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MMORPG―オフ会殺人事件―  作者: tillé.o.fish
第一章 上陸
12/36

11.『Asmoday』

 午後 六時十五分。


 空は朱色に染まり、かすかに鼓膜をふるわせる波音が、センチメンタルな気分にさせる頃。

 僕らは、墓地にいた。

 それほど広くない敷地には、十字の墓標が横並びに五基、それが三列と、全部で十五基ある。

 ……それにしても。

 僕は周囲を見渡す。

 墓地を囲んでいる石のブロックは崩れ落ち、そのブロックに刺さっている鉄柵は錆びついている。

 島の建物は完成して間もないのだから、もちろん、それらは演出ということになるのだろうが。

 それでも、怖がりな僕を震えさせるには十分な迫力があった。

「ふむ。『UoE』で墓地と言えば、『ストゥーム墓地』以外にありえない。ここにもなにかありそうだな」

 そう言って、ナゾシンは墓地を調べはじめる。

 僕は、彼とは違う墓標を見て歩いた。

 墓標といっても、特に誰かの名前が刻まれているわけではない。これらは全て、ゲームの世界観を再現しているだけの、ただのオブジェクトに過ぎない。――のだが、その最限度が半端じゃない。

 墓石に付着しているシミ、ひび割れ、それから何者かの引っ掻き跡まであった。

 ――夜に来るのは絶対やめよう。

 僕はかたく決心した。

「あ、そうだ」

 僕はあることを思い出して、周囲を見渡した。『ストゥーム墓地』には、ひとつだけ、特別な墓標が存在している。

 ただのオブジェクトではない、『ストゥーム墓地』のボスキャラクターが眠っている墓標だ。

 予想通り、それはあった。

 墓地の中央には、ひときわ大きい、豪華な造りの墓標が存在していた。他のものとは明らかに違う、見る者に畏怖いふの念を抱かせるものだった。

 近付いて見ると、十字の部分にも細かな模様が刻まれている。これに間違いないだろう。

 僕は、その墓標に刻まれている名を読み上げた。

「えーと、『Asmodayアスモダイ』……か」

 『アスモダイ』は悪魔の王だ。そして、ここ『ストゥーム墓地』のボスキャラクターでもある。

 ナゾシンは僕の隣にやってきて、続きの文字を声にした。

「血を供えよ。さすれば望みの物を与えてやろう」

「望みの物ってことは、ここにプレートがあるって意味ですよね。とりあえず、血を供えればいいってことなんだろうけど……」

 僕はしばし考え込んでから、

「うーん、本当に血を供える、なんててことはないですよね?」

 まさか、と冗談っぽく笑ってナゾシンの同意を求めた。

「そうだと思うが。気になるなら試してみるか?」

「え? どうやって?」

「そういえば、無人島だと聞いて持ってきておいたサバイバルナイフが――」

「お断りします!」

「そうか、残念だ」

「……とにかく、血ってことはないでしょう。たぶん、それに似たなにか。ワインとか、トマトジュースとか……。そんなのでいいんじゃないですか?」

 トマトジュースで目覚める悪魔の王というのも滑稽こっけいだが、まさか本当に血を差し出せなんてことはないだろう。

「なら、どこかにヒントがあるはずだ。なければ、血を供えてみよう」

「だから血はありえないですってば!」

 僕とナゾシンは、さらに墓標を詳しく調べた。が、結局、それらしいものは見当たらなかった。

 この場所でプレートが手に入るのは、間違いなさそうなのだが……

「暗くなってきたな。そろそろ戻ろうか」

 ナゾシンが言った。僕は墓地を調べるのに夢中で、辺りが暗くなってきているのにまったく気付いていなかった。

「そうですね。今日はこれくらいにして、戻りましょうか」

 『ディグルスの地下砦』に戻るころには、もう夕食の時間になっているだろう。

 妙なところにエネルギーを使いすぎたせいか、甘党の僕は急に糖分が欲しくなってきた。

 今晩はデザートに何か甘いものでも食べさせて貰おう。もちろん、温かいコーヒーか、紅茶をセットで。

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