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正妃の偽り  作者: 雨生
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物語の始まり 〜王は思い出を語る〜

 このリアルシャルン王国の社交界のデビューは、通常16歳になる歳の、春の園遊会になる。だが、貴族たちのつきあいの中で、子供を連れてきて、そこで出会う場合もある。


 トシェンが18歳の春、園遊会に参加するために久しぶりに祖父である前王アンリストルが、マリール妃と息子のエルンストルを連れて、王宮に滞在していた。

 そのマリール妃主催のお茶会に招かれていたのが、正妃フリューレと王太子のエヴァンス、側妃リュエマと第2王子のトシェン。そして招かれた貴族達の中に、ロマーノ公爵家のミサエラーシュ夫人と娘のダリューシェンがいた。


 ロマーノ公爵家の夫人となったミサエラーシュ夫人は、宮廷の華と呼ばれるほどの美しさと知性を兼ね備えている、貴婦人の中の貴婦人と言われる女性だった。彼女が生まれた時からの許嫁であるロマーノ公爵と結婚したとき、泣いた男性は大勢いただろう。

 そのミサエラーシュ夫人によく似た娘、ダリューシェンの美しさは、まだ14歳でも光り輝くようなまぶしさだった。

 白に近い薄桃色のドレスに、同じ色の大きなリボンを蜂蜜色に輝く頭の上で結び、椅子にちょこんと腰掛けて、琥珀色の瞳を見開いている様は、本当に名工の手によって作られた人形が座っているかのような、完璧な美だった。 


 まず、彼女に最初に声をかけたのは、エルンストルだった。彼はこのとき24歳。数々の女性とのウワサはあったが、

「まだ、理想の女性に出会ってはいないのでね」

 と、結婚せずに浮き名を流していた。

 そのエルンストルが、大勢いる女性陣に見向きもせず、十も年下のダリューシェンに声をかけた。

「お可愛らしい姫君。私と踊りませんか?」

 ダリューシェンはじっとエルンストルの顔を見て、それから困ったように首をかしげて瞬きをした。

「エルンストル様ではお歳が釣り合いませんね。私が相手ではどうですか?」

 思わずトシェンが横から声をかけると、にっこりと微笑むが、手を取ってはくれない。

 そのダリューシェンの視線の先には、長い黒髪を背に流して穏やかな笑顔で佇むエヴァンスの姿があった。


「一目見て、この方だと思ったの」

 そうダリューシェンが後で頬を染めながら言っていた。

「でも、歳も離れているし、初めて会った日も私を誘っては下さらなかったから・・・ずっと片思いだと思っていたの・・・」


 エヴァンスはエヴァンスで、

「あの時は、あまりにも可愛らしくて、声を掛けるのが躊躇われたんだよ。みんなが誘っても全て断られているようだったから・・・。まさか、それが私のせいだったなんてね」

 などと、惚気られてトシェンは馬鹿ばかしい思いをしたのだった。



 だが、エルンストルは諦めなかった。

「あの姫君こそ、私の理想!」

 そう公言して、求婚するために、足繁くロマーノ公爵家に通った。

 だが、そう言いながらも、それとこれとは別とでも言うように、女遊びは止めなかったので、ロマーノ公爵も、夫人も、良くないウワサのあるエルンストルの求婚を受け入れられず、

「まだ、娘は社交界にデビューもしておりませんので・・・」

と、お茶を濁し、娘とエルンストルを会わせようとしなかった。



 宮廷での作法を勉強するために、社交界デビューの前に貴族の子ども達が集められて月に何度かの勉強会をする。

 トシェンもエヴァンスも、ダリューシェンを一目見たさに、そっと覗きにいったりしていた。

 そんな二人の気持ちに気が付いた、正妃フリューレと側妃リュエマが相談して、ロマーノ公爵夫人に声をかけて、三人が話しをできるようにと小さなお茶会を開いてくれた。

 何度か会う内に、自然とうち解けて、可愛い笑顔に惹かれていく。

 しかし、そこでトシェンも気が付く。ダリューシェンが誰を見つめているのかを・・・。

 気が付いたときは寂しかったが、でも、ダリューシェンが兄を愛し、兄もダリューシェンを愛しているのなら、自分はその二人を見守ろうと決めたのだった。


 話しはトントン拍子に進み、ダリューシェンは社交界デビューと同時にエヴァンスとの婚約を発表し、16歳で王太子妃となった。


 トシェンもさすがに、同じ城の中で仲の良い二人の姿を見るのは辛いこともあって、騎士としての修行と、第2王子として見聞を広げるために、海を越えた向こうの国、アストキアに修行に行くことにしたのだ。



 だが、二人の結婚で怒り狂ったのがエルンストルとその母の王太后マリールだった。

「こちらの方が早く話しを持って行ったのに、正妃の地位に吊られた愚かな娘!きっと財産目当てに違いない!」

 と、酷いウワサを流したりしたが、元々素行の悪いエルンストルの方が、

「賢い姫に振られて、やっきになっているな」

と、陰で笑われていたのだった。



 だが、エルンストルのダリューシェンへの執着は、普通ではなかった。

 狂気とも言えそうなその様子に、気が付いていた貴族院の長老達は憂慮していた。

 だが、それほど大きな事をしでかすような器でもあるまいと、放置していたのだった。



 それが半年後に「コドラグレンの反乱」を引き起こす火種となっていくのだった。



 読んで下さってありがとうございます!

 がんばりました。

 連投です(笑)。


「薔薇の騎士の物語」の真実に入る前に、何故「コドラグレンの反乱」が起きたのか、その火種の話しを書かなければなと、今回はそれぞれの「出会い」を書いてみました。


 次回「薔薇の騎士の物語」の真実をお楽しみに〜!


 雨生あもう

 

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