6.使用を許可する
「すごいな……」
僕は思わず声を漏らしてしまった。
玄関ホールの天井は高く、内部は吹き抜けの二階建て構造となっていた。
正面の大階段からまた階段が左右に分かれており、一階からでも二階通路が見渡せるようになっている。まるで……というか、これは暗殺ギルドの長が住んでいる、貴族屋敷そのものだ。
僕は、まるでゲームの世界に入り込んでしまったような、そんな感覚に陥っていた。
天井のシャンデリア、正面の大階段に飾られた男性の絵画(ゲームでは初代暗殺ギルドの長という設定)、それから紅い絨毯に手すりの細かな装飾まで、何もかもがゲームと同じだった。
一階には、扉が三つ。
玄関から見て左手にある扉は大浴場に繋がっている。右手の扉は大食堂だ。
もうひとつは正面大階段の裏、食料品や雑貨などの倉庫になっている。
「さて、みんなの部屋割りなんでつけど」
メノウが言った。
メンバーは玄関ホールで荷物を降ろしたまま、彼女の指示を待っている。
「二階に見える扉があるでしょ? あれがみんなの部屋になってまつ。部屋は全部で十あるから、好きなところを使っていいお」
「それなら、男性陣と女性陣で左右に分かれます?」
フェイスの意見にメンバー全員が賛成した。男女四名ずつなら、当然の流れだろう。
「それじゃ、オレは角部屋にさせて貰おうかな。窓から見える景色が綺麗だし」
紅蓮はボストンバッグを背負い、階段を上がって行く。
「あ、ずるいですよ! ここは公平にっ!」
フェイスは紅蓮に呼びかける。
しかし紅蓮は振り向きもせず、片手を上げてひらひらと、
「悪いね、こういうのは早いもの勝ちだよ」
二階通路、左側の角部屋の扉を開けると、ばたりと閉めた。
「まったく、そういうところはゲーム中と同じなんですよねえ……」
ぼやくフェイス。あと残っているのは玄関側の角部屋だけだ。
僕とナゾシンはどこでも良かったので、左手玄関側の角部屋はフェイスに譲ることにした。
「そんじゃ、あたしらも荷物置いてこようか。あ、あたしも階段付近の角部屋がいいな。できるだけ歩きたくないし」
どれだけやる気ないんだよ! と、言いたくなるシエルの希望は、しかしすぐに打ち砕かれた。
「あ、ごめん! そこはもう私の荷物置いてて……」
メノウが申し訳なさそうに両手を合わせる。
「姉さんがそう言うなら仕方ないや。んじゃ、あたしはその隣の部屋でいいかな?」
シエルはクキと白夜に了承を得ると、
「んじゃ、荷物置いてくるね」
と、苦戦しながらもキャリーバッグを持ち上げ、階段を上って行った。
「あの、クキさんはどの部屋がいいですか?」
白夜が尋ねると、クキは人懐っこい笑みで答えた。
「私はどこでもいいお。白夜たんは?」
「えっと、できれば……角部屋が……」
「おっけー。……えーっと、さすがにその荷物を全部持って上がるのは辛そうだよねぇ。おいシャドー、ちょいと手伝ってあげなよ」
「なんで僕ばっかりなんだよっ!」
僕は半ば条件反射に叫んでいた。隣にはナゾシンもいるのに。どうして彼女達は僕の扱いが酷い。
「え、いや、そんな、大丈夫ですからっ」
白夜は慌てて断った。……うっ、そう謙虚な態度に出られると、なんだか僕が悪者みたいじゃないか。
「遠慮するこたぁないさ。シャドーを使用することを私が許可する!」
「クキ姉さん、あんた何者だよっ!」
「私も許可しまつ」
包容力のある笑顔で、メノウも便乗する。
「ふむ、仕方あるまい。許可しよう」
と、ナゾシン。
「あなたたちねぇっ!」
結局、僕は自分の荷物と、白夜の荷物全てを持って上がることになった。