表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正妃の偽り  作者: 雨生
32/65

「薔薇の騎士の物語」の真実・その4 〜王子は待ち続ける〜

 トシェンたちの活躍により、コドラグレンの反乱は、わずか十日で鎮圧されることとなった。


 王子は奪われた王と義姉を取り戻した。

 だが・・・彼女の心は戻らなかった・・・。

 彼の兄も永遠に失われてしまった。


 トシェンはダリューシェンを森の中にある離宮に住まわせる。

 

 トシェンは反乱の後かたづけや、反乱以来、すっかり弱ってしまった王に変わって政務を行わなければならず、気楽だったはずの第二王子の日常は激変した。

 眠る間も無いくらいの日々。


 しかし、彼は、毎日彼女に会いに行く。

 彼女の好きな薔薇を携えて。


 彼女はトシェンを見ると、優しく微笑む。

 そして優しい声で愛しい名を呼ぶ。

「エヴァンス様」と・・・・。

 それは亡き兄の名だった。

 亡き兄に似ていると言われたことはあったが、二人の印象は静と動という風に、違っていたはずだった。

 しかし、残酷な現実に心を砕かれてしまい、夢の国に逃げ込んでしまった彼女は、愛する人の不在を受け入れられなかったのだ。


 エヴァンス様と呼びかけられ、微笑む彼女に会うのは辛かった。

「トシェンだよ。ダリューシェン・・・。兄上はもう居ないんだ!」

 そう、叫び出しそうになることもあったが、トシェンは耐えた。

 これ以上、ダリューシェンを辛い目に遭わせたくなかった。

 自分が、エヴァンスを演じれば、彼女は幸せなままでいられるのだと・・・。

 トシェンは、短くしていた髪を伸ばし始めた。

 エヴァンスに・・・少しでも近づくために・・・。


 そうしている内に、彼女の腹が膨らみだし、酷いウワサが飛び交った。

「あのお腹の子は、謀反人エルンストルの子に違いない!」

 でも、トシェンは兄の言葉を聞いていた。

 だから、信じて疑わなかった。

 兄上の子に間違いないと。

 もし、お腹の子が王子であれば、王太子にはその子が相応しいと。

 

 生まれてきたのは王子だった。

 亡き兄の忘れ形見。

 次の王太子にはこの王子をと、トシェンは進言したが、誰も取り合わなかった。

 

 弱った王。

 内乱で疲弊した国。

 立て直すために、トシェンは王太子になるしかなかった。

 そして、兄の子を次の王太子に指名するために、ダリューシェンとの結婚を強く望んだ。

 ずっと、昔、初めて会ったあの日から、トシェンもずっとダリューシェンを愛していたのだ。


 周囲はもちろん反対した。

 しかし、トシェンも譲らなかった。


 トシェンとダリューシェンの婚儀は、離宮の小さな礼拝堂で、ひっそりと行われた。

 ダリューシェンは、兄と同じように伸ばした髪を後ろに括ったトシェンの傍らで、嬉しそうに微笑んでいた。

 あの反乱から、二年の月日が流れていた。


 二人の初夜の夜。

 トシェンは、愛するダリューシェンを初めて抱いた。

 幸せだった。

 例え、ダリューシェンの心が、自分に向けられていなくても、彼女だけを生涯愛し、守ろうと思った。

 腕の中で眠る彼女を、抱きしめたまま眠りについた。


 だが、次の日、目覚めると、青ざめた顔で自分を見つめるダリューシェンがいた。

「何故?どうして・・・こんなことに?」


 ダリューシェンは、心を取り戻したのだ。

 

「ダリューシェン!」

 トシェンはダリューシェンを抱きしめる。

「エヴァンス様っ・・・」

 亡き夫の名を呼び、泣き続けるダリューシェン。


 混乱する彼女に、トシェンは反乱の後からの出来事を語って聞かせる。

 乳母に連れて来させた、小さな王子をその腕に抱かせる。

「この子は、エヴァンス様のお子です」

「分かっている」

 トシェンがそう言うと、ホッとしたようにダリューシェンは小さな息子に頬ずりをする。


「この子を・・・エヴァンス様の忘れ形見を、王位に付けるために、私たちの婚姻は必要だったのですね・・・」

 我が子をじっと見つめたまま、ダリューシェンが震える声でそう確かめる。

「そうだ」

 トシェンはダリューシェンを見つめたまま答える。

「ありがとうございます、トシェン様。でも・・・今の私には辛すぎます。夫の命を救うためだったとはいえ、夫を裏切って、憎い敵に抱かれ、今度は・・・あなたとなんて・・・」

 トシェンはそっとダリューシェンの肩を抱き寄せる。

「すまぬ・・・ダリューシェン。私は、ずっとそなたを愛していたのだ」

「トシェン様?!」

 驚いてトシェンを見上げたダリューシェン。琥珀色の瞳の中に、トシェンの顔が映る。

「兄の妻となられた後も、私はあなたを・・・。だが、お二人の幸せを守る騎士として、ずっと生きていくつもりでした・・・。だが、今はこうして、あなたの夫となった。この命をかけても、あなたと王子を幸せにします。時間はかかるかもしれませんが、どうか、私を見て下さい。あなたの後に新たに誰かを娶ったりもしません。あなただけ愛し続けると誓います」

 しかし、彼女は力なく首を横に振って泣くばかり・・・。

「あなたには、もっと相応しい方がきっといらっしゃいます。このように汚れた身の私は、正妃になど相応しくありません。それに、やはり、私はエヴァンス様を愛しているのです。たとえ、もう二度とお会いできないとしても・・・」


 ある日、彼女は薬を飲んだ。

 それは「思癒草」という遥か東の国から取り寄せられた妙薬。

 心の傷を癒す薬という触れ込みであったが、軽いものならば一晩眠ってしまえばすっきり出来る。しかし、心の傷が深ければ傷が癒えるまで眠りっぱなしになってしまい、やがて衰弱して死に至るという、恐ろしい薬だった。

 その薬を持っていたのは、庭師の年老いた母親で、嘆き悲しむダリューシェンの為に、良かれと思っての事だった。そんな副作用があるとは、思いもよらなかったということで」、老婆は罪には問われなかった。

 

 解毒は不可能だった。

 トシェンが連れてきた、テレリーアの医師団が、眠り続けても衰弱死に至らないように、不思議な銀の繭のような寝台の中に、ダリューシェンを寝かせた。


 トシェンはダリューシェンを心から愛していた。

 しかし、その想いは拒絶されてしまった。


 苦しい恋。


 彼女は銀の繭の中で眠り続け、トシェンは毎日彼女の元を訪れる。

 彼女の好きな薔薇を携えて。

 いつの日か、彼女が眠りから覚めるのを待ち続けている。

 読んで下さって、ありがとうございます!


 随分と、お待たせしてしまいました。

 

 風邪を引いて、久々に寝込み、溜まったやるべき事に忙殺されそうになりながら、なんとか生きてます(泣)




 おとぎ話なら、お姫様と王子様が結ばれて、めでたしめでたしなんでしょうが、「薔薇の騎士の物語」も、吟遊詩人が歌っているのは、二人が結ばれてめでたしめでたしの部分までなんですね。その裏にあった真実を書くために、ちょっと淡々とした書き方になっておりますが、史実を語るためですので、ご容赦くださいませ 。


 ここから先、すぐに書きたいのですが、まだ風邪が完治しておりませんので、少しお待たせするかもしれません。



 応援して下さっている皆様、本当にありがとうございます。

 頑張って、続き、書きます!!

 (その前に、風邪治します〜!)


 雨生あもう


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ