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正妃の偽り  作者: 雨生
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「薔薇の騎士の物語」の真実・その1 〜兄の死〜

 反乱が起きたと、伝えられて、トシェンはアストキアから仲間の騎士たちとコドラグレンへと駆けつけた。


 コドラグレンの宮殿は別名「夏の王宮」と呼ばれていた。

 夏の間、王家の者たちが避暑に訪れる時に使う宮殿で、その時は政務の中心もこの宮殿に移ることから、ここを「夏の王宮」と皆が呼んでいた。


 元からリアルシャルンより、トシェンに従ってきた数人に加えて、この半年の騎士修行で、いずれはトシェンの元で働きたいと、信頼を寄せてくれている者たちも加わって10人の騎士団。それにトシェンが是非に自国に招きたいと願っていたテレリーアの医術師団が、同行してくれた。


 通常なら10日はかかる距離を5日で駆けつけるという強行軍に、それだけでも疲れ果ててはいたが、そのままの勢いで、なんとか城に潜入することに成功した。


 だが、トシェンが辿り着く前日、「夏の王宮」はすでに反逆者の手に落ちていた。


 トシェンが王宮の玉座の間に駆けつけた時、そこには王を守って戦った、騎士や兵士、側仕えの者たちの遺体が、累々と転がっていた。


 辺りは文字通り、血の海だった。


「王は捕らえられた」

 との報告があり、父王は無事なようだった。

 エルンストルが王位を継ぐためには、現王からの指名が無ければ継ぐことは出来ないから、殺したりはしないだろうと思っていたが、指名の手続きが終わってしまえばその命に意味は無いと思われ、早急に救出する必要があった。


 むせ返るような血の香り。

 死に切れていない者たちのうめき声があちこちから上がる。

 まるで、地獄絵図だ・・・。


 トシェンとお供の騎士達は、この部屋に辿り着くまでに、かなり多くの敵と戦って、体力を消耗しきっていた。  

 だが、倒れている仲間を見捨てることは出来ず、一人でも多くの命を救えないかと、同行させた医術師達に、その面倒を見させていた。


 反乱が起こったとの報告を受けて、アストキアから10人の仲間の騎士とともに、テレリーアから来ていた医術師たちを伴ったのは、こういう事態を予測してのことだったが、

「これほどとは思わなかった・・・」

 あまりの状況の悪さに、トシェンと供にアストキアに赴いていたクリアージュが青ざめて言った。

「姉上は・・・ご無事でしょうか・・・」

 そう、力なく呟くクリアージュ。

 この状況を見れば、覚悟を決めなければならないかと、トシェンでさえ思った。


 その時だった。

 玉座の横に倒れている血に汚れた人物の肩に付けられた徽章が目に入った。

 トシェンの鼓動が一気に跳ね上がる。

「まさか・・・兄上?」


 よろめくような足取りで、その側に辿り着き、血で汚れるのも構わずに倒れている人物を抱き起こす。

「兄上!兄上っ!」

 玉座の横に倒れていたのは、王太子エヴァンスだった。

 エヴァンスはすでに虫の息だった。

「その声・・トシェンか・・・すまぬ・・な・・」

 何を詫びるというのだろう。

「兄上、今、治療いたします。しっかりして下さい!」

 トシェンの目から、涙が溢れる。

「よい・・・泣くな・・・もう、助からぬ・・・」

 トシェンの目から見ても、助からない程の深手であることは一目瞭然であった。救いを認めるように、付き従って来てくれていたテレリーアの医術師に目を向けるが、彼等も静かに首を横に振るだけだ。

「兄上っ・・何を弱気なことをおっしゃいます!!」

 玉座の間に、トシェンの悲痛な叫びが響く。

「それより・・・父上とダリューを・・連れ・・去られた・・」

「!!」

 父王だけでなく、王太子妃のダリューシェンまで連れ去られたというのか。

「頼む・・・ダリューは・・・身ごもっておるのだっ・・・」

 もう、声を発するのもやっとなエヴァンスが自分の手を握るトシェンの手を力強く握り返しながらそう告げた。

「身ごもって・・・・」

「トシェン・・・頼む・・」

「兄上、必ずお救い致しますからっ!」

「頼む・・・ダリュー・・・・」

 突然、手を掴んでいた力が無くなり、その手が滑り落ちる。

「兄上?・・・兄上!!嫌だっ!兄上っ!!兄上!!」

 後ろに控えていた騎士や医術師たちは、かける言葉もなく、トシェンとエヴァンスを見つめていた。

 この国からずっとトシェンに付き従ってアストキアに同行した騎士達は、この兄弟がどれほど仲が良かったのか、トシェンがどんなにエヴァンスを慕っているのか知っている者たちだった。

 

 エヴァンスの亡骸を抱いて、号泣するトシェンの傍らに跪く者がいた。

 クリアージュだった。

「トシェン様っ・・・、どうか、姉を救いに行かせて下さい!!」

 その声に、トシェンは我に返る。

 今は、どんなに辛くても、悲しみに打ちひしがれている時間は無いのだ。

「ああ、必ず救おう!」

 涙を拭い、兄の亡骸をそっと横たえ、その亡骸に誓う。

「兄上。必ずや父王とダリューシェン妃を取り返して、このリアルシャルンに平和を取り戻します!」



 お読み頂いて、ありがとうございます!


 頑張って連投!!(笑)


 ここから先のエピソードは、ずっと暖めてきたものもあるので、時間さえ許せば続けて書きたいと思います。


 物語はいよいよ終盤に差し掛かっていきます。


 応援よろしくお願いします!


 雨生あもう

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