表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する幼馴染と魔法のような時間  作者: 菜乃音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/43

41 傷つけない魔法〜繋〜

 お昼を食べ終えてから、俺は咲月とリビングのソファに座っている。


 見渡す限り、生活感のない、この家の世界で。


 でも俺はこの世界で、咲月が居てくれるおかげで生きている。


「純星、思いに更けてるね」

「……仕方ないだろ」


 思いに更ける。今までなら俺はしなかったことだ。

 未だに凍りついたままの過去があるようで……立ち止まりたくないから。


 ふと気づけば、太ももに乗せていた手の甲に、小さな手のひらが触れている。

 隣を見た。すると、咲月は緩やかに笑顔を浮かばせていた。


 白色のワイシャツブラウスに、スカートの組み合わせを着ている……咲月の姿が眩しかった。

 眩しかったんじゃない。今の俺が、暗闇に落ちかけていただけだ。


 重なった手のひらから感じる熱を帯びて、俺は軽く頬を緩ませる。


「咲月」

「純星」


 名前を呼んだ。

 慣れ親しんだ、お互いの名前を。

 命を与えられてから、同じ時間を多く過ごす、その愛しい名前の響き。


 リビングに差し込む光は、咲月をより鮮明に輝かせている。


「俺の魔法――傷つけない魔法の最終地点にしたい。だから、また、指に絆創膏を巻いてくれないか」

「怪我をするの前提で?」

「違うよ。最後にするためだ」


 咲月はまるで予想していたかのように、胸元から、絆創膏を一枚取り出した。


 ……あの、どうして胸元から取り出しやがりました?


 雰囲気的にシリアスだと思ったが、そうでもないようだ。


 とはいえ、ブラウスをはだけさせなかっただけマシだろう。


 咲月は温もりのある絆創膏を、俺の右手の人差し指に巻いてくれた。


 この傷跡は、傷跡じゃない。

 この跡は今までを繋ぐ鎖だ。


「ありがとう」

「感謝されるようなことはしてないよ」

「咲月は大胆だけどな」

「そっちの方が、純星は意識するでしょう」

「言えてる」


 きっと、咲月は気づいていない。

 この後の全てが終わったら、気持ちを言葉にするなんて。


 咲月を意識しなかったことは……一度もないから。

 ずっと、優しさで満たされない、足りないものを、咲月は背負ってくれていたから。


「咲月。今、俺の思う、デート場所を用意してもいい?」


 独りよがりは、つまらない。

 微笑むように言えば、咲月は静かに笑みを浮かべていた。


 俺は俺で無くなるようだ。でも、それは俺自身が俺じゃなくそうとするんじゃなくて、俺を生み出すための魔法。


 指に巻かれた絆創膏が、魔法を思い出させてくる。


「純星」

「何?」

「……私は傍にいる。だから、純星の好きなように、魔法を使って」

「うん」

「大丈夫。私が回復させてあげるから」


 俺は咲月を信じた。


 寄り添う咲月に意識を割きつつも、二人で座るソファを中心に、俺は手のひらを上に向けて広げた。


「傷つけない魔法。それは、傷つくことを恐れない、未来へ歩むキセキだ。覚めない夢があっても、捧ぐものは、届くものは、大切な人のために」


 俺はただ、送るものへの気持ちを込めた、言霊を口にしたんだ。


 体内から血のように湧き上がる魔然は、枯渇することを忘れたように、俺を媒体として波紋を広げる。


 手から広がる魔法。

 生活感のなかったリビングに、草木を創生し、緩やかに吹く風を暖かく再現。


 風に揺れれば、蕾は目を覚まし、花を咲かしている。


 窓辺から差し込む日差しを頼りに、ソファの周りは自然の世界へと包まれていた。


 生成された草花や、数本の人並みの高さある木々は葉を擦って音を鳴らしている。

 生きているようだが、これはあくまで再現だ。


 質感に音、挙動は全て、俺が感じてきたもの――今までの繋がり。


 ふと咲月を見ると、驚いたように目を丸くしていた。

 それでも見惚れるように、柔らかい笑みを浮かべている。


「どうかな? 魔法の消費もなく、持続的に再現した自然なんだけど?」

「デートの最後には素敵だよ、純星。私、純星のこういう発想、好きだよ」


 弾むようにそう言って、頬を指で突いてくる咲月は微笑ましいものだ。


「純星、川を再現したりできるの?」

「咲月の望むままに」


 目の前に広がるは、丸み帯びた茂みや奥行きに見える木々。

 その間を通すように、水の線を空に描く。


 水の魔法……前は掃除に使ったけど、こうして川を再現して、人の心を満たすことだってできる。


 再現された川は、地面を模した床を沿うように、透明に光を持つ白線を帯び、丸い光の粒を浮かしていた。

 透明なのに、耳をすませば聞こえてくるは川のせせらぎ。


「これで完成かな」

「純星の魔法……久しぶりに見たよ」

「……久しぶり?」


 俺は咲月の言葉に疑問を覚えた。

 それでも今は疑問を覚えるだけで、深く聞く気はない。


 咲月とのデートに、水を差したくないから。


「持続的に再現してると、魔然もそうだけど、体力の消費も激しいよね」

「あー、これはあくまで再現だよ。だから、気にしないで自然を感じるといいよ」


 とは言え、生成した自然で感じられるのも限界はある。


 いくら咲月が無邪気と言っても、そこまで幼くないのだから。


 揺れる草花に、流れ続ける川の音。

 その自然の音が今は心地よかった。


「ねえー、純星」

「どうしたんだ?」

「純星は、どんな私でも受け止める?」


 咲月の質問は愚策だ。

 こんな自然を咲月のために作っておいて、受け止めない理由はないのだから。


「うん」

「ふふ、よかった」

「ちょっ!? 咲月!?」


 咲月は何を思ったのか、いきなり立ち上がった。

 そんな咲月に、俺は何故か声を上げている。


 ――期待した。そんな自分が居たということだ。


 前屈みで俺を見てくる咲月は、後ろに映る木々や川の光も相まって……俺だけの妖精に見える。


 仕草が強調するそれは、どうしても膨らみある方に目が落ちてしまい、咲月の虜にされているようだ。


「純星は、やっぱり……触れたいの?」


 思わず、頷いてしまった。

 咲月に幻滅されるかもしれない、と頭にはよぎっていた。

 だけど俺は男だし、ここまで妖艶な瞬間を我慢し続けると、流石に限界だってある。


 咲月は少し驚いたように目を丸くしたが、それはすぐに笑みへと変わった。


「今はだめだけどね……早いうちに、触らせてあげる」

「小悪魔め」

「小悪魔じゃないよ、咲月、だよ」

「知ってる。咲月」


 咲月は咲月だし、俺の唯一の幼馴染で、想いを馳せる存在だ。


 束の間の自然が騒いだ時、俺は目を見開いた。


 ……どうして!?


 咲月と近くなった距離――唇が重なっている。


 呑み込む息すら忘れるほどに熱い。

 瞳を閉じた咲月に、重ねられた小さな手。


 俺はただ、咲月を動揺しながらも受け入れていた。

 離れない唇の熱が、今もまだ張り付いている。


「……!?」

「……純星」


 唇が離れれば、妖艶な甘く柔い声で俺の名を呼ぶ咲月。


 間には透明な線が伝い、先ほどまでの瞬間を焼き付けさせてくる。

 視線を辿らせれば、艶のある薄桃色の唇が鮮明になり、俺の鼓動を掻き立てる。


 肌を風が撫でると、透き通るような黄緑色の髪が揺れた。


「……どうして……俺なんかに?」


 咲月の重なった手に、力が籠った。


「――純星が、ずっと好きだから」


 芯のある声で言った咲月に、俺はただ意識を奪われたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ