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正妃の偽り  作者: 雨生
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憂い 〜長老達は嘆く〜

 朝起きて、朝食を取るために次の間に行くと、いつものようにエルーシアンが待っていた。

 いつもと同じ青い騎士服に身を包み、青い飾り紐で豪奢な金の巻き毛をまとめている。華やかな貴公子姿。

 でも、いつもと違うのはその表情。眉間に深くシワを刻み、ものすごく機嫌が悪そうな顔をしている。


 それもそのはず、その隣には白い近衛騎士団の騎士服に身を包み、満面の笑みを浮かべたクリアージュが居たのだった。


「おはよう・・・」

と、エルーシアンが言えば、

「おはようございます!」

と、負けじと爽やかにエリリーテに微笑むクリアージュ・・・。


「おはようございます・・・」

 戸惑いながら、エリリーテが朝の挨拶をすると、クリアージュがすっと立ち上がって、椅子を引いてくれる。

「あ・・ありがとうございます・・・」

 何?どういう事?説明して欲しくて、チラッとエルーシアンに目を向けると、

「おはよう。よく眠れた?」

 不機嫌そうな表情のままで、でも、エリリーテを気遣ってくれるエルーシアン。

「ええ・・・まぁ・・」

 エルーシアンと見つめ合うエリリーテの気を引くように、クリアージュがコホンと小さく咳払いをする。

「エリリーテ様、今日より私もあなたの護衛騎士の任に付くことになりました」

「えっ?今日からですか?」

 クリアージュはサッとエリリーテの前に跪くと、騎士の礼の姿勢を取った。

 エリリーテは立ち上がると、自分の右手を左の胸に当ててから、跪くクリアージュの左肩にそっと触れる。

 それは、あなたを騎士として認め、敬愛を持って接しますという、騎士への返礼の仕草。

「ちょっと・・・色々と物騒だから、護衛騎士は多い方がいいということになりましてね」

 面白くなさそうなエルーシアンが、クリアージュがその手を伸ばして、自分の左肩に触れているエリリーテの手を取ろうとしたのをさっとかわして、そっと自分の方へ引き寄せた。

 その様子を見ていた、給仕の侍女達は「美貌の姫君を奪い合う騎士二人の図」にすっかり興奮し、ウットリとその様子を眺めている始末だ。


「さぁ、エリリーテ様、朝食を召し上がらなくては!」

 妙な空気を壊すように、侍女の中では一番の古株のマーリンがそう告げて、やっと朝食が始まる。

「こうして、エリリーテ様と朝食を共にできるなどとは。本当に幸せですよ。護衛騎士に立候補してよかったです」 

 美貌の騎士、クリアージュが優雅にお茶のカップを口元に運びながら微笑む。

「エリリーテ、いつものように二人きりがよければ、この邪魔者を追い出してあげるよ」

 エルーシアンはあからさまな敵意を向けながら、グイッとパンを噛みきる。

 二人に挟まれて、何だか食べた気もしないエリリーテであった。



 エリリーテの行くところ、二人の騎士が常に同行し、その姿を一目見ようと、廊下や回廊のあちこちに侍女や小間使いが溢れ・・・・。



「まったく!!嘆かわしい!!」

と、貴族院の長老達の怒りを増長させる結果になっていた。


「あの正妃様も清楚な振りをなさっておいでだが、ちゃらちゃらとした自国の騎士をお側から離さないばかりか、今度は我が国の近衛騎士にまで手をお出しだとは、とんだ毒婦なのかもしれませんぞ!」

 そう、怒りをぶちまけたのは、「超がつくくらい堅物」の、フェリッツ老伯爵だった。


「まぁまぁ。あれだけの美貌ですし、可憐な少女のような容貌も男心をくすぐりますからなぁ・・・」

 そう言ってニヤリと笑うのは「老いてもなお盛ん」とウワサされているペリエル老男爵。


「奥宮がこれほど華やかになったのは、久しぶりですな」

と、ズズーっとお茶をすすったのは「もう半分棺桶の中」と言われている御歳九十歳のハンクルイエ老公爵。


「しかし・・・王が容認していらしゃるのであれば、我々は口出しすべきではないのでは?」

と、冷静な意見を述べるのは「騎士の中の騎士」と言われた過去を持つエニグランド老伯爵だった。


「だが、陛下は・・・トシェン様が何を考えておいでなのかは計りかねますね・・・。お世継ぎは本当にティカーン様で良いと皆様はお考えですか?」

 そう問いかけたのは、この中では最年少と言っても、すでに六十は超えているネレイレット老公爵だ。


「ダリューシェン様は・・・未だ、お変わりなく?」

 エニグランド老伯爵がそう聞けば、

「ああ、相変わらずだと医術師からは報告が・・・」

と、ネレイレット老公爵が答える。

「そして、陛下は相変わらず、毎日離宮へ通っていらっしゃるのか・・・」

と、ため息を付きながらフェリッツ老伯爵が肩を落とす。

「我々は陛下のために、良かれと思って正妃様をお迎えしたのだが・・・余計なことだったのかのう?」

ハンクルイエ公爵が、そう言いながらまたお茶をすする。 

「まぁ、あと三年もしたら、あの正妃様ももう少し女性的な色気でもって、トシェン様をお慰め下さるかもしれませんよ?」

ニヤリと笑言いながら、ペリエル男爵が笑う。


 この5人の貴族院の長老達は、「コドラグレンの反乱」のおりには軟禁され、王太子エヴァンスを救うことが出来なかったことを悔いていた。

 実は長老達は反逆者エルンストルの不穏な動きを掴んでいたのに、そこまでの行動力はあるまいと、その力を軽んじていたために、みすみす反乱を防ぐ機会を失ったという負い目があるのだ。


 そして、その後、世継ぎたらんと必死で頑張ったトシェンの苦労も知っている。

 知っているからこそ、長老達は今の状況を憂いているのだ。

 この国の繁栄と平安こそが、この五人の長老たちの望みであった。そして、頑張って王になったトシェンの幸せを、この五人の老人達は願っていたのだった。


 トシェンが兄の王太子の妃であったダリューシェンを妃とし、息子のティカーンを養子に迎えて世継ぎとしたいと言ったとき、長老達はそれも有りだと思った。

 しかし、それでは、あまりにもトシェンが自分を国のために犠牲にしているように思えてならないということも事実であった。


「我々はトシェン様にしあわせになって頂きたいのだが・・・」

と、フェリッツ老伯爵が眉間にシワを深く刻む。

「まぁ、ダリューシェン様が目覚められて、トシェン様のお心を受け入れられればあるいは・・・」

と、エニグランド老伯爵も、困惑した表情を浮かべながら呟く。


「私は・・・トシェン様にエヴァンス様の身代わりになっていただきたかった訳ではないのだ。トシェン様は、トシェン様らしく、王になって下さればそれでよいと・・・」

 ネレイレット老公爵がそう言って目を伏せると、他の四人の長老達も深いため息を付いた。

お待たせしました〜。


って、まだまだ山が越えられず、現実逃避して続きを更新している場合じゃない雨生ですが・・・。


謎解きの前に、トシェンを取り囲む状況を少し書いてみたくなりました。


次から謎解きの予定です。


もう少し、お待ち下さいませ。


雨生あもう

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