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MMORPG―オフ会殺人事件―  作者: tillé.o.fish
第一章 上陸
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8.『深淵の入り口』

 午後 三時三十分。


 上陸直前に発見した洞窟を探検をするために、僕はナゾシンと共に崖下までやってきた。

 砂浜から、波打ち際の岩道を進んで行く。

 ゴツゴツした岩道は歩きにくく、海水で濡れて滑りやすい。

 僕らは海に面した大きな岩や、崖のでっぱった部分に手をついたりして、慎重に進んでいた。

 岩道から、ようやく洞窟の見える入り江に差し掛かった時。

 僕の前を進んでいたナゾシンが、突然、立ち止まったかと思うと、振り返って僕に言った。

「シャドー君。ここは足場が悪いから気をつけ――」

「うわぁ!」

 言ったそばから僕は足を滑らせる。

 前屈みに倒れる身体を腕立て伏せの要領で支えようとしたが、咄嗟の出来事に、僕は地面に膝を打ち付けてしまった。

「――っぅ!」

 僕は痛みに顔を歪ませた。

「ふむ。言ったそばから」

 ナゾシンの声や表情は、ただそこにある事実を述べるだけの研究者みたいに、淡々としていた。

 できればもう少しはやく言って下さい……

 僕はそれを声に出さず、膝立て伏せの状態から、立ち上がった。うぅ、てのひらと足がジンジンする。

 怪我は、幸いなことに軽いすり傷ですんだ。

 気を取り直し、僕らはさらに進み続ける。

 入り江の岩場は、半分海水に浸かっていた。おかげでズボンの裾はびしょ濡れだ。部屋に戻ったら着替えよう。

 足元に注意しながら、洞窟へと歩を進めて行く。

 洞窟の入り口に差し掛かったところで、僕とナゾシンは立ち止まった。

 入り口は外光が差してまだ明るい。しかし、奥は真っ暗で――とても静かだった。

 しんと静まり返った空間に、ピチャン、ピチャンと、跳ね水の音がこだまする。

 ナゾシンはお尻のポケットに挿していた懐中電灯を抜き出した。

「いよいよ探検らしくなってきましたね」

 僕の声は思ったよりも洞窟に響いた。それから、僕も懐中電灯をズボンの右ポケットから取り出す。自室に置いてあった非常用の懐中電灯だ。

 洞窟の奥を照らすと、そこには大人ひとりくらいが通れそうな空間が奥へと続いていた。

「ふむ。行こうか」

「そうですね」

 洞窟の奥は狭いので、ここからは縦に並んで進まなければいけない。

 僕はナゾシンが先に行くのを待った。

「……」

「…………」 

「……………………」

「…………………………………………」

 二人は沈黙したまま、動かない。

「……え? 先に行かないんですか?」

 僕は言った。

 ナゾシンはというと、顎を撫でて、何やら考え込んでいる様子だ。

「どうかしましたか?」

「いや、暗くて狭い場所が苦手で……」

「あうっ!」

 まさかの展開。僕は奇妙な声を出してしまった。

 仕方がないので、先頭は僕が行くことにした。

 懐中電灯で暗闇を照らし、注意深く歩を進める。

 洞窟の内部は、想像していたのとは違って、なだらかな道が続いていた。分かれ道もなく、道は真っ直ぐに伸びている。慣れてくれば、入り江なんかよりも、よっぽど歩きやすかった。道中、大量の虫に寒気が走ることはあったが……

 どれくらい進み続けただろう。たぶん五十メートルくらい、かな?

 長方形に区切られた広い空間に、僕らは出た。

「やっぱり……。怪しいと思ってたんだ」

 僕は懐中電灯で辺りを照らして見た。

 地と壁は平らな石のブロックで舗装されており、壁には紅いタペストリが。中央にはこれまた紅い絨毯が真っ直ぐ、奥の突き当たりまで続いている。ご丁寧にも、その両脇には松明まで備え付けられていた。

「これは……、『深淵の入り口』か?」

 ナゾシンも懐中電灯で辺りを見渡しながら、言った。

 ――『深淵の入り口』。

 メインクエストを全てクリアしたあとに発生する、隠しクエストだ。

 一階ごとにボスが配置されており、地下に進むにつれ、その強さは増していく。

 最終階に近づくと、メインクエストのラスボスを四体同時に相手にするなど、えげつないボスラッシュが待ち構えているので、パーティーを組んでも攻略難易度は非常に高いクエストだ。

 最下層に到達すれば、特別なエフェクトを放つ武器『ブラッディー・スプラッシュ』(攻撃するたびに大量の血しぶきが飛ぶ)と、ペット『小さくなった邪神』が手に入る。僕もまだ攻略サイトでしか見たことがない、激レアアイテムだ。

 僕は中央に敷いてある絨毯を踏みながら、奥の突き当たりまで進んだ。

 懐中電灯で壁面を照らすと、鉄製の扉があった。扉には、家の表札くらいのくぼみが五つ。

 中央にひとつと、それを囲むように四つ、四角形に配置されている。

「間違いないな」

 いつの間にか、僕の隣にはナゾシンがいた。一瞬、驚いたが、僕は再び扉を調べるのに集中した。

「あれ、ここ……下になにか書いてある」

 五つあるくぼみの、少し下。そこに、くぼみと同じ大きさのプレートがあった。

 プレートはスチール製で、よく見ると文字が掘り込まれている。

「ええと、どれどれ。『五つの災い集めよ。さすれば深淵の扉は開かれん』……か」

「ベタだな」

「ベタですね」

 だが、メノウの言っていたプレートを納める『とある場所』とは、ここ『深淵の入り口』で間違いないだろう。

「たしか、深淵クエもこんな感じでしたよね」

 今思い出したが、深淵クエストは、事前に五体のボスを倒すクエストをクリアしなければ受けられないのだ。

「ふむ。そうだな」

「えっと、倒すボスは何だったかな。ナゾシンさんは覚えてます?」

「覚えてない。そもそも、メインとサブクエストのボスからランダムに五体だ。特定はできない」

 そういえばそうだった。ボスが特定できれば、効率よくプレートを探せるのではないか。そう思ったのだが、どうやらそれは無理のようだ。

「しかし、これで他のチームよりは有利になった」

「どうかな、上陸する前からこの洞窟は明らかに怪しかったし。他のチームが来るのも時間の問題だと思う」

 特にクキ、シエル、白夜の三人は、船のデッキから僕と一緒に洞窟を見ている。

 となると、メノウは相方が白夜なので、現状で洞窟の存在を知らないのは、フェイスと紅蓮の二人か。

「それなら、ここを出て他の場所を探してみないか」

 ナゾシンの提案に、僕は賛成して言った。

「それがいいですね」

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