表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する幼馴染と魔法のような時間  作者: 菜乃音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/43

04 風の魔法その一

 傷つけない魔法を試す前から、咲月との距離はどこか違ったんだ。

 咲月は幼馴染で、それ以上でも、それ以下でも……いや、俺の両親が離れて暮らすことになってから、咲月はよくおせっかいを、料理や掃除を手伝いに家に来ることが多くなった。


 生活の時間に咲月がいるだけ、だったのに、今じゃこの魔法を咲月に使い始めている。

 俺は、咲月に何を思っているんだろうか。


 授業中、俺は指に巻かれた絆創膏を見て物思いに老けていた。

 無論、気を抜いていたせいで、音速を超えるチョークが額に飛んできたのはまた別の話だ。


「咲月、ごめん」

「純星、どこか丸くなった? も、もしかして、私の下着姿を見たのまだ気にしてるの……?」


 頬を赤らめて見てくる咲月は、一体何を想像したのだろうか。

 想像してない、と言いたげに頬を膨らませるので、さりげなく心を読んでいるようだ。


 俺は呆れて首を振った。

 今日はバイトがないのもあって、学校が終わってすぐに家に帰ってきていた。


 案の定というか、今日も学校で俺がからかわれていたのを咲月は知っていたようで、俺の指先に絆創膏を巻いている。


「純星、人に自分を大事にしろ、って言っておいて魔法で怪我するの多いよね」

「……仕方ないだろ」

「分かってる。純星の魔法は傷つけない程に温かいのに、それでいて自分が傷ついちゃう、不可思議な魔法だってことくらい」


 丸くなった、って言ったけど、咲月の方が丸くなったんじゃないか?


「純星、今私のこと太ったって思ったでしょう」

「思ってな――いだぁい!」

「傷口に塩を塗ったら治るかな?」


 さりげなく怖いことを言わないでもらってもいいか?


 俺の指先は、絆創膏が二つ巻かれている。

 今日の怪我と、昨日の怪我。

 それなのにどこか誇れるのは、咲月のおかげだよな。


 絆創膏の上からとはいえ、切り傷のある指先を握るのは鬼か何かかな?


 俺の反応を見て楽しむ咲月には困ったものだ。


「そんな危なっかしいことしないで、俺は咲月の魔法で回復してもらった方が早いと思うけど?」

「……純星には、絶対に使いたくないから」


 息を飲み込んだ。


 咲月は薄らと光を帯びた黒い瞳で俺を見てきている。

 さっきの声は冷たくて、拒絶しているようだった。

 表情が曇った咲月に、かける声が見当たらない。


 俺は、咲月を傷つけたのか……。


「ご、ごめんね、急に……怒ってるとかじゃなくてね、純星にはそのままでいてもらいたいから」

「まあ、咲月がよく深く考えてる事は知ってるのに、俺の方が安易で悪かった」


 咲月に頭を下げると、咲月は手を横に振っている。

 許してくれたのだろうか?


「私は、そういう純星の素直さ嫌いじゃないよ」

「咲月はお気楽だよな」

「むむっ、それは私が軽い女って言いたいの?」

「言ってないから!」


 咲月は本当にどこまで考えているんだ?

 考えが読みにくいにしろ、深く考えすぎな一面は、咲月の良いところで、悪いところでもあるんだよな。


「褒めるか貶すか、どっちかにした方がいいよ?」

「さりげなく人の心を読むなよ」


 読んでないよ、とお決まりの言葉を返してくる咲月は微笑んでいた。


 咲月と座る、リビングのソファ。

 生活感のない、ただ広いリビングなのに、心の中で強がる自分に勇気をくれるようだ。


 風の通らないこの空間に、まるで咲月が風を循環させているようで、受け入れることを恐れない俺自身にむず痒さを感じているのか。


「……てか、咲月、俺の家に居すぎるとお前の両親が心配するんじゃないか?」


 咲月は学校が終わって早々、俺の家にやってきた。

 咲月は、飾り気のないシャツとズボンを身につけている。元が良いからか、そんな服装ですらも可憐に見せてくるんだ。


 キャミソール姿じゃないだけマシと言える。


「大丈夫大丈夫! 純星の家に行くって言ってあるし、私の両親も純星のことは気に入ってるからね」

「なんだよそれ」

「それよりも純星、さっき鼻の下伸ばして、何を想像してたの? も、もしかして、私を襲おうと!? け、けだもの!!」

「落ちつけよ!? 別に、咲月を襲う価値ないだろ」

「それはそれで傷つくよ……?」


 うるりとした瞳で見てくるのは、心に刺さるものがある。


「……えっと、昨日の咲月の姿を思い出したというか、あまりにも刺激的だったから」

「やっぱり忘れてないじゃん!」

「仕方ないだろ! これでも俺は男なんだから!」

「純星、そういう感情、私以外に向けたら駄目だよ……まぁ……欲求が溜まりすぎたら、一肌脱いであげないことはないかな」

「本当に困ったら……頼るよ」

「なんで本気にしてるの!?」


 様々な感情を咲月以外に向ける相手がいるなら、俺は幸せものだろう。

 そもそも、咲月以上の関係を他の女性に望むことは確実にない。


 この県だけ……魔法を使える者の間で帝国(ていこく)と呼ばれる場所で、異質な俺にとっては、咲月と両親、バイト先の店長だけが拠り所なんだから。


 他の県では魔法は使えないし、魔法の存在は認知されていないから、この時が俺は好きなのかもしれない。


「そうだ、咲月」

「うぅ、どうしたの?」

「ここ数日はバイトで遅くなるから、その間ご飯は気にしないでくれ」

「……バイト、ね。うーん、気にしないでて言われると気になる! だって純星、夜ご飯食べずに寝ようとしたよね……」


 なんで咲月は最初に含みを持たせた?

 咲月が納得したならいいが、どこか違和感を覚えた。


 勝手に納得したと受け取っているが、咲月は頬を膨らませて俺を見てきている。


「じゃあ、純星が私に魔法を試してくれるのも先になるのかなー」

「なんで残念そうなんだよ?」

「だって、純星の魔法受けてみたけど、私はとても好きだったから」

「か、簡単に好きとか言うなよ」

「嫌だねー」


 受け入れることを恐れない咲月は、本当に気ままでありながら、心強さを感じさせてくる。


「そろそろ時間だし、ご飯作ってあげるね」

「いつもすまない」

「気にしないで、私が純星のため……好きでやってることだから」


 咲月が前を通り過ぎると、温かな風が肌を撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ