16.盲点
午後 十二時三十五分。
僕のベッドに腰掛けたナゾシンは、おもむろに紙を広げてみせた。
「それは?」
「昨日歩いて回ったのを参考に、地図を描いてみた」
「地図?」
僕は目を丸くしてそれを見た。なるほど、手描きで多少荒い部分もあるけど、ちゃんと地図になっている。ナゾシンの行動力には驚きだ。
「まず、島の中心に『ディグルスの地下砦』」
ナゾシンが紙の中心に指を刺す。簡単に描かれた城の絵に、『ディグルス』と記載されていた。
「なるほど、確かに」
僕が相槌を打つと、ナゾシンは指を動かし、淡々と説明していく。
「砦から南。ここが砂浜、船着場はここ」
「なら、『深淵の入り口』はこの辺りかな?」
僕が砂浜の東側を指差すと、ナゾシンは頷いて答えた。
「うむ。――次に砦の西側。こちらは、ほとんど林で埋め尽くされている」
「『Gigas』の彫像はどの辺りだろ?」
「おそらく、砦のちょうど真西」
「そっか」
「そして、砦の北東に『ストゥーム墓地』がある」
「昨日最後に行った場所だよね。『Asmoday』の墓標が気になるな」
「ふむ。そうだな」
と、ナゾシンは何やら考えはじめた。
「どうかした?」
「……昨日歩いて回った場所のほかに、怪しいところはないかと」
「どうだろう……。僕はこれで全部だと思うけど」
僕らは昨日、この島を時計回りにぐるりと一周した。これまでに挙げた場所以外に、特に目立ったものは見当たらなかった。
「しかし、それでは計算が合わなくなる」
「……?」
僕は小首を傾げてナゾシンを見た。計算? どういうことだ?
「気付かないか? 『深淵の入り口』の扉にあった言葉」
「……えっと、確か、『五つの災い集めよ。さすれば深淵の扉は開かれん』……だったかな」
「その通り」
「それがなにか……あっ!」
そこで僕はあることに気付いた。
「プレートの枚数!」
「うむ、そうだ」
メノウも言っていた。宝を手に入れるためには、五つのプレートを集めろ、と。
『深淵の入り口』にあったメッセージ。五つの災いとは――すなわち、五つのプレートのことを意味している。
「昨日見た限りじゃ、僕らはまだ『Gigas』と『Asmoday』しか見つけてない」
「仮に、そこでプレートを発見しても、二つしかない」
「じゃあ、あとの三つは……?」
「わからない」
ナゾシンは首を横に振った。
「まだ見落としてる場所があるのかな」
僕は地図に視線を落として、呟いた。
「それもわからない。――が、ひとつだけ確実に見落としている場所がある」
「え?」
僕が地図から顔を上げると、ナゾシンはふっと微笑んで、
「ここだ」
人差し指を、ぴんと立てた。
一瞬、意味がわからず、ぽかんと口を開けていた僕だったが。彼の言っていることの意味を察した途端、声を上げて喜んだ。
「そうか! なるほど! 全然気付かなかった!」
僕は、『島に散らばったプレート』という言葉にすっかり惑わされていたようだ。
この『ディグルスの地下砦』にも、何かが隠されているかもしれない!