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正妃の偽り  作者: 雨生
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対決 〜騎士達の思い〜

 エリリーテの護衛騎士であるエルーシアンと、王の近衛騎士団のメンバーであるクリアージュとの「対決」は、双方の主であるエリリーテとトシェンの許可を得て、その双方の主の御前で、弓と剣術、騎馬での槍の戦いの三種目で行われることになった。


「エ、エルーシアン・・・本当に大丈夫?」

 泣きそうなエリリーテに、エルーシアンはムッとした表情で答える。

「あのさ・・・私が負けるとでも?」

「ううん・・・そうじゃないけど、心配で・・・私のせいでごめんなさい」

 エルーシアンはそっとエリリーテを抱きしめると、その美しい虹色に輝く髪に頬を寄せた。

「君のためにする苦労なら、どうってことないよ。だから、そんな悲しい顔しないで、応援してくれたら嬉しいんだけど」

「エルーシアン・・・・」


 あの男がどれくらい「本気」なのか、見極めさせてもらわないと、エリリーテを安心してこの国に残していけやしない。エルーシアンは時間に限りがある己の身を呪った。

 確かにエリリーテにはこの先味方が必要なのだ。困難な立場を乗り越えていかなければならない彼女を支え、見守ってくれる人は一人でも多いに越したことはない。

 だからこそ、中途半端なヤツに周りをうろうろされては困るのだと、エルーシアンは闘志を燃やすのだった。




「私が勝利したら、私を彼女の護衛騎士にしていただけますか?」

 クリアージュは王の前に跪きながら、微笑を浮かべている。

「まぁ、そなたなら問題はなかろう・・・」

 トシェンは、そう思いながらも、何故かすんなり頷けない自分の気持ちに戸惑っていた。


 クリアージュは明らかにエリリーテに惹かれているのだろう。だが、エリリーテは我が正妃だ。本当に「騎士と剣を捧げられた貴婦人」の関係を貫いていく覚悟があるというのだろうか?そして、エリリーテは?この美貌の騎士クリアージュに剣を捧げられても、「正妃の貞操」を守り続けることができるのであろうか? 


「クリアージュ・・・」

「姉上の「騎士」になろうとなさっていたことのある陛下なら、私の気持ち、分かって下さいますよね?」

「ん・・・まぁ、な・・・」

 にこやかに笑みを浮かべながらも、有無を言わせぬ「本気」を感じさせるクリアージュに、複雑な思いのトシェンだった。



 クリアージュはトシェンの前を辞して、騎士の訓練場へ向かいながら考える。

 まさか、自分が本気で「崇高なる騎士の愛」「完全なる純愛」を貫きたい相手に出会えるとは思ってもみなかった。

 騎士の修行はトシェン様のお付き合いで、公爵家の嫡男としての責務くらいにしか考えていなかったからだ。


 初めて、彼女を見た時、彼女は王子の腕の中に抱かれていた。

 王子の腕の中で翻る、日の光を浴びて、美しい虹色の煌めきを帯びた銀の髪。

 扇で顔を隠していたが、ベールが外れた時に一瞬垣間見えた美しい菫色の瞳。

「本当に人なのか?」


 女神だと思った。


 初めての晩餐会に戸惑う姿も、幼い王子を腕に抱いて、眠る姿も、気がつけば、ただただ「愛らしい」と、思っていた。


 でも、彼女は、我が国の正妃。


 そう思いながらも、気が付けば目で追っていた。

 いつも彼女の隣で手を取る金髪碧眼の騎士に嫉妬を覚えた時に気が付いた。

 これは恋なのだと。

 

 彼女の側にいたい。側で見守り続けたい。我が父上はまだ若く、御元気だから、もし私が家督を継ぐとしても、もっと先の話だろう。せめて数年でもかまわない、彼女の側にいたい。

 例え、叶わぬ思いでも、彼女が笑顔で過ごせるように、守り続けたい。


 トシェン様は、姉を愛している。

 愛されない相手と夫婦でいなければならない、そんな悲しい運命を背負った彼女をずっと、ずっと守りたいのだ。

 触れ合えなくても、愛の言葉を交わせなくても、側で見守り続ける。それこそが「崇高なる騎士の愛」。

 それをうちの姉に捧げようとしていたトシェン様。その気持ちは、正直自分には分からなかった。自分なら愛する人には触れたいし、愛を囁いて、甘やかして、大切にしたい。だが、今なら分かる。

 思いが通じ合うこと、それが全てではないのだ。

 

 愛とは、捧げるものなのだと。



 対決の場所は、騎士の訓練場でということになった。

 公正な勝負の立会人は、トシェン王自らが勤めることとなった。



 結果は、弓の試合ではエルーシアンが勝ち、剣の勝負では引き分け、馬上での槍の試合ではクリアージュが勝利し、結果は引き分けということになった。



「引き分けですから、現状維持ですよね」

と、エルーシアンがエリリーテの右手を取ると、

「いいえ、引き分けたのですから、我々の立場は平等ですよね」

と、クリアージュがエリリーテの左手を取る。


 二人とも、これでもかと言うくらい、美しい笑みを浮かべていたが、間に挟まれたエリリーテは困った笑みを浮かべて戸惑い、トシェンも複雑な気持ちを隠しきれず、戸惑った顔をして三人を見つめているのだった。



 そして、結局、週の内五日間はエルーシアンがエリリーテの護衛騎士を務め、二日間をクリアージュが担当するということで、話は決着したのだった。

 お待たせしてしまいました。


 実は「10日の山」はまだ越えられておらず・・・こんなことしている場合では無いのですが、「息抜きは必要よね?」と・・・自分には甘い雨生です。


 クリアージュの暴走で、話がわき道に逸れましたが、次回辺りからまた本編を進めて行きたいと思います。


 まだまだ続くこの物語。

 もう少し、おつきあいいただければ嬉しいです。


 雨生あもう


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