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第一話 序説

 この作品は混迷の一途をたどります。行き先の無い乗り物であります。はっきりとした命題が好きな方はお読みにならないほうが良いかと存じます。

 乱筆になりますが、お付き合いしていただける決意の在る方のみ愛読してください。

 これから私が語るのは、一国の歴史である。

 それは、戦いの歴史であり、また、あらゆる生きとし生ける者の歴史でもある。

 私が語るものは、ほんの一部の世界であるかもしれない。

 しかし、それが後の人々の口の端に残るのであれば、それだけで本望だ。

 この史実を残すことが良いことなのか悪しきことなのか、いまの私には判断出来ない。

 このことで命を落とすことにもなるかも知れない。

 だが、私は包み隠すことなく、知りえた全てを書き記す。

 私亡き後も、私と同じ途を歩み来るであろう者を信じて…。



 第一章  小さき差別 (1)



 変化は常に『異端児』からもたらされるものではない。強いて言うなれば、小さな脈動が次第に大きなうねりへと波及するようなものである。

 過去の史実に鑑みても、そのことは当然のように反芻されてきたのだ。


この町『ドメア』に起こった変化も、ただ日常の小さき変化にしか感じられなかったろう。


 ドメアは、港町から数キロほどの交易街である。

 その夜、起こったのは、町外れに在る酒場でのつまらない酔っ払いの喧嘩にしかみえなかった。ただ、喧嘩の当人が、人間と亜人であっただけである。

 亜人…それは、人間とは異なる人間のこと。

 身体は人間と形状の同等であるのに、頭部が猛獣であったり、爬虫類のものであったりと、多種多様である。筋力もそれに習うのか、豪胆なものから脆弱なものまで色々である。

 亜人は、決して稀な存在では無い。

 起源は計り知れなく遠い。

 生まれ方も特殊であることも無い。

 史実によれば、健全な母親から虎の顔を持つ少年が産み落とされたのは、今から千年も前のことであるし、現在に至れば混血も相まって、あらゆる物が生み出されている。

 しかし、生まれ出でるのは決まって健全な人間の両親からで、決して亜人と言われる者同士が結ばれることによって生み出される者は健全なる人間であることは特筆しておくべきだろう。

 つまり『亜人』とは健全な人間の両親から産み落とされた、人間とは異なる形状をした者達であり、人間と変わらぬ存在なのだ。

例外はある。片親が亜人であった場合は、亜人が生み出されることがある。しかし、その危惧も数パーセントであって、決して人間では無い者が生み出されるものではないのである。

 人間同士の、自然発生的なものから比べれば、亜人の出生率は極めて低いと言える。


 その夜、喧嘩の原因は定かではない。ただ、トカゲの頭部を持つ男と人間の頭部を持つ男が、罵声を浴びせつつつかみ合いになった。

 まわりとて、いつもの喧嘩くらいにしか考えず、互いを煽るように騒いでいたのも確かだ。

 決定的な違いは、人間の頭部をした男が、差別意識を極端に持っていたことくらいであろう。

「この化け物め!!」

 響き渡る怒声に反応したのは、亜人達であった。

 常日頃から自分達は人間とは一線を引かれている様な意識はあったろう。それがまざまざと言葉にされては、意識の内面でくすぶっていた劣等感を刺激しないわけはない。

 途端に酒場にいた全員を巻き込む乱闘になった。

 乱闘はその夜遅くまで続き、朝方には建物を破壊するまでに至った。

 世に言う『亜人革命』の発端でもある。

 この日を境に、亜人は人間を憎み、人間は亜人を忌み嫌い、住める場所を分かちながら暮らす。亜人達は自らの都を築き、人間達も亜人を追放するようになった。各地で小競り合いが繰り広げられ、大きな戦争にこそならぬが、一触即発の状況はどこにでもある導火線に成り得ていた。

 そんな中、自然発生する子供にまで、その争いは波及することとなる。

 前述した通り、亜人は人間同士の方が生まれ出で易い。結果、人間の都で亜人が産み落とされることとなり、その子は有無も無く生まれ出たその日に都の遠方に追放される。逆に、亜人同士の子供は人間である可能性の方が高い。そこでも、人間の都と同じ運命が繰り広げられるのである。

 そんな時代が数十年…孤児や餓鬼が跋扈する世界に成り果てるのも、不思議なことでは無いだろう。

 世は歪み、不確かな呪術や魔法などといったものまで生み出され、世界は混沌としたものになりつつあった。

 何か切っ掛けさえあれば、人間と亜人は世界の終焉まで争うことは必須であろう。

 この世界に調和というものなど有り得ない…。


 しかし、変化は『異端児』から生み出されるものでは、決して無い。

 遠き亜人の街「ディエル」で、この混沌の世界を変える一筋の光明が輝こうとは、誰も予想だにしないことであったろう。




                                       つづく









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