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恋する幼馴染と魔法のような時間  作者: 菜乃音


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34 花や木の魔法その四

 魔法を試す。それは恒例行事のように、俺と咲月の間では一つの繋がる日と言えるのかもしれない。


 この日の夜、俺は咲月とリビングにあるソファに座っていた。


 チラチラと横目で見てくる咲月は、そわそわした様子だと見て取れる。


 ……今日の魔法で、咲月が傷つくことはないもんな。


 咲月には勘違いしてもらいたくないから、あらかじめ造りものの花や木になるとは伝えてある。

 咲月は元から知っていたのか、早まらなくてよかった、とため息を吐いていたが。


「純星、緊張してるの?」

「お前の方が緊張してるだろ」

「お前じゃなくて、咲月か……うーんうん、咲月って呼んでほしいな」

「何度でも呼んでやる。咲月」


 咲月はハニカム笑みを見せた。

 油断したら、咲月の笑顔には吸い込まれそうだ。


 笑顔もあるけど、服装も目を奪われてしまう。


 咲月は相変わらず、ルーム姿……キャミソールにショートパンツで、肌の面積の方が多い。


 とはいえ、成長しているものもあるんだから、ちょっとくらいは羞恥心を覚えてくれないですかね?


 透き通るような黄緑色の髪も相まって、咲月を見るだけでも心拍数は上がりそうだ。


「ふふ、ありがとう。でも純星、鼻の下伸ばしちゃって、欲情してる?」

「……人の心をさりげなく読むな」

「今のは読んでなかったでしょう? 純星は顔に出やすいから、私は安心できるんだよ」

「そういうものなのか?」

「そういうものなの。私のためだけに、魔法も使ってくれれば嬉しいんだけどね」


 どこかもの寂しげな咲月。

 言葉が見当たらない俺は、成長できていないよな。


 視線を少し下にしていた咲月に、俺は声をかけることもなく、手を伸ばしていた。


 伸びた手には自然と、魔然が宿っている。


「純星?」

「咲月。俺は悪いけど、咲月の言ってた通り努力馬鹿で、乙女心もわかんない。だけど、これくらいなら渡すことはできるんだ」


 触れた空気の粒が、筒を模した形にした手の隙間から、下から吸い込まれるように消えていく。


 生み出す魔法。それは造ることを意味する魔法であり、作りものの人生になってしまうものだ。


 永遠の命を与えるのは禁忌を犯す。


 だからこそ魔法に制限をかけて、人々を、近しきものを癒す形へと変えた魔法に進化を遂げた。


 (記憶)に傷がない限り、傷つくことのない魔法。


 手の隙間から成長する芽は、静かにその茎を伸ばしていく。

 例え造りものでも、過程を眼にすることはできる。


 気づけば、咲月は目を見開いて見てきていた。


 茎が伸びきれば、無は白に染まっていき、可憐な花びらを広げていくんだ。


「……これって」


 きっと、造花であっても贈り物にすべきではない。だけど俺は、咲月に送りたかったんだ。


 手に持ったその花は――月下美人。

 特徴的な白い花びらは、夜に咲き、翌朝には萎んでしまう儚い命だ。

 でも造花であれば、残り続けることができる。

 ましてや魔法で造ったから、その質感を完全に再現して贈ることすらも。


 魔然の繊細な扱いは必要になるけど、咲月に渡すためなら苦ではなかった。


「月下美人。今はまだ一つを造るのが精一杯だけど、受け取ってくれるか?」

「……うん」


 造花の月下美人は俺の手を離れ、咲月の手に渡った。


 その白い花は、咲月の容姿端麗さも相まって、すごく美しく見える。


 持つ者によって姿を変える、奇跡のようだ。


「純星は、月下美人の花言葉知ってるの」

「……知ってる」


 捉え方によっては、良いように思えない花言葉でもある。

 例え縁起の良い花だとしても、考え方の違いだ。


「ただ一度だけ会いたくて。その花言葉、純星にとってはどう思う」


 咲月はやっぱり触れてきた。

 咲月が博識、雑学にも優れるほど深く考えているタイプなのは承知だ。


「それはさ、一度だけ、会えば十分だったんだろ」

「うん。だから、一度だけ、だよ」

「それの解釈を都合よく捉えればさ……」


 すごく息が熱い。

 咲月に言うのが怖いとかじゃなくて、どこか恥ずかしいんだ。

 でも、言いたい、って気持ちが勝っている。


 深く息を吸って、咲月を真剣に見た。


「その一度だけ、で今後は必要なかった。だって、一度会えたことで、今後の時間を結んでくれたんだから」

「……なんか、純星がロマンチスト思考なの、意外」

「なんでだよ!? ……仕方ないだろ。だって、俺ももし、咲月との出会いが一度だけだとしたらさ……今後のことを考えられるかん……いや、なんでもない、忘れてくれ」

「え、忘れたくないよ! い、今……今後、って、関係、って」


 幼馴染とか関係なく、俺は今後、咲月以外との深い関係は望まないだろう。

 魔法があるからとかじゃなくて、俺にとって、咲月はかけがえのない存在なんだ。


 咲月と居なかった時間で、ずっと、ずっと心のつっかえになっていたから。

 一緒の時間を望みたい……そんな、俺の心が震えている。


「まあ、その花をやるから、忘れてくれ」

「いやだね。でも、純星を振り向かせたいから、忘れてあげる」

「……え? 今なんて?」

「ふふ、内緒」


 咲月はイタズラに口元に手を近づけ、笑みをこぼしていた。


 そんな他愛もない仕草なのに、どこか可愛さを感じている俺がいる。


「……その花は成長して、やがて木となり、同じ時を過ごす。そんな話があってもいいよね、まるで魔法みたいだし」

「そこまで考えれるのは、咲月らしいな」

「ふふ、私も花をあげる。忘れられない、花を」

「どん、な……」


 咲月の方に視線を向けようとした瞬間、俺はまた、硬直した。


 頬には確かな温もりが一つ。

 数秒、熱を帯びた柔らかなものは付き、俺の心を熱くさせてくる。


 沸騰した顔は熱くて、忘れられない衝撃を受けた。


 柔さが離されてから、俺はその頬に触れながら、咲月を見ていた。


 月下美人を持った咲月は、まるで天使のようだ。


「咲月……そういうのは、本当に……いや、ありがとう」

「ふふ、なんで感謝をしたのかな?」

「からかうなよ。……俺以外に、するなよ」

「純星も、私以外に大事な魔法を使ったり、不埒な真似はしないでよね」

「ああ。咲月以外にはしないよ」

「じゃあ、私も純星以外にはしないよ。この格好も、さらに先のこういも」


 本当に、体は火照るように熱を持っている。

 抜けない熱は、衝動を動かすには十分だ。


「……なあ、咲月」

「どうしたの?」

「今日さ、泊まっていかないか」

「待ってた。明日は休みだし、泊まっていくね」


 ぎゅっと寄り添ってくる咲月に、俺は帯びた熱の抜き方がわからなくなっていた。


 ……これが、咲月を好きってことなのかな。


 好きって感情を知らない俺だけど、咲月を特別だと理解できる。

 縮まっていく咲月との距離が、段々と恋しくなっていくから。

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