09 道具と音の魔法その一
「創一さん、ありがとう」
「良いってことよ」
時刻が十九時を迎える前、俺は創一さんから制服を受け取っていた。
紙袋に入った、綺麗に折りたたまれた新品さながらの制服。
ボロボロになった制服を、創一さんに直してもらったのだ。
このお店では道具を作るが、服の直しはやっていない。それでも、学校の制服を一から作ってくれたのが創一さんで、頼めるのも創一さんしかいないのだ。
「にしてもな、あのボロ跡……お前、さては魔法を内側で使ったな?」
黒髪に白髪が混じったカールパーマの前髪をくしゃりと手で上げながら言う創一さんは、全て見抜いているのだろう。
魔法から身を守るためとはいえ、俺は確かに魔然を鎧のように纏った。
……制服のボロ傷を直すだけで理解するとか、この人は新手の変種か?
「じゅん、別に魔法を使えない訳じゃないんだ、使い方さえ間違えなきゃお前は立派なんだ。自信を持ちやがれ」
「……化け物じみた師匠に言われたくない」
「師匠じゃない、創一……いや、そうちゃんと呼べ」
「断る!」
「断るな!」
創一さんと引かずの距離だった時、お店のドアが開いた。
そして瞬く間もなく、視界には透き通るような黄緑色の毛先が見える。
「おっ、咲月ちゃん、いらっしゃい」
「咲月、いらっしゃいませ」
「えへへ、また来ちゃった」
顔の下で小さく手を振る咲月は、このお店に来たかったのだろうか。
それとも、俺に会いに来てくれた……なんて、妄想をするのは良くないよな。
珍しく事務室に戻らない創一さんを横目に、俺は咲月を見た。
「咲月、今日はどうしたの?」
「ま、まあ……純星が心配だから、様子を見に来た感じ?」
もじもじとした様子で、それでいて上目遣いで見てくる咲月は、一体何を考えているのだろうか?
咲月に呆れかけていると、咲月は俺の持っていた紙袋を覗いてきた。
「あっ、制服! あんなにボロボロだったのに、こんな綺麗になったの!?」
「うん……まあ……」
俺が歯切れに悩んでいると、創一さんが横腹を肘でグイグイと押してきた。
グッ、と手を出したげに見てくる。
つまりは咲月に、誰が制服を直したのか教えろ、と言いたいのだろう。
俺は別にそこに戸惑いはないので、ため息混じりに咲月を見た。
「創一さんが直してくれたんだ。それと、作ってくれたのも創一さんだよ」
「え!? そうさん凄!」
キラキラした瞳を創一さんに向ける咲月に対し、だろう、と満更でも無さそうな表情を浮かべる創一さん。
やっぱり、この人は褒められたいのだろう。
「……嬢ちゃん、いや、咲月ちゃんもじゅんと同じで、魔法陣を介さない縛りを持ったタイプだな?」
「な、なんでわかるんですか……」
「創一さんは帝国の人が一目置くほど、相手を見抜く力が強いんだよ」
創一さんは、父親の友人らしいが、詳しくは分からないほど謎に包まれている。
分かっているのは……反響定位に、相手の魔然から魔法を見抜く才能があるってことだ。
そのおかげか、このお店が道具店として続けられる理由でもあるのだろう。
「おい、じゅん」
「はい」
「今すぐ店の門を閉めろ」
「……え?」
まだ十九時前なのに、本当にこの人は唐突だ。
何を考えているか理解できないではなく、突拍子もないルールブレイカーすぎる。
「咲月ちゃん、時間はあるかい?」
「え、はい。純星と帰りたいですし、夜だから」
「ならよし。じゅん、さっさとしろ。咲月ちゃんに作業場を見せるぞ」
「……はあ。了解」
創一さんは、咲月の才能を、魔法を認めたらしい。
以前は俺関連で手を出す気はなかったようだが、今回は時間もあって、距離も理解できたから容赦はないようだ。
まあ、咲月は振り回されているせいで、不明そうに首を傾げているが。
「……? 作業場? 私が入っていいの?」
「ふん。咲月ちゃんには特別、この店の秘訣と、魔法陣を使わない音の魔法を見せてやんよ」
「なるほど! つまりは新たな音を混ぜて、反響と調律を願うと!」
「いいセンスだ」
ちゃっかりと咲月を指差しながら決めポーズをする創一さん。
本当に、この人と咲月は混ぜるべきじゃない。
「じゅん、突っ立ってないで閉めてこい! お前も彼女に道具の作り方を見せんだよあくしろ!」
「はいはい」
「純星、私といる時よりも下に引かれてるね」
咲月にかっこ悪いところを絶賛見せているので、作業場で挽回したいものだ。
俺は咲月を待たせないように、閉店作業へと向かった。




