32 花や木の魔法その二
「純星、それが許されるわけないだろ」
俺は息を呑み込んだ。
咲月との話を実現させるために、バイト終わりに創一さんに相談した。
だがそれは、怒りに触れてしまったようだ。
浮かび上がる大地のかけらに、震える店内……生きて帰れる保証はない。
でも俺は諦めたくなかった。
咲月が見たいと言った、花や木に関連する魔法を、この手で使えるようにする為に。
創一さんの魔然が、その身を焦がすように顕になっている。
「新たなる生命、ましてや永続なる魔法の発動は帝国主義の法に触れる……理解してるよな」
圧のある視線に、揺れる足場。
創一さんがどれだけルールブレイカーであっても、道徳に反する真似を許さないのは知っている。
この魔法のある帝国は、自然を半強制的に生み出す魔法を固く禁じているんだ。
帝国の法律が、永遠を意味する魔法の使用を禁じているのも知っている。
「俺にお前を始末させる行為はやめろよな。じゅん、お前じゃ双星に勝てねえし、命を甘んじるんじゃねぇ」
と言って創一さんは、呆れた様子で懐からシガレットのお菓子を取り出した。
口に咥えながら、椅子に腰をかけている。
先ほどまでの喧騒が嘘だった。と思わせるほどに、揺れはなく、パラパラと地のカケラが地に落ちて音を立てている。
「……すいません」
「随分と素直に引き下がる、ってわけでもないよな」
創一さんは全てを見透かしている。
俺は謝りはしたが、引く気はない。
俺の知見だけでは足りないから、創一さんから聞き出すまでだ。
法律の壁や、魔法の壁は高い……でも、ここで止まりたくないから。
自然を生み出す魔法の癒しは、俺の持つ傷つけない魔法の成長もあるが――咲月の笑顔を見たい。
パキッ、と音を立てて、白い破片が散らばった。
「師匠」
「師匠じゃない、創一って呼びやがれ」
「創一さん」
想いをぶつけるように、真剣に眼差しをぶつける。
座っていた創一さんは息を吐き出した。
「純星、そもそもさ、自然を生み出す魔法があるって思ってるのか?」
「……それは。ゲームなら、木やツタを生み出せるから……」
「ゲームと現実を混同してんじゃねぇよ! 馬鹿野郎がぁ」
「いっだぁっ……」
創一さんは瞬時に、手のひらに固い金属の棒を創り出した。
瞬く間もなく、俺の頭に入れ込んできたわけで……。
頭がジンジンと痛みを覚える。
人の頭でユー字溝工事をするとか、サイコパスか何かかな?
俺じゃなきゃ、一撃でやられていただろう。
「そもそも、人道に反する真似をできるのは、悪役じみた小説の主人公か、選ばれたヒーローのつまらんショーくらいだ」
「子供の夢を壊すとかしょうぎぃぃい!?」
「王手だ。次、こめかみを打つかんな」
瞬時、顔スレスレで鉄の弾が飛んできた。
壁にめり込む弾丸は、プスプスと煙を立てている。
どうやら今日の創一さん、殺意が高めでお送りしているようだ。
「お前、咲月ちゃんがいないと調子でなくなってんだろ」
「……そ、そんなわけ……」
「バイト先なのに、随分と咲月ちゃんが来るようになって、今日は来てないのが証拠だ。お客さんに作った道具を褒められてんのも、咲月ちゃんの協力あってのもんだろうがよ」
グサグサと抉ってくる創一さんは、控えめに言っても鬼だ。
実際、俺は咲月のおかげで成長できているし、今を生きられている。
それに、道具に込める魔然の扱い、魔法の付与も、咲月ありきなのは間違いない。
絆創膏の巻かれた指を見た時、ため息が一つ聞こえた。
「じゅん、お前さ、今までは自分のために頑張ってきたろ」
「えっ、はい」
「これはお前自身じゃ気づけないだろうから言っといてやるよ。誰かのために頑張るよりも、好きな人のために頑張るやつは、想いが違うんだ」
「……想いが……」
さりげなく咲月が好き、と決めつけられているが言葉にするだけ無駄だろう。
でも、俺は自分で気づけなかったと思う。
頑張る理由は、努力しか取り柄がない……控えめに言ってもそんな感じだ。
それでも今は、咲月がいてくれるから、咲月と一緒の時間がほしいから、離れない温もりがあるから。
ぎゅっと拳を作って、胸に寄せていた。
「思うことがあるんだな」
「……」
「ほらよ、これをやる」
創一さんはそう言って、本を一つ投げてきた。
本をキャッチすれば、ずっしりと重く、紙の束とは思えない重厚感がある。
「お前の成長は目を見張るものがあるからな。糸からの作成ができたんだ、造花の魔法を練習しておけ」
「創一さん」
「勘違いするな。たまたまステップを進ませる予定があっただけだ」
創一さんに、素直じゃない、と言ったら怒りそうだ。
……俺の目指す魔法がそこに。
受け取った本の表面に書かれた『造花』の文字が、自然を生み出す魔法の抜け道なのだろう。
「ありがとうございます」
「今後もしっかりと無給で働いてもらうからな」
「はい」
「そういや、咲月ちゃんとの関係を聞いてないな、今夜は飲みだぞ、じゅん!」
「あの、それは……!?」
俺の返答を聞く間も無く、創一さんは俺の首根っこを掴んで連行するのだった。




