表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MMORPG―オフ会殺人事件―  作者: tillé.o.fish
第一章 上陸
8/36

7.宝探し

 部屋の割り当ては、二階左側通路に紅蓮、僕、ナゾシン、一部屋空けて、フェイス。

 右側通路に、メノウ、シエル、一部屋空けて、クキ、白夜となった。

 僕は自室の扉を開けてなかに入ると、ボストンバッグを適当な場所におろして、ばったりとベッドに倒れこんだ。

「ふぅ……」

 船の移動と、上陸してからの肉体労働で、僕は疲れきっていた。まったく、人使いの荒い人たちだ。

 僕は重たい身体を起こすと、部屋のなかを一通り見てまわった。

 ベッドにデスク、それからクローゼットにバストイレと、無人島にやってきたわりには、設備はホテルなみだ。

 これだけの設備を揃えるのに、一体どれだけの額が費やされたのだろう。こんな辺境の地では、リゾート地として運用することもできない。

 ……金持ちの道楽って凄いな……。僕は妙なところに関心してしまった。

 部屋を一通り見てまわったあと、最後にデスクの引き出しを開けた。非常用に懐中電灯が置いてあるのを確認すると、僕は引き出しを閉じて、再びベッドに倒れこむ。……気持ちいい。

 ふかふかのシーツに意識が朦朧もうろうとしてきた、その時。

 ドアをノックする音に、僕はびくりと身体を震わせた。

「シャドー君、お昼ご飯だそうだ」

 声の主はナゾシンだった。

 僕はポケットから携帯を取り出し、時刻を確認する。もう二時か……

 もちろん、携帯は圏外で使い物にならない。

「わかりました。もう少ししたら行きます」

「そうか。なら、先に行ってるよ」

 そう告げると、ナゾシンは扉から離れていった。

 ばふっ、と僕は枕に顔を突っ伏す。あぁ、この枕カバー素材はシルクかな……

 ――十分後。

 僕は起き上がり、大食堂に下りて行った。



「お、シャドー君、きみの席はここだよ」

 大食堂にやってきた僕を、紅蓮が手招きして呼び寄せる。どうやら、メンバーは全員揃っているようだ。

 席に着くと、目の前にはオムライスが置いてあった。

「今日のお昼はオムライスでつ」

 メノウが照れたような笑みを浮かべる。そうか、このオムライスは彼女の手料理なのか。

 すっかり忘れていた。この島には僕らメンバー八人しかいないので、食料は自分達で用意しなければならない。お手伝いの人間は、メノウが気を使わずにすむようにと、雇うのをやめたのだった。

「アンタ姉さんの手料理が食べれるなんて運がいいよ。涙流して噛みしめな」

 シエルはわけのわからないことを言って、ワイングラスをかたむける。

「ケチャップか。僕はホワイトソースがよかったな」

「こらこら、贅沢言っちゃだめだよ。ワタシなんか数年ぶりの手料理だったんだから」

 たしなめるフェイス。でも手抜き料理でしょ? と、言いかけたが、やめた。

「さて、メンバー全員揃ったことだし、そろそろいいかな」

 メノウは場を一旦締めくくるように言って、意味ありげに微笑む。

「え? なになに?」

 クキは興味津々だ。

「うん、実はね。この島には……宝物が隠されているんでつ!」

 声高らかに発表するメノウ。メンバーは間を置いて、

「……宝物?」

 と、それぞれに呟く。

 僕はオムライスを頬張りながら、黙ってことの成り行きを見守っていた。

「宝物? なにそれ美味しいの? つーかエロいの?」

「まてまて!」

 シエルの暴走をメノウが制止する。

「ははは。エロってことはないだろう。それで、宝物って一体何です?」

 紅蓮はシエルの冗談を笑い飛ばすと、メノウにたずねた。

「宝物は秘密でつ」

 えっへんと胸を張ってメノウは答える。

「秘密でつ……かぁ、なんだろぉ」

 クキは天井を見上げてぼやく。宝物の中身でも想像しているのだろう。

「ふむ。それで、宝物はどうやって探せばいい?」

 ナゾシンがメノウに問いかける。それは僕も気になっていた。

 宝探しなら、地図か、あるいは何かの暗号文など、必ずヒントがあるはずだ。

「うん。えっと、それはね……。この島のどこかに五つのプレートが隠されているんでつ。それを全部集めて、とある場所に納める。そうしたら、宝物のある部屋に入ることができるらしいお」

「……らしい?」

 僕はオムライスを食べる手を止めて、彼女に疑問符を含む視線を投げかけた。

「うむ。実は私も知らないんだじぇ」

「それだと、発見できなかった場合はどうなる?」

 と、ナゾシン。

「そのときは、宝のありかだけ発表しまつ」

 妙なことを言う。

「え? でも、メノウさんはその場所を知らないんじゃ……?」

 それまで黙っていた白夜がはじめて口を開いた。

「うん。でも四日後にはわかるよ」

 メノウの言葉には、何か根拠があるように見えた。どういうことだろ?

 彼女が自身満々に言うので、メンバーはそれ以上は追求せず、かわりにもうひとつの疑問をメノウに投げかけた。

「えーと。それじゃ、宝探しはメノ姉さんも……?」

 僕が言うと、

「もちろん参加するよ」

 メノウは当然といった風に答えた。

 宝探しには、彼女も参加する。そのために、主催者である彼女自身も宝のありかを知らずにいる。

 もし、宝を発見できなかった場合は、四日後、なんらかの方法で知ることができる。そういうことか。

「宝探しか、それは面白そうですね」

 そう言って、フェイスはグラスの水をぐいと飲み干した。

「オレも、年甲斐もなくワクワクしてきたよ」

 紅蓮は子供みたいに無邪気な笑みを浮かべている。

 孤島で宝探しか。これは面白そうだ。よぅし、絶対見つけるぞお!

 僕はひそかに闘志を燃やしていた。

「それで、姉さん、もっと他にヒントはないの?」

 クキがメノウにたずねる。

「ヒントはありまてん。島の観光もかねてだからね」

「それじゃ、あちこち歩いて回らなきゃいけないわけだ」

 シエルは空になったグラスをテーブルに置くと、両手を頭の後ろに回し、背筋を反らして天井を仰いだ。

「あたしゃここで酒飲めたら十分かな。外あちぃし」

 彼女らしい意見だ。

「シエルがそれなら、外に出なくても大丈夫。ちょうど八人いるでしょ? これから二人ずつでペアを組んでもらうから、相方がシエルの代わりに探せばいいんでつ」

 メノウはそう言うが、それだとシエルと組むメンバーは、ひとりで宝探しをすることになる。まあ彼女と組む相方が納得するなら、それでいいのだが。

「なら、俺はシャドー君と組もう」

 ナゾシンが言った。

「僕?」

 たしかに、年齢を考えるとそれがいいのかもしれない。

「だったら、ワタシはグレンさんと。いいですか?」

「こちらこそ。頼りにしてますよ」

 フェイスと紅蓮。ギルドでも仲の良い二人だ。彼らがペアを組むのは予想できた。

「おうし、それなら私はメ――」

「クキたんはあたしと組もう」

 クキにかぶせるようにして、シエルが言った。

 メノウとクキがペアを組めば、白夜はシエルと組むことになる。となれば、白夜ひとりに宝探しを丸投げするわけにもいかなくなる。そう考えて先手を打ったのだろう。

「じゃあ私は白夜たんとで決まりでつね」

 メノウが言うと、

「あ、はい。よろしくお願いします」

 白夜はぺこりと頭を下げた。

 チーム分けは、次のとおり。

 僕とナゾシン。紅蓮とフェイス。クキとシエル。メノウと白夜のペアとなった。

「であであ、お昼も食べたことだし。ここからは探検するもよし、ここでくつろぐもよし、みんな好きなようにしていいお」

 解散の合図と同時に、メンバーは席を立ち、それぞれに行動を起こした。

 シエルは相変わらずお酒を飲み続け、メノウは食事の後片付けのため、その場に残る。他のメンバーは皆、観光を兼ねての宝探しに出発した。

 ……ならクキと白夜がペアを組めばよかったんじゃ?

 そんな疑問が沸いてきたが、声にするのは控えておいた。

 財閥の令嬢が隠したお宝だ。きっと高価な物に違いない。意地悪いかもしれないが、クキと白夜にはそのままでいてもらおう。それが僕の出した結論だったのだ。

 宝物は必ず僕が頂いてやる。そうでなければ、これまでの僕に対する扱いの酷さも報われない。

 僕は期待に胸をおどらせ、ナゾシンと共に出発した。

 さあ、宝探しのはじまりだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ