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サイコキラーは極悪異世界に転生する  作者: 結城 からく


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1/2

前編

 目が覚めると、一面が灰色の奇妙な世界にいた。

 しかも老いた肉体が若返っている。

 この感じからして二十代――およそ五十年前の姿だった。


 衣服は紺色のシャツに黒いズボン。

 スニーカーは愛用していたスポーツメーカーのものだった。

 気に入っていた野球帽もしっかりと被っている。

 若い頃の普段着がすべて揃っていた。


「……夢か?」


「いいえ、現実ですよ」


 振り返ると白い衣服を纏う金髪の美女が佇んでいた。

 海のように澄み切った碧眼はしかし、僕を咎めるように鋭い。

 僕は冷静に話しかける。


「あなたは?」


「私は裁きの女神……老衰したあなたの魂を修羅へ送るために呼びました」


「修羅?」


「極悪人の魂だけが集められる閉じた世界――互いに殺し合って魂を磨り潰すための地獄です。死んでも他の世界に抜け出せず、生前の罪を悔いながら消滅していただきます」


「ほう……それは物騒だ」


 どうやら僕が老衰で死んだらしい。

 さらに死後の魂がよく分からない世界へ飛ばされるのだという。

 荒唐無稽な話は普段なら信じる気にもなれないが、自称女神から嘘は感じられない。

 これがとてつもなく精巧な夢でもない限り、いずれも真実と見なすべきだろう。

 僕は記憶を遡り、この状況に適した表現を思い出す。


「いわゆる異世界転生ってやつだね」


「知っているのですね」


「老いぼれでも多少は流行を把握しているものさ」


 僕が微笑んでみせると、女神は眉間に皺を寄せる。

 彼女は嫌悪感を隠すことなく言った。


「そうして余裕ぶっていられるのも今のうちです」


「賭けてみるかい」


「……何ですって?」


「僕が修羅とやらで情けなく野垂れ死ぬか、賭けてみないかと言ってるんだ」


 次の瞬間、女神の顔に激しい怒りと憎悪が差した。

 彼女は私に向かってサムズアップし、その上下を反転させる。

 そして僕の提案に答えることなく宣告してきた。


「――あなたの悲惨な末路を楽しみにしています」


「それはどうも」


 視界が闇に染まり、落下しているような感覚に襲われる。

 どうやら説明は終わりらしい。

 僕は修羅へ落とされたようだった。


(極悪人だけの世界……面白そうだな。殺し放題なんて、地獄ではなく天国じゃないか)


 期待に胸を膨らませること暫し。

 暗闇に染まった視界が切り替わり、僕は大地に着地した。

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