7.宝探し
部屋の割り当ては、二階左側通路に紅蓮、僕、ナゾシン、一部屋空けて、フェイス。
右側通路に、メノウ、シエル、一部屋空けて、クキ、白夜となった。
僕は自室の扉を開けてなかに入ると、ボストンバッグを適当な場所におろして、ばったりとベッドに倒れこんだ。
「ふぅ……」
船の移動と、上陸してからの肉体労働で、僕は疲れきっていた。まったく、人使いの荒い人たちだ。
僕は重たい身体を起こすと、部屋のなかを一通り見てまわった。
ベッドにデスク、それからクローゼットにバストイレと、無人島にやってきたわりには、設備はホテルなみだ。
これだけの設備を揃えるのに、一体どれだけの額が費やされたのだろう。こんな辺境の地では、リゾート地として運用することもできない。
……金持ちの道楽って凄いな……。僕は妙なところに関心してしまった。
部屋を一通り見てまわったあと、最後にデスクの引き出しを開けた。非常用に懐中電灯が置いてあるのを確認すると、僕は引き出しを閉じて、再びベッドに倒れこむ。……気持ちいい。
ふかふかのシーツに意識が朦朧としてきた、その時。
ドアをノックする音に、僕はびくりと身体を震わせた。
「シャドー君、お昼ご飯だそうだ」
声の主はナゾシンだった。
僕はポケットから携帯を取り出し、時刻を確認する。もう二時か……
もちろん、携帯は圏外で使い物にならない。
「わかりました。もう少ししたら行きます」
「そうか。なら、先に行ってるよ」
そう告げると、ナゾシンは扉から離れていった。
ばふっ、と僕は枕に顔を突っ伏す。あぁ、この枕カバー素材はシルクかな……
――十分後。
僕は起き上がり、大食堂に下りて行った。
「お、シャドー君、きみの席はここだよ」
大食堂にやってきた僕を、紅蓮が手招きして呼び寄せる。どうやら、メンバーは全員揃っているようだ。
席に着くと、目の前にはオムライスが置いてあった。
「今日のお昼はオムライスでつ」
メノウが照れたような笑みを浮かべる。そうか、このオムライスは彼女の手料理なのか。
すっかり忘れていた。この島には僕らメンバー八人しかいないので、食料は自分達で用意しなければならない。お手伝いの人間は、メノウが気を使わずにすむようにと、雇うのをやめたのだった。
「アンタ姉さんの手料理が食べれるなんて運がいいよ。涙流して噛みしめな」
シエルはわけのわからないことを言って、ワイングラスを傾ける。
「ケチャップか。僕はホワイトソースがよかったな」
「こらこら、贅沢言っちゃだめだよ。ワタシなんか数年ぶりの手料理だったんだから」
たしなめるフェイス。でも手抜き料理でしょ? と、言いかけたが、やめた。
「さて、メンバー全員揃ったことだし、そろそろいいかな」
メノウは場を一旦締めくくるように言って、意味ありげに微笑む。
「え? なになに?」
クキは興味津々だ。
「うん、実はね。この島には……宝物が隠されているんでつ!」
声高らかに発表するメノウ。メンバーは間を置いて、
「……宝物?」
と、それぞれに呟く。
僕はオムライスを頬張りながら、黙ってことの成り行きを見守っていた。
「宝物? なにそれ美味しいの? つーかエロいの?」
「まてまて!」
シエルの暴走をメノウが制止する。
「ははは。エロってことはないだろう。それで、宝物って一体何です?」
紅蓮はシエルの冗談を笑い飛ばすと、メノウに尋ねた。
「宝物は秘密でつ」
えっへんと胸を張ってメノウは答える。
「秘密でつ……かぁ、なんだろぉ」
クキは天井を見上げてぼやく。宝物の中身でも想像しているのだろう。
「ふむ。それで、宝物はどうやって探せばいい?」
ナゾシンがメノウに問いかける。それは僕も気になっていた。
宝探しなら、地図か、あるいは何かの暗号文など、必ずヒントがあるはずだ。
「うん。えっと、それはね……。この島のどこかに五つのプレートが隠されているんでつ。それを全部集めて、とある場所に納める。そうしたら、宝物のある部屋に入ることができるらしいお」
「……らしい?」
僕はオムライスを食べる手を止めて、彼女に疑問符を含む視線を投げかけた。
「うむ。実は私も知らないんだじぇ」
「それだと、発見できなかった場合はどうなる?」
と、ナゾシン。
「そのときは、宝のありかだけ発表しまつ」
妙なことを言う。
「え? でも、メノウさんはその場所を知らないんじゃ……?」
それまで黙っていた白夜がはじめて口を開いた。
「うん。でも四日後にはわかるよ」
メノウの言葉には、何か根拠があるように見えた。どういうことだろ?
彼女が自身満々に言うので、メンバーはそれ以上は追求せず、かわりにもうひとつの疑問をメノウに投げかけた。
「えーと。それじゃ、宝探しはメノ姉さんも……?」
僕が言うと、
「もちろん参加するよ」
メノウは当然といった風に答えた。
宝探しには、彼女も参加する。そのために、主催者である彼女自身も宝のありかを知らずにいる。
もし、宝を発見できなかった場合は、四日後、なんらかの方法で知ることができる。そういうことか。
「宝探しか、それは面白そうですね」
そう言って、フェイスはグラスの水をぐいと飲み干した。
「オレも、年甲斐もなくワクワクしてきたよ」
紅蓮は子供みたいに無邪気な笑みを浮かべている。
孤島で宝探しか。これは面白そうだ。よぅし、絶対見つけるぞお!
僕はひそかに闘志を燃やしていた。
「それで、姉さん、もっと他にヒントはないの?」
クキがメノウに尋ねる。
「ヒントはありまてん。島の観光もかねてだからね」
「それじゃ、あちこち歩いて回らなきゃいけないわけだ」
シエルは空になったグラスをテーブルに置くと、両手を頭の後ろに回し、背筋を反らして天井を仰いだ。
「あたしゃここで酒飲めたら十分かな。外あちぃし」
彼女らしい意見だ。
「シエルがそれなら、外に出なくても大丈夫。ちょうど八人いるでしょ? これから二人ずつでペアを組んでもらうから、相方がシエルの代わりに探せばいいんでつ」
メノウはそう言うが、それだとシエルと組むメンバーは、ひとりで宝探しをすることになる。まあ彼女と組む相方が納得するなら、それでいいのだが。
「なら、俺はシャドー君と組もう」
ナゾシンが言った。
「僕?」
たしかに、年齢を考えるとそれがいいのかもしれない。
「だったら、ワタシはグレンさんと。いいですか?」
「こちらこそ。頼りにしてますよ」
フェイスと紅蓮。ギルドでも仲の良い二人だ。彼らがペアを組むのは予想できた。
「おうし、それなら私はメ――」
「クキたんはあたしと組もう」
クキにかぶせるようにして、シエルが言った。
メノウとクキがペアを組めば、白夜はシエルと組むことになる。となれば、白夜ひとりに宝探しを丸投げするわけにもいかなくなる。そう考えて先手を打ったのだろう。
「じゃあ私は白夜たんとで決まりでつね」
メノウが言うと、
「あ、はい。よろしくお願いします」
白夜はぺこりと頭を下げた。
チーム分けは、次のとおり。
僕とナゾシン。紅蓮とフェイス。クキとシエル。メノウと白夜のペアとなった。
「であであ、お昼も食べたことだし。ここからは探検するもよし、ここでくつろぐもよし、みんな好きなようにしていいお」
解散の合図と同時に、メンバーは席を立ち、それぞれに行動を起こした。
シエルは相変わらずお酒を飲み続け、メノウは食事の後片付けのため、その場に残る。他のメンバーは皆、観光を兼ねての宝探しに出発した。
……ならクキと白夜がペアを組めばよかったんじゃ?
そんな疑問が沸いてきたが、声にするのは控えておいた。
財閥の令嬢が隠したお宝だ。きっと高価な物に違いない。意地悪いかもしれないが、クキと白夜にはそのままでいてもらおう。それが僕の出した結論だったのだ。
宝物は必ず僕が頂いてやる。そうでなければ、これまでの僕に対する扱いの酷さも報われない。
僕は期待に胸を躍らせ、ナゾシンと共に出発した。
さあ、宝探しのはじまりだ!