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正妃の偽り  作者: 雨生
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王家の墓所 〜正妃は祈る〜

 王家の墓所は、王宮の裏手にある森の中にあった。


 森の中は木漏れ日が差し込み、時折姿を見せるリスなどの小動物や、美しい声を聞かせてくれる小鳥などが、ここが豊な守られた森であることを教えてくれる。


 白い建物の入り口をくぐると、中はひんやりしていて少し肌寒いくらいだった。この建物の中には、王族以外の者は立ち入ることが出来ない。ただ一人供をしてくれる、幾つかの花輪を持って付き従っている墓守の青年も、遠く王族に繋がる一族の出なのだということだった。


 墓所の中は薄暗く、小さな明かり取りの天窓から差し込む光だけが頼りだったが、目が慣れてくると、墓所には、幾つかのまだ新しい墓標が立っているのが見えた。


 トシェンは、まず正面にある始祖の墓標の前にエリリーテを誘う。その墓標の正面に二人並んで跪き、花輪を捧げる。結婚の報告と、今日即位して王になることを報告し、御代の平安を祈る。


 それが終わると、トシェンは一番新しい墓標の前にエリリーテを導いた。半年前に亡くなった前王、トシェンの父君リステスの墓だ。そこにも花輪を捧げ、祈りを捧げた。そして、その右隣にある二つの墓標にもトシェンは一回り小さな花輪を捧げた。

「父の隣の墓標が正妃様のフリューレ様で、その隣が側妃のリュエマ様、私の母上の墓だ」

 そう、トシェンは正妃の息子ではなく、側妃であったリュエマ妃の生んだ第二王子だったのだ。


 そして、トシェンは前王の墓標の左隣のまだ新しい墓標の前に、エリリーテを連れて行く。

「そして、これが我が兄上、前王太子エヴァンスの墓標だ」

「これが、エヴァンス様の・・・」

 トシェンはここにも花輪を捧げる。エリリーテも一緒に跪き、頭を垂れて祈りを捧げた。

 トシェンの小さな呟くような祈りが、エリリーテの耳に届く。

「兄上、今日、私は王位を継ぎます。見守っていて下さい」

 そうして拳を胸に当てて、黙祷を捧げる。それは最大級の親愛を示す仕草だ。


 これが、あの「薔薇の騎士の物語」に登場する、悲劇の王子エヴァンス様の墓標なのねと、エリリーテはその墓標に刻まれた王太子の印を悲しい気持ちで見た。逆賊から王を守り、非業の死を遂げる王太子エヴァンスこそ、トシェンの兄なのだ。


 婚礼までの日々、エリリーテはこの国の風習や地理、歴史など、正妃として必要な知識を詰め込むようにして学んでいた。


 今は平和なこの国が、わずか4年前に起きた「コドラグレンの反乱」という内乱によって深く傷ついたこともうわべの知識としては知っていたが、学んでみるとその悲惨さに心が痛んだ。この内乱でトシェンは当時王太子であった兄のエヴァンスを亡くしていた。


「兄上は素晴らしい方だった。私などよりも王に相応しい、慈愛に溢れた方だったのだよ」

そう、トシェンが呟いた。

「そうなんですね・・・」

 エリリーテは、トシェンの兄を思う気持ちに切なくなる。


 エリリーテも肖像画でエヴァンスの姿を見たことがあった。それは王族の肖像画を並べて掛けてある王の間に続く廊下にあった。

 王太子エヴァンスは、王譲りのトシェンと同じ色の髪を長く伸ばし、一つに結んでいた。そしてトシェンと同じ色の瞳は優しく微笑んでいて、優しげに見える。トシェンに比べて少しほっそりとしたしなやかな身体付きだったが、堂々とした立ち姿は王者の風格があるとエリリーテも感じた。

 トシェンと兄のエヴァンスは、やはり兄弟なので面差しも少し似ていると、エリリーテは思っていた。



 「薔薇の騎士の物語」は、この反乱の発生から話が始まる。

  この物語は、吟遊詩人が歌い継いで、この大陸中に広がった。広がる内に真実よりもドラマチックになっていたのかもしれないが、エリリーテが知る物語は、史実にかなり忠実に書かれているのでは?と学んで余計にそう思った。

 

 エリリーテはその墓標の前で、親愛を示すトシェンの姿を見て、あの物語が史実に基づいて書かれたもので、夢物語ではないのだと改めて思い、そして、その場に居る自分を不思議に思うのだった。


 しばらく祈りを捧げた後、トシェンはすっと立ち上がると、エリリーテを振り返り、

「さあ、行こう」

と、手を差し伸べて微笑むのだった。


 エリリーテは墓所の入り口で、最後に一度振り返り、心の中で呟く。

「皆様、私ののぞみはただ一つ。トシェン様のおしあわせだけです。どうぞ、トシェン様の御代をお見守り下さい。私のしあわせは、こうしてその側で、そのしあわせを見守り続けることだけです」

と、そうエリリーテは心からの祈りを捧げたのだった。

 しばらくお待たせしてしまいました。(誰も待ってなかったらどうしましょう・・・)

 

 やっと取れた夏休みで、休養の旅に出ておりました。

 旅先で数話分書きためてきましたので、少しずつ手直ししながらUPします。


 気が付けば、お気に入り登録が700件を越えており、驚きました。


 読んで下さっている方、お気に入り登録して下さっている方、本当にありがとうございます。


 未熟な私ですが、頑張って書きますので、応援よろしくお願いします。

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