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正妃の偽り  作者: 雨生
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「薔薇の騎士の物語」の史実 〜正妃は学ぶ〜

 正妃としてのエリリーテの目下の仕事は、この国についての勉強だった。


 王家の成り立ち、国の歴史、領土の地理、産業、法律、細かな礼儀作法、諸外国との国交問題、貴族達について、それから芸術的な分野では、刺繍や絵、詩や音楽、ダンスのステップ、などなど。学ぶべきことは山のようにあって、毎日色々な教師について、必死に学んでいるのだった。


 特に歴史の授業で、4年前に起きた内乱の話に、エリリーテは心を痛めた。

 あの「薔薇の騎士の物語」の史実だ。



 コドラグレンの反乱と言われる内乱が、すべての始まりだった。


 コドラグレンとはこの国の北の地にある都市の名前だ。


 コドラグレンを領地として収めていたのはトシェンの叔父にあたるエルンストルだった。

 叔父とはいえ先王が退位した後に先王の三人目の正妃が生んだ末の息子で、父王よりもかなり年若く、甥にあたる王太子のエヴァンスより三つほど歳上、トシェンとも五つ違いという関係だった。

 

 彼の母は南のグラード皇国の姫で、リアルシャルンの前王の三人目にして最後の正妃マリールだった。彼女が生んだ唯一の息子がエルンストルだったのだ。前王は孫とさほど歳の変わらぬ末の息子を溺愛していた。

 グラード皇国は自国出身の王太后マリールが生んだ王弟にあたるエルンストル王子を王太子の地位に付けたがっていたが、生まれたのが前王が王位を退いた後とあって、なかなか強く出られずにいた。


  王弟のエルンストルは己の領地が北の果てのコドラグレンであることにも不満を感じていた。


 そして、四年前、反乱は起きた。

 きっかっけは、エヴァンス王子が正式に王太子になったことと、その婚礼だったかもしれない。

 王太子妃に選ばれたのが、ずっとエルンストルが妻に望んでいた美貌の姫君だったからだ。


 エルンストルはずっと公爵家の姫に想いを寄せて、求婚していたのだったが、元々王家と懇意にしていた公爵家が娘の婿に選んだのは王太子のエヴァンスだった。

 元より姫は、家に決められる前にエヴァンスを選んでいたのだったが・・・。


 エルンストルはエヴァンスの立太子式から四ヶ月後、突然、前王の病気の見舞いもかねて、避暑にこの地を訪れていた王と王太子夫妻を襲った。そして兄王を軟禁し、王位を譲るように迫った。王位継承には必ず王の指名が必要だったからだ。

 そして、彼は甥の王太子エヴァンスを殺害し、王太子妃であった姫を無理矢理奪った。


 そのころ、海を越えたアストキア国に騎士としての修行に出ていたトシェン王子は、急を聞いて駆けつけ、わずか十騎の騎士仲間と百人の兵で、数千のコドラグレンの城を守っていた兵を退け、王と王太子妃を奪還したのだった。


 このとき奪還された前王太子妃こそ、ダリューシェン妃なのだ。

 ダリューシェンはトシェンの兄エヴァンスの妻だったのだ。


 奪還した姫は身ごもっており、それでもトシェンは彼女に求婚する。

「ずっと、あなたが兄の婚約者となられる前から、お慕いしておりました。どうか私の妻となり、兄の忘れ形見と供にこの国を一緒に支えて頂きたい」

 彼女はそれを拒否する。

「私はエヴァンス様を心から愛しておりました。しかし、この身は一度は憎き敵に奪われた身です。あなたにはもっとふさわしい姫君がいらっしゃるでしょう」


 だが、諦めきれない彼は彼女の好きな薔薇の花を携えて、毎日離宮に暮らす彼女の元を訪れる。

 それが二年を過ぎた頃、ようやくダリューシェンはトシェンの気持ちに答え、王家は再び彼女を王太子妃として迎えたのだった。


 これが世に言う「薔薇の騎士の物語」のあらすじだった。


 憎き兄の敵を倒し、捕らわれていた王と姫を奪還し、国を救った救世主トシェン。

 義姉であったダリューシェン姫を心から愛し、「あなたと結婚できるなら、他に妃はいらない」と誓うトシェン王子の一途な思いは、一夫多妻が当たり前のこの世の中で、とても尊いものだとエリリーテや他の乙女達の心を揺さぶって、「薔薇の騎士の物語」はあっという間にこの大陸中に広がっていくのだった。


 反逆者エルンストルは右目を失ったものの、逃げ延びたということだった。今では南の母の母国グラードが密かにかくまっているのではというのが巷のウワサだった。前皇后のマリール妃は北のコドラグレンの居城の塔に幽閉されている。そのことで、グラードとリアルシャルンの間では、今も不穏な空気が流れているのだ。


 内乱で乱れた国内、不安定になりつつある諸外国との国交、それらに不安を覚えた王はトシェンに命じる。

「次の正妃には、王太子妃ダリューシェン妃ではなく、トリデアルダから姫を娶るべし」


 それが真実なのだとすれば、私がこの国に嫁いで来ただけで、トシェン様のお役に立っているのかもしれない。

 私はトリデアルダでは末席の姫だったけど、私の存在がリアルシャルンにトリデアルダ神王国という後ろ盾を作っているのならば、少しは役に立てているかしら・・・と、エリリーテは思った。

 読んで頂いて、ありがとうございます。


 そして、感想を寄せて頂いたり、お気に入りに登録して頂いたり、本当にありがとうございます。


 信じられないくらい沢山のアクセス数に、お気に入り登録。

 身に余る光栄に、頑張って更新しなきゃと気持ちを引き締めています。



 この物語は、ある物語のサイドストーリーです。

 無事にこの物語を完結出来たなら、その続きの物語も書きたいと思います。


 よろしければ、応援よろしくお願いします!

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