タオルの行方 【月夜譚No.378】
干したタオルがない。
今朝、確かに洗濯をして部屋干しにしたはずなのだが、室内用の物干し竿にかかっているのはハンガーだけで、肝心のものが影も形もない。床にも落ちていないし、念の為に洗濯籠や洗濯機の中も覗いたが、どちらも空だった。
彼女は首を傾げてもう一巡同じところを見て回るが、当然結果は変わらない。まさか、煙のように消えてしまったということはないと思うのだが。
不思議に思いながら時計を見上げ、一度タオルは諦めて夕食の支度をすることにした。暫くしたら、腹を空かせた家族が帰ってくる時間である。
しかしどうにも気になって、料理に集中できない。彼女は鍋に火をかけると、少しだけリビングを見てみることにした。
「――あ」
先ほどは気づかなかったが、ソファの下から何やら白いものがはみ出している。身を屈めてそっと覗くと、タオルに包まったサバトラの毛並みが気持ち良さそうに上下しているのが見えた。
どうやら、飼い猫が何かの拍子に床に落ちたタオルをソファの下に引っ張り込んで昼寝を決め込んでいたらしい。彼女は飼い猫がいつものように何処か物陰で眠っているとばかり思っていたから、そんな考えには及ばなかった。
タオルが見つかってほっとすると同時に、可愛い悪戯に笑みが零れる。彼女は音を立てぬように、キッチンへ戻るのだった。




