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正妃の偽り  作者: 雨生
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宮廷の花 〜正妃は踊る〜

 エリリーテのお后としての教育は、毎日様々なメニューで行われていた。

 側にはいつも彼女の護衛として、麗しの騎士エルーシアンが付き添っているので、移動する時など、あちこちで物陰に隠れながらエルーシアンに熱い視線を送る侍女や小間使いたちが溢れるという現象も、もはやこの宮廷の日常の風景になりつつあった。

 今日のエルーシアンは、いつのも騎士の青い礼装に短いマント、室内用に短めの剣を付けていた。凛々しい騎士姿に侍女達の熱い視線が集まる。

 エリリーテはと言うと、今日は胸元の淡い黄色から、グラデーションで裾に行くほど夕焼けの空のように美しいオレンジ色になっていくという染めの美しいシンプルなドレスを纏って、肩には最近流行りだした、海の向こうの国ワシュラから輸入されたレース編みのショールを羽織っていた。人妻となったので、髪は結い上げているが、両サイドのひとすくいづつの髪を残して長く垂らしてある。侍女達が結うのがもったいないと言うエリリーテの美しい髪を生かすために考えた髪型で、こちらも宮廷で流行りつつあるようだった。


 エルーシアンはそんな自分に向けられる視線は優しく受け流し、しかし、エリリーテを一目見ようとやってくる騎士や貴族の若者には鋭い視線を向けていたのだったが、とうのエリリーテは全く気が付いてはいない。

「エルーシアンは相変わらず人気があるのね。リアルシャルンの奥宮に居たときからそうだったものね」

 可愛い笑顔で見上げながらそう言われると、エルーシアンも思わず笑顔になってしまう。エリリーテにとって、エルーシアンは自慢の乳兄弟だったのだ。

「君だって十分注目を集めているだろう?」

「えっ?だって、私はエルーシアンほど美しくは無いもの」

 エリリーテは自分が人からどう見られているか、全く分かってないから、危なっかしくって仕方がないと、エルーシアンはため息をついた。


 二人揃って、今や宮廷の花と呼ばれる存在になりつつあったのだ。

 

 色々な授業の中でも一番大変だったのは、ダンスの練習だった。

 トリデアルダには舞踊はあるが、男女が一緒に踊るダンスは無い。

 多忙な王に変わって、エリリーテのダンスの練習相手に選ばれたのは、宮廷一のダンスの名手と呼ばれているロマーノ公爵家のクリアージュ、ダリューシェン妃の弟だった。


 エルーシアンが

「私が覚えてお相手します」

と、言うのに対して、

「この国のステップは私の方が詳しいので」

と、クリアージュがやんわりと断り、跪くとエリリーテの手を取って甲にキスを落とす。

「私などでは、王の代わりは務まらないかもしれませんが、お相手させていただきます」

 そう言って見上げながら微笑まれると、エリリーテの胸は高鳴る。

 本当に姉弟そろって、何というか、人を引きつけずにはいられない美貌の持ち主だわとため息がもれてしまう。


 ダンスは、ステップを覚えると言うよりも、クリアージュのエスコートに従って、脚を運べば踊れているような気になる。

 この方は本当にダンスがお上手なんだわと、エリリーテは夢見心地だった。

「あなたはスジがいい。覚えも早いし」

「お褒め頂いて光栄ですわ」

 でも、速い曲になって、ステップが複雑になると、ついつい足下を見てしまう。

 その時だった。

「しっかりして、胸を張っていらっしゃい!」

「えっ?」

 エリリーテは思わず顔を上げた。

「そう、そのまま、私の瞳を見つめたままで」

 クリアージュの美しい瞳に見つめられて、エリリーテの頬にカッと血が巡ってきたのを感じる。   

「何か?」

 不思議そうに首をかしげるクリアージュに、エリリーテは照れたような微笑みを浮かべながら答えた。

「いえ・・・同じ事をあなたのお姉様からも言われました。やはりご姉弟なのだと思って」

「あっ・・・そ、そうでしたか・・・」

「私、初めての晩餐会の時にダリューシェン様に沢山助けて頂いたのです」

「そうですか」

 何故かクリアージュも赤くなって微笑む。姉にそっくりな美貌に間近に微笑まれ、エリリーテもますます頬を染める。


 その様子を、腕組みをしたまま不機嫌そうにエルーシアンが眺めていると、反対側の扉の前でさらに不機嫌そうにそれを見つめている人物と目が合った。

 いつの間にか王が扉の前に立っていた。

 エルーシアンと目が合うと、王は踊る二人に声を掛ける。

「クリアージュ、ダンスの指南をありがとう」

「王!!」

 驚いて踊るのを止めた二人に、トシェンが大股に近づき、クリアージュの手からエリリーテの手を受け取る。

「今宵はもうよい。私が后の相手をしよう」

「はい」

 エリリーテは引き寄せられるまま、戸惑いながらトシェンに身を預ける。

 エリリーテの胸が高鳴る。

「お忙しいのにすみません」

 そうエリリーテが言うと

「いや、本当は私が相手をするべきなのに、なかなか時間が取れなくてすまない」

 そう言って、トシェンが微笑みながら、更にエリリーテの腰に回した手を引き寄せるから、身体が密着してしまう。

 エリリーテは真っ赤になりながらも、賢明に王のステップについていく。 

 二人がクルクルと踊る様を見ながら、エルーシアンは更に不機嫌になる。

「王は、何を考えているんだ?」


 そして、また、クリアージュも複雑な表情を浮かべて、踊る二人を見つめているのだった。  


 読んで下さってありがとうございます。


 毎日1話更新できたらと、がんばっております。


 お気に入りが900件を越えて、本当に信じられない思いです。

 拙い書き手ではありますが、主人公のエリリーテがしあわせになってくれるように、頑張って進めていきますので、応援よろしくお願いします!

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