沙汰にはされていなかったが、正妃エメリリアの腹違いの妹だったのだ。


 母親が亡くなり、妾腹の娘として正妃の実家に引き取られたものの、居場所が無い彼女を、侍女見習いとして正妃が王宮に引き取っていたのだった。


 彼の正体が知れた直後、彼女は城から姿を消した。


 神王は探させたが、行方は分からなかった。

 精霊達も教えてはくれなかった。それは、彼女の強い拒絶に精霊達が賛同した形であり、彼は苛立ちを募らせていた。


 正妃も突然消えた妹を心配していた。


 彼女が王宮から消えて数ヶ月が過ぎたある日、ウワサが王宮に届く。

 辺境の修道院に女神が生まれ落ちたと。


 それが、エリリーテだった。


 読んで下さって、本当にありがとうございます!


 エリリーテの生い立ちに関する話しは、彼女の設定を考えている時に、するするっと自然に出来たお話しでした。

 これだけでも、一つの物語が作れそうなんですが、今回は簡単に触れておきます。


 もう一話、エリリーテが生まれてからのエピソードを次話で書きたいと思います。

 たぶん、明日UPします。


 あとは怒濤の後半戦。

 体力つけて、年内完結に向けてがんばります!


 雨生あもう

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