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恋する幼馴染と魔法のような時間  作者: 菜乃音


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33 花や木の魔法その三

 咲月が喜びそうなもの……そればかりを考えては、たくさんの失敗や、努力の傷が積もっていくばかりだ。


 本を読み込んで、試して、失敗と成功を繰り返している。


 気づけば朦朧とした意識に、目を閉じていた。


 創一さんに言われた通り、俺の頑張る気量になってくれているのは――咲月の存在だ。


 俺の中で、咲月はどういった立ち位置なのだろうか。


 咲月の言う努力馬鹿のままでもいいのに、止まってはいられないこの気持ち。


「……せい。……じゅん……純星。人に散々言っておいて、風邪引いちゃうよ……」


 ぼんやりとする意識に、聞き慣れた声が沁みる。

 優しい声……俺の好きな声だ。


 顔が痛みを覚えそうなのに、被せられるような温かいもの。


 ……うん? 俺の名前を呼ぶ声?


 俺はハッと目を覚ました。

 目の前を見れば、開かれた本に、散らかり気味の自室の机が広がっている。


 デスクライトがぼんやりとした視界を刺すように、痛みのある味を覚えさせてくる。


「あっ、純星、目覚ました」

「……咲月」


 ぼんやりとする視界が治れば、咲月の姿が見える。


 透き通るような黄緑色の髪が束ねられたポニーテールに、薄らと光を帯びた黒い瞳。

 見間違えるはずがない、咲月だ。


 咲月は俺が寝落ちしている間に、部屋に潜入してきたらしい。


 伸びた指先が、俺の頬をムニムニと揉んでくる。

 やんわりとした咲月の細い指、嫌いじゃないな。


「起きた?」

「ああ。おひたから、やふぇてくれ」

「えへへ、純星をいじいじするの楽しいな」


 偶に頭脳が下がるこいつはなんなのだろうか?

 まあ、咲月が楽しそうに俺の頬に触れてるから、いいけど。


「純星、人に無理をするなとか、自分を大事にしろとか言っておいて、自分が無理するのは良くないよ」

「……すまない」

「もう。……純星がそんな素直だから、私は嫌いになれないんだよね」


 弱々しい、って意味で言っているのか?

 家事も未だに発達途上、生活水準は生きるスレスレ……そんな俺だから、なんとも言えないわけだが。


 無理をしている自覚はなかった。だけど、机に突っ伏して寝ていた時点で、無自覚にも無理はしていたんだろうな。


「次からは気をつけるよ」


 ふと、肩に手を置いた。

 温かさが手のひらから、柔らかな布の感触がある。

 寝ている俺の肩に、咲月は毛布をかけてくれていたらしい。


 ここまでおせっかいを焼いてくれるとか……俺は、咲月に恵まれている。


 ありがとう、なんて泥臭い感謝を、何度口に出せばいいんだろうか。


 横から顔を覗き込んでくる咲月は、ただ微笑んでいた。


「あのさ、純星」

「なんだ?」


 どこか控えめな様子をみせる咲月に、俺は首を傾げるしかなかった。


「さっきまで寝ていたのは、きっと私のわがままを叶えるためだよね」

「別にそんなんじゃないよ」


 咲月の願いを叶えるためかもしれない。だけど、それは俺のためになるからやっている。

 咲月が重く受け止める必要はない。


 俯く咲月に、どう言葉を届ければいいのか……。


 魔法ばかりを使えても、こうして咲月を見れていないから、不安にさせているんだよな。


「……努力を頑張る純星も好きだけど……えっとね、無理はしないで」

「ああ、約束する」

「本当に、約束だよ」

「……巻かれた絆創膏のように、繋いでみせるよ」


 何を言ってんだろうな。

 絆創膏にそんな特別な力はないし、結ぶ力もあるわけがない。


 でも俺は、咲月と結ぶ、不思議な力がある気がしたんだ。

 約束を破らない、それだけの理由をつけるために。


「やっぱり、純星はたまに突拍子もなく、バカなことを言うよね」

「余計なお世話だ」

「ふふ、そうかも」


 と言って咲月は、そっと俺の背に回り込んだ。

 部屋が汚くなっていないか、抜き打ちチェックでもするつもりか?


 そんなことを思っていた時、俺の鼓動は激しく揺れた。


「……さ、さつき?」

「純星、これは頑張ってるご褒美だよ。幼馴染だから、ご褒美にならないかもだけど」


 首をつたい、前にまわされている腕。

 背にくっつく柔らかさに、ほんわかとした温かさ。


 俺は息を呑み込んだ。

 咲月は後ろに回って、俺を抱きしめてきたんだ。


 こんなにも近い距離……抱きしめられてご褒美と感じられるのは、咲月だけだよ。


「……十分にご褒美だよ」

「無理をしないで、って言っておいてあれだけどね、応援はしてるよ。ただ無理をしてほしくないだけだからね」

「わかってる」

「……夜ご飯、作って待ってるからね」

「うん、ああ。……!?」


 温かさが離れて、ドアの閉まる音が聞こえた。

 でも俺は、驚きのあまり体が動かなかったんだ。


 体から抜けない、咲月の体温の温もり。

 と、頬に残された、やわな口付けが。


 俺は自然と、自分の頬に手を触れさせていた。


「……どうして、だ」

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