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MMORPG―オフ会殺人事件―  作者: tillé.o.fish
第一章 上陸
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2.ギルドメンバー

 今回はオフ会ということもあって、僕らは互いに本名を公開せずハンドルネームで呼び合っている。

 これが街中なら恥ずかしいが、今回の行き先は無人島なので気にする必要はなかった。

 実際、顔を合わせるのははじめてだったが、気の合う仲間が揃ったのだ。メンバーが打ち解けるのに、そう時間は掛からなかった。

 パラソルテーブルを離れた僕とナゾシンは、歩きながら『UoE』の話題で盛り上がっていた。

 ゲーム中で、僕とナゾシンは“アサシン”を職業にしている。

 同じ職業同士、共通する部分は多い。お互いの苦労を語り合っては「そうそう」と頷き合っていた。

 会話に夢中になっていた僕だったが、デッキの先端で海を眺めている女性に目がとまり、ふと立ち止まる。

 ――シエルだ。

 彼女もこちらに気付いたらしい。振り返ると、軽く手を振りながら軽快な足取りで近づいて来る。

「やーお二人さん、昨日は楽しかったね。……でもシャドー、アンタ昨日は船酔いだから許してやったけど。島に着いたら今度こそ吐くまで飲ませるからね!」

 開口一番、とんでもないことを言う。

「えええええええええッ!」

 ふいを食らった僕は叫び声を上げた。

 実のところ、昨晩のお祭り騒ぎのなか、僕はお酒を一滴も口にしていない。

 理由は彼女の言うように船酔いが原因で断わったのだが。本当は……僕はお酒に弱いのだ。

 しかしそんなことを承知で彼女は僕に言ってくる。

 きっと彼女は、僕が困っているのを見て楽しんでいるに違いない。そういえば、ゲーム中でも彼女は人が困るさまを見て楽しんでいる節があった。

「君も大変だな」

 ナゾシンが涼しい顔で僕の肩を叩いた。まるで他人事だ。

 ……だけどそうはいかない!

 彼のその一言は余計だった。大人しく見ていれば良かったものを……

「ちょ、なにいってるの! アンタは飲めるんだから、記憶がぶっ飛ぶまで付き合ってもらうからね!」

 シエルの言葉にナゾシンをほんの少しだけ眉を吊り上げたが、ふっと息を漏らすと、落ち着き払った声で言った。

「お手柔らかに」

 いさぎよく諦めるその姿は、僕の目に輝いて見えた。



 シエルを新たに加えた僕ら三人は、パラソルテーブルを囲むように椅子に座っていた。

 その話題は、『UoE』での彼女について、だ。

 ゲーム内でのシエルは、赤のローブを身に纏った“魔法使い”だ。

 一口に魔法といっても、召喚や回復、補助魔法など、いつくかの系列があるのだが。彼女は純粋な攻撃魔術特化型である。

 群れをなしたモンスターを遠距離から範囲魔法でまとめて爆殺。単純な火力ならどの職場にも勝っている、パーティーにいればとても心強いキャラクター……なのだが。

 生粋きっすいPKプレイヤー・キラーである彼女は、あろうことかその火力の矛先を僕らに向けてくるのだ。恐ろしいことこの上ない。

 きっとさっきみたいに、いつもモニタの前でケラケラ笑っているのだろうな、そう思いながら、僕は彼女に視線を移した。

 ネットと現実リアルでは多少のギャップがあっていいと思うのだが、彼女の場合はそれを全く感じさせない。

 実年齢を全力で逆走する彼女は、パーソナルカラーであるピンクのタンクトップに、白のミニスカートと、露出の多い服装をしている。それがいやらしく見えないのは、細身でスタイルの良い彼女だからこそだろう。

 本人曰く『実は奥手』だそうだが、それはなにかの間違いだ、きっと。 

 それから二十分ほど話していただろうか。

 昨夜の大宴会でもやはり話題は『UoE』についてだったので、さすがに話すこともなくなってきていた。

 シエルは大きく伸びをすると、

「さすがに海を眺めるのももう飽きてきたなあ。部屋に戻ってパソコンでもさわってようかな」

 けだるそうに言った。

「そう言えば、さっき水を取りに言ったとき、ロビーでクキさんと白夜びゃくやさんを見かけたな。彼女達も暇だと言いながら、パソコンを開いてなにかしていたよ」

 そう言ってからナゾシンは席を立つと、

「喉が渇いたので、飲み物を取ってくる。なにか飲みたい物は?」

 と、僕らに訊いた。

「えっと、じゃあ僕はナゾシンさんと同じで」

「あ、わたしワインね」

「うん。そうそう姉さんはワインで……って、まだ昼だよ! なに平然と頼んでるんだよっ!」

 僕は声を大きくして言った。

「……ふむ。白でいいかな?」

「お、ナゾシンくん、アンタよくわかってんじゃん」

「え? ちょっと! なんでナゾシンさんもそんなノリノリなんですかっ!」

 ひとりツッコミ続ける僕を他所よそに、ナゾシンは船内へと消え、シエルはご満悦まんえつな様子で鼻歌を歌いはじめる。

 まったく、この人はもう……

「それで、シエル姉さんはパソコンでなにするつもりなの?」

 二人きりになったところで、僕はふと疑問に思ったことを彼女に訊いてみた。

「んー……ノートだし、大したソフト入れてないからね。ネットも繋がらないし、なにか適当なゲームでもするか……。それか、飲む!」

「もう好きにして下さい」

 諦めた僕は溜め息混じりに言った。

 酔っ払った彼女は生々しい下ネタを惜し気もなく連発する非常に厄介な存在である。できれば飲ませたくない……のだが、意地でも飲もうとする彼女を止められる気はしなかった。

 僕は彼女から目を逸らし、辺りに視線を泳がせる。

 ――と、僕らとは少し離れた場所にあるパラソルテーブルに、二人の男性が向かい合って座っているのが目にとまった。

 ひとりは体格の良い褐色肌で、黒のタンクトップにデニムのジーンズと、ラフな格好をしている。

 もうひとりは色白で丸々と太っており、汗ばんだ白のTシャツにカッターシャツと、どこからどう見てもオタクです、といった風貌をしている。

 年齢は、どちらも三十歳前後だ。

 僕の視線に気付いた褐色肌の男性が、こちらに笑顔を投げてきた。

 軽く会釈を返すと、彼らは立ち上がり、僕らのほうへとやってくる。

「やあシャドー君、元気そうだね。船酔いはもう大丈夫なのかい?」

 褐色肌の男性が笑顔で僕に言った。

「ええ、まあ……昨日に比べれば」

 僕はやや引きつった笑みで、歯切れの悪い返事をした。

 褐色肌の彼は紅蓮グレン。そして、その隣にいる丸々と太った男性が、フェイスだ。

 ゲーム中での紅蓮は、大剣を得物としている筋肉質の“戦士ファイター”。ごつごつした鎧に身を包み、防御力も高い。戦闘ではいつも最前線で戦っている、切り込み隊長のような存在だ。

 それに対して、フェイスは回復や補助を得意とする“魔法使い”だ。派手さはないものの、パーティーには欠かせない重要な存在である。

 正反対の性質を持つ二人だが、そのキャラクターの相性の良さは抜群だ。

 前線の紅蓮が敵のターゲットを全て引き受け、フェイスが尽きることなく回復の呪文を詠唱し続ける。持久戦に持ち込めば、彼らに倒せないモンスターはいないだろう。

 そんな二人だから、仲も良かった。

 よく二人だけでパーティーを組んでは強敵に挑み、しれっとレアアイテムを手に入れてくる。そんな場面も多々あった。

「で、お二人さん。密会はもう終わったの?」

 と、シエルは彼らを横目に、意味深な言葉を投げかける。そのしぐさや口調が、なんとなく不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。

「密会だなんて、そんな大それた話じゃないさ」

 紅蓮が苦笑しつつ、答えた。

 シエルはふぅんと鼻を鳴らして、その視線を今度はフェイスに向けた。

「大それた話じゃないなら、堂々と話せばいいと思わない? あたしだけ仲間はずれにしてさ」

 なるほど、彼女がひとりでいた理由はそれだったのか。

「ま、まあいいじゃないですか。男にだって、少しくらい秘密があったって……ねえ?」

 困りきった表情のフェイスが、紅蓮に助けを求める。しかし紅蓮は視線を逸らして知らん振りを決め込んでいた。

「ちょ、ちょっと、言い出したのはそちらからなんですから、無視しないで下さいよ!」

 すがるように紅蓮の腕に掴み掛かるフェイス。

「はははっ。すまない、冗談だよ」

 それが面白かったのか、紅蓮は声を出して笑った。

 シエルはそれ以上追求するのが面倒になったのか、けだるそうにテーブルに肘を突き、そっぽを向いている。上手く誤魔化したな、僕がそう思っていた時だった。

 ナゾシンが、まるで計ったかのようなタイミングでお盆を手に戻ってきた。お盆には紙コップが二つと、ワイングラスがひとつ。

「戻ってくる途中、船長さんとすれ違った。もうすぐ島に着くらしい」

 言いながら、ナゾシンはテーブルにお盆を置いた。

「もうすぐって、あとどれくらいかな。見たところ、まだ島らしきものはなにも見えないけど……」

 僕は海のほうを見やりながら言った。早く陸に降りたい。船酔いから解放されたいという気持ちが、僕をかした。

「船長さんが言うのだから、多分、もうすぐのはずだ」

 彼はオレンジジュースの入った紙コップを手に答える。それもそうか。ナゾシンは船長さんとすれ違っただけで、到着時間は訊いていないのだろう。

「なら、オレは部屋に戻って荷物をまとめてこようかな」

 紅蓮はそう告げてから目を細めると、「あれかな?」と、小さな声で呟き、そのまま部屋へと戻って行った。

「どう、シャドー。見える?」

 シエルに訊かれて、もう一度海のほうを見やったが、やはりなにも見えない。

「……いや、なにも」

 僕は首をかしげた。紅蓮カレの見間違えか? それとも凄く目がいいのか?

「まあ船長さんが言っているんだから、間違いないんじゃないかな? とはいえ、島が見えないってことは、まだ数時間は掛かりそうだけど」

 ラリスは日差しをさえぎるように、額に手を当てている。のだが、彼の場合だと、それは遠くを見ているというより、額の汗を拭っているかのように見えるから不思議だ。体が大きい分、僕らよりも暑く感じているのだろう。

「そうかもしれないな」

 ナゾシンは紙コップのオレンジジュースをぐいと飲み干すと、席を立った。

「シャドー君、誘っておいて悪いが、部屋に戻ることにするよ」

「あ、はい。わかりました」

 僕が頷くと、

「ああ、それならワタシも戻ろうかな」

 と、フェイスも彼に続いて、自室へと戻って行った。

 あとに残されたのは、またもや僕とシエルの二人だけ。

 シエルはグラスを空にして「はあ」と息を漏らすと、ぼんやりとした目つきで僕に言った。

「ティレも来ればよかったのに」

「最初は行く予定だったんだけどな……。そもそも、一緒に行こうって言い出したのはアイツだし」

 彼女の言う『ティレ』とは愛称であり、正確には『ティレンド』という。ヤツとはゲーム仲間であると同時に、実際リアルの友達でもある。

「ふぅん、じゃあなんでアンタだけここにいんの?」

「アイツに騙されたんだ。当日駅で待ち合わせてたんだけど、『すまん急用ができた』って、電話が掛かってきてさ。まあ、引き返しても良かったんだけど、なんかムショーに腹が立ってきて……。それで結局、そのまま勢いまかせに来たって感じかな」

 話しながら、思い出すとまた腹が立ってきた。くそう……ヤツめ……。誘っておいて自分が欠席とは許しがたい!

「まー急用なら仕方ないんでない? それにさ、五泊六日の旅行なんて、いくらお盆でもなかなかできるもんじゃないっしょ? ギルドのメンバーだってほとんどが欠席してるし」

 彼女の言うように、このメンバーの他にも招待を受けたメンバーは複数人いる。

 しかし、メンバーのほとんどが社会人なので、さすがに欠席者は多かった。

 これから僕達は島に上陸して四日間滞在する。五泊六日の旅行とはつまり、船で一泊してから、島に上陸して三泊、そしてまた船で一泊して帰るというプランなのである。

「くそう、やっぱり失敗したかな。……船酔いキツいし」

「まだ酔ってるの?」

「まあ、昨日のシエル姉さんよりはマシだけど」

「なんかその言い方、ティレっぽい」

「ッ!」

 ティレンドのことを考えていたせいか。どうやら、ヤツのひねくれた物言いがうつってしまっていたようだ。

「くそっ! これはアイツの怨念か!」

 僕は叫びながらテーブルを両手で叩いた。

「怨念。あはははは! ウケる! 腹痛ぇ!」

 シエルが腹を抱えて笑い声を上げる。笑いすぎじゃ? と思ったが、彼女の頬が僅かに赤らんでいるのを見て、僕は納得した。

「おやおや、お二人さん、盛り上がってるねぇ」

 第三者の声に、僕は振り返る。

 女性が二人、並んで立っていた。――白夜びゃくやとクキだ。

 今、僕に声を掛けてきたのがクキ。彼女はシエルよりも年上で、軽くウェーブのかかったセミロングのヘアースタイルに、白のブラウスとロールアップデニムと、カジュアルな服装をしている。落ち着いて見えるが、茶目っ気のある接しやすい女性ひとで、特にメノウとは仲が良い。

 その隣にいる黒髪のロングストレートの子が白夜。年齢は二十歳前後だろう。

 彼女は黒のドレスに白のフリルがついているゴスロリ衣装に身を包んでいる。見た目のインパクトは凄まじいのだが、彼女は人見知りする性格らしく、メンバーと打ち解けるのにも時間が掛かった。

 ちなみに、白夜とはじめて会った時、彼女はどちらかというと地味な服装だった。今のゴスロリ衣装に着替えたのは船に搭乗した後のことで、彼女曰く『孤島でのオフ会だから思い切って着替えた』とのこと。

 人見知りするわりには、大胆なところがある。 

「ああなんだ、クキ姉さんか」

「ああなんだとはなんだ、失礼なやつだなぁ」

 クキが唇を尖らせる。

 それを横目に、白夜はクスリと笑って、手にしていたビニール袋をテーブルに置いた。

「はい、これ差し入れです」

 白夜がビニール袋から手を離すと、中からごろごろと沢山のアイスクリームが転がり出した。――と、そのうちのひとつがテーブルの端まで転がり、

「あっ!」

 と、白夜が声を上げる。

「っと!」

 僕はテーブルから転がり落ちたアイスを空中でキャッチした。

「おお、ナイスキャッチ!」

 クキが嬉しそうにグッと親指を立てる。

 僕はそれをテーブルに置いて、彼女らに訊いた。

「アイスなんてどこから貰ってきたの?」

「たまたま通りがかったお手伝いさんが『アイス食べる?』ってね」

 クキが答えると、白夜は笑顔で言った。

「そしたら、こんなにいっぱい貰っちゃって」

「なるほど。んで、あたしらんとこに来たってわけね」

 シエルが言うと、彼女らはうんと頷いた。

「そっか。じゃあ、僕はチョコミント味で」

 言いながら僕は目をつけていたアイスを手に取り、カップのふたを取る。

「あれ、シャドー、船酔いしてるのに冷たいものなんか食って大丈夫なの?」

 シエルに言われて、僕ははたと気がついた。

「あっ、そういえば。……でもまあ、いっか!」

 船酔いは怖い。しかし、甘党の僕としては目の前のアイスをほうっておくことなどできやしない。

 それに、見たことのないメーカーのアイスだったのだ。これはきっと、市場では出回っていない高級なものに違いない!

「本当に大丈夫なの? まーいいけどさ。そんじゃ、あたしはバニラにしようかねぇ……。あ、クキたんと白夜たんはどうするの?」

「私はクッキー&ストロベリーかな」

「え、クッキー? クキ姉さんそれネタで言ってる?」

「違うやい! 白夜たんはなににする?」

「えと……それじゃあ、わたしはアップルマンゴーにします」

 僕らはテーブルを囲み、アイスクリームを食べはじめる。おおっ、ミントのさっぱりとした風味とチョコの甘さが絶妙だ!

「そういやぁ、船長さんがもうすぐ島に着くって言ってたみたいだけど、もう島は見えてるの?」

 クキは海のほうを眺めながら言った。

「いんや、まだ見えないよ。もう少ししたら見えるんじゃない? それまで適当に話でもしてようか」

「そうだなあ、ほかにすることないし」

 僕はシエルの意見に賛同した。

 そして、また『UoE』の話題となる。

 クキは“生産”スキルをメインにしている。生産とは、アイテムや武器防具などを文字通り“生産”する職業である。戦闘には向かないが、消費アイテムの生産や貴重な素材を武器防具に練成するといったスキルは、ゲーム中でも非常に重要な役割を果たしている。

 彼女がいるからこそ、僕らギルドメンバーは思う存分モンスターとの戦闘を楽しめるといっていい。まあ戦闘に参加することもまれにあるが、その時はもっぱら後衛から回復アイテムを使用する補助係である。

 一方、白夜は吸血やモンスターの召喚を得意とする“吸血鬼ヴァンパイア”を職業としている。

 彼女はどちらかというと、単身突撃型――ソロプレイでも十分に立ち回りができる柔軟なキャラクターだ。

 攻撃と回復を同時に行う吸血。召喚されるモンスターはあまり強力ではないが、逃走や回復アイテムの使用などの時間稼ぎにはなる。また、攻撃以外の一切の行動が制限されるというリスクはあるものの、瞬間的な攻撃力に優れる獣化スキルを持っている。

 『白夜』という名前はもとから“吸血鬼”を意識してつけられた名前なのだろう。

 銀髪の麗人――白夜とは男性キャラクターなのである。

 はじめて彼女に会ったとき、僕らメンバーは皆一様に驚愕きょうがくした。

 何故なら、彼女はゲーム中、完全に男性として振舞っていたからだ。

 男性が女性キャラクターを演じることは数あれど、まさかその逆があるとは驚いた。

「それにしても、僕は白夜さんが男だって、ずっと思い込んでたよ」

 アイスを頬張りながら、僕は言った。

「白夜たんも、それならそうと言ってくれれば良かったのに。あんときはビックリしたよ、もう」

 クキも、白夜とはじめて会った時のことを思い出したのだろうか。してやられた、といった笑顔で白夜の肩を叩いた。

「ごめんなさい、はじめは気付かれるだろうなって思ってたんです」

 白夜は照れた表情のまま、続ける。

「けど、誰も追求しませんでしたし……。わたしも、ゲーム中はキャラになりきってるほうが楽しくって」

「なるほどね。まーでも、アレの中身が女だって、女のあたしでも分からなかったよ。大したもんさ」

 シエルは指先で摘んだスプーンをふりふりしながら言う。

「うーん。キャラクターになりきる、RPロールプレイかあ。その手もあったなぁ」

 クキがひとりごちると、シエルは驚いたように目を見開いた。

「まさか、姉さんやる気?」

「最近、釣りばかりやってたから、マンネリ化してきたしねぇ。新キャラ作成して私もRPロールプレイしてみようかな」

 クキのぼやきに、白夜はがたりと身を乗り出すと、彼女の手をがっちりと両手で掴んだ。

「そのときはぜひ誘って下さい!」

 突然のことに、僕らは驚いて一様に身を強張らせた。

 クキを見る白夜の瞳はキラキラと輝いている。

「あ、ああ……、うん、ぜひ」

 クキは頬を引きつらせながら、ぎこちなく頷いた。仲間ができたのが、そんなに嬉しかったのかな?

 苦笑する僕の隣で、

「まーあれだ。自由でよし!」

 と、シエルはなんとも適当なまとめかたで話を締めくくったのだった。

 それからも、僕らはくだらない話で笑いあい、楽しいひとときを過ごした。

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