05 風の魔法その二
「ありがとうございました!」
この日の学校終わり、俺はバイトに勤しんでいた。
高校一年生の初めとはいえ、先に社会見学をしておきたいというエゴで始めたバイトも、文武両道を極めるには十分だろう。
時刻が十九時前になった頃、お客さんがドアから出るのを見送ると、後ろから声がした。
「随分と手についてきたな」
「師匠の教えのおかげですよ」
「師匠じゃない、創一と呼ぶんだな」
呼び方を強制してくるこの殿方は、バイト先の店長である創一さんだ。
白髪の混じった黒色の髪。カールパーマでダンディな雰囲気を漂わせているのが特徴と言える。
長袖ワイシャツを着ては、うちから溢れ出る筋肉質で、かけたメガネとのギャップが凄い師匠とも言える。
まあ、師匠なのは別の意味が大きいのだが。
「じゅん、お前また魔法をさらけ出さないで怪我したな?」
「何の話ですか?」
「とぼけたって無駄だ。お前のその指、最初は火傷、今度は鋭利な切り傷……つまりゃあ、風の魔法で怪我をしたな」
この人は、人を見る目だけで言うなら、変態だ。
怪我した指には未だに絆創膏が巻かれているが、絆創膏の上から傷を見抜くとかどんな視力をしているのだろうか?
ゲラゲラ笑う創一さんに、思わずため息をついた。
「はいはい怪我をしましたよ」
「じゅん、いい加減、他のやつが見てても魔然……魔法陣を媒体としない魔法を見せてもいいんじゃないか」
魔然……ゲームで言うところの魔力やエムピーに当たるものだ。
創一さんは、俺の魔法が他の人と違うこと……いや、創一さんも他の人と違う魔法を使える師匠だから、自信を持てと言いたいのだろう。
俺はそんな創一さんの大きな器を見て、思わず宙を見た。
「おっと、話も程々だ。残り半で閉店だが、客が来るのは珍しいな」
「お客さんの気配を感じるのはいいけど、少しくらい声を小さめで言ってくれません?」
創一さんの度胸や態度は見習いたい反面、当てにならないことが玉に瑕だ。
創一さんはそう言って、事務室へと消えていった。
しばらくすれは、お店のドアが音を立てて開いた。
「いらっしゃ――さ、咲月……!?」
「や、やあ……来ちゃった」
ドアから入ってきたのは、透き通るような黄緑色の髪を持った彼女――咲月だ。
咲月にバイトが多くなるとは言ったが、まさかバイト先にやってくるとは予想できたものではない。
とはいえ偶然か必然か、このお店は十九時以降から半の間の営業時間はお客さんが閑古鳥なので、俺的には気休めになるが。
バイトは二十時までだが、お店は十九時半だからこそ、少々悩んでしまう。
それは咲月がこの夜の時間に一人で来たのもあって、家に送ることくらいはしたいからだ。
大事な存在に不本意な事が起きるのは、俺自身で防ぎたいからな。
「へー、ここって色んな道具を売ってるんだね」
咲月は俺の心配を気にも止めた様子を見せず、店内を見ていた。
店内はこぢんまりとしているが、ここは魔法を帯びた道具を扱っているお店だ。
日常品から工事用具、農業用具までと、広い取扱いが魅力と言える。
と言っても、日常魔法を使える者からすると、このお店に存在意義は見いだせないだろう。
「まあ、殆どは師匠の手作りだから、そこら辺よりは揃ってるかも?」
「もー、なんでバイトしてる純星が疑問気なの?」
咲月は頬をふくらませ、レジで脱力をしていた俺に近づいてきた。
……穏やかなワンピース姿、正直破壊力が高めだ。
咲月の体型がいいのもあるが、最近意識しすぎているから、余計に可愛く感じてしまう。
俺は思わず、自分の頬をつねった。
「ふふ、純星ってたまに突拍子もない行動をするよね」
「うっせぇ」
「おっ、その子がじゅんのよく話している子かい」
後ろから嫌な声が聞こえた。
「嬢ちゃん……いや、広芽咲月ちゃん初めまして、俺はこの店の店長、創一だ。そうたん、そうちゃんとでも呼んでくれ」
「師匠、流石にそれは苦しいです」
「初めまして。純星の彼女、広芽咲月です! そうさん、純星がいつもお世話になってます」
いつから咲月は彼女になった?
「くっ、じゅんに彼女か……青春だな」
「彼女じゃないから。咲月は幼馴染って話してますよね」
「純星、今日は店じまいだ。閉店作業をしてこい」
「……師匠??」
咲月を視界に入れた瞬間、この人はまだ十九時ちょっとなのに閉店指示を出してきた。
創一さんはルールを破る者を嫌う。だが、どちらかと言えばこの人が一番常識を覆している。
「えっと、それじゃあ、私はこの辺で……」
「咲月ちゃん、じゅんが戻ってくるまでここで待っておきん。じゅん、ちゃんと幼馴染を送ってやれよ。新しい風が呼んでいるんだろ」
「なるほど、つまりは純星に風の魔法をそうさんは教えていたんですね!」
「だろだろ」
「……なんだこいつら」
新しく破ることを風の魔法と呼んでたまるか。
俺は創一さんの圧のある視線を受け、閉店作業をしに外へと向かった。
その間、混ぜるな危険の二人が出会ってしまったことに後悔しながら。




