表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する幼馴染と魔法のような時間  作者: 菜乃音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/43

30 糸の魔法その五

 咲月の細い指がセーターのほつれた毛糸を引っ張った時、まるで時間は止まっている。


 一つのほつれは、魔法で言うなら全ての失敗に繋がっていたんだ。


「……えっ、あっ……嘘だろ。……なんで、いつもこうなるんだ……」

「純星、どうしたの?」


 当の本人である咲月は気づいていない。


 一本の毛糸を咲月が引っ張った瞬間、咲月の着ていたセーターは魔法が()けたように、全てが(ほど)けたんだ。


 あっという間の出来事で、毛糸は光の粒となって消え、咲月が手に持った一本の毛糸だけが残っている。


 そう、今の咲月はキャミソール姿に……ではないだと?


 なぜか咲月は、フリルをあしらった水色のブラジャーに、ショートパンツの姿となってしまっている。


 完全に増えた肌の露出。


 しっかりと理解できてしまう、その胸を隠すものの圧巻さ。そして、豊満とした優しくももっちりとしている肌の弾力。


 全てが重なった魔法の事故に、またもや咲月は肌を露出してしまったんだ。


 俺は息を呑み込み、まじまじと咲月を見ていた。

 俺だけが別の世界を見ている、って言い聞かせたかった。


 どうしたの、ともう一度首を傾げる咲月。

 咲月が疑問気な仕草をとったおかげで、寄せた腕でさらに胸の間を強調してくる。


 男として、これは辛いものがある。

 別に見ていて辛いとかではなく、不慮の事故で女の子を、咲月を恥ずかしい姿にしてしまった俺への戒めだ。


 とはいえ、なんで着ていたはずのキャミソールが消えているのかは不明である。

 視線を下に落としても、何気におへそに目が言ってしまって、顔が熱を帯びていく。


「その、咲月……魔法が解けて……」

「え? さっきの毛糸はここ、に……!?」


 咲月は俺の様子から察したのか、ようやっと自身の顔から下を見た。


 咲月の目線では何が映ったのだろうか。

 とはいえ、俺が先ほどから動揺している理由は理解できただろう。


 赤く染まっていく白い顔は恥ずかしいようだ。


「本当に、ごめん」

「……純星が謝ることじゃないよ」

「え?」


 白い手は、落ち込む俺の手を握ってきた。

 咲月が一番恥ずかしいはずなのに、どうしてそんな行動を取れるのだろうか?


 下着姿のまま、上目遣いで見てくるその瞳、羞恥心があるのは定かだろう。


「嫌じゃないのか……?」

「……は、はずかしいよ。でも」

「でも?」

「純星と居る時間が好きだから……これくらいは、ご褒美にいいかな、なんて」


 指で頬を掻く咲月。


 ……俺は、咲月を何も知らないな。


 知った振りをする。それは、誰だってできる、その場しのぎの処世術だ。


 でも俺は、咲月を知りたい、咲月の近くにいたい……その思いが、離れていた一日で強くなっていた。


 誤魔化しかもしれないが、恥ずかしい姿をさせてしまっているが、抱きしめたかった。


 好きだから、その意味を率直に捉えて。


「うん。ご褒美だよ……さ、咲月?」

「えへへ。純星の魔法が解けた幼馴染、その地肌の当たる感覚は心地いい?」


 不意に咲月は腕を回して、ぎゅっと抱きしめてきたんだ。

 布一枚で当たる、咲月のやわ肌。

 男の俺としてではなく、俺自身、咲月の柔らかさが好きだ。


 他の誰かじゃなく、咲月だけ、で覚える感覚が。


 とは言っても、幼馴染の膨らみある部分が当たるのは、むず痒さがある。


 咲月がニコニコするせいで、俺の方が恥ずかしくなりそうだ。


「純星はいい幼馴染を持ったね」

「少しは羞恥心を覚えてくれないか?」

「しゅ、羞恥心はあるよ!? ただ……私の中で……特別、だから……」


 咲月が消え入りそうな声で言ったのもあって、ただ、の後が聞き取れなかった。


「やっぱり、咲月が何を考えているのかわかんないや」

「ふふ、純星がわかったら、天地がひっくり返りそうだね」


 咲月はそう言って、ソファの横からキャミソールを取り出した。


 俺が目を瞑っている時、咲月は肌でセーターを感じようとして、キャミソールを脱いでいたようだ。


 魔法で消えた、って事件にならなかっただけ一安心と言える。


 目の前で咲月がキャミソールを上から着るのもあって……服に収まるブラジャーと胸が、ある意味弾力を伝えてくるのですがそれは……。


 言葉を失っている俺を見てか、咲月はニヤリとしている。

 だからこいつの考えていることは不明だ。


「そういえば、これだけ残ってるね? 他は消えちゃったのに」


 咲月は首を傾げながら、手に持っていた物を見せてきた。

 それは、セーターでほつれていた、一本の毛糸。


 セーターの糸は粒となって消えてしまったが、その毛糸だけは唯一残っている。


「純星、これ、もらってもいい?」

「そんなのでいいならくれてやるよ。……消えたセーターは、後で作り直しとくから」

「ありがとう。純星は優しいね」


 別に優しいわけじゃない。

 俺はただ、咲月にプレゼントをしたかったから、もう一度作りたいだけだ。


 ふと気づけば、咲月は一本の毛糸を、左手の薬指に巻いていた。


「ねえ、左手、出して」

「え、ああ」


 俺は咲月に言われるまま、左手を前に出した。

 前に出した瞬間、俺は目を見開いたんだ。


 咲月の左手の薬指に巻かれていた毛糸から、伸びるように一本の線が現れた。


 そして導かれるように、出した左手の薬指に円を描く。


 小さな光に包まれた時、俺の薬指には毛糸が巻かれていた。

 咲月の薬指の毛糸と繋がっている、まるで運命を共にしたような毛糸が。


「これは私からの贈り物。運命の赤い糸みたいでしょう?」

「赤い糸、ってよりかは白い糸で繋がってるけど?」

「もー、比喩だよ、比喩」

「比喩か、なるほどな。……で、なんの比喩だ?」

「純星は一度、乙女心を学んだ方がいいよ?」


 咲月は辛辣だ。

 笑顔で言うからタチが悪いのに、どこか嬉さがある。

 咲月と繋がっている毛糸は、魔法のように透明になっていた。


「これで日常生活にも支障はないね」

「……咲月、いつから道具を生み出す魔法を?」

「内緒。時に、女の子は大胆だから」

「お前はいつも大胆だろ」

「失礼な。純星にだけ、だよ」

「それはどうも。まあ、いつも助かってる」

「素直な純星、嫌いじゃないよ。このこのー」


 わざとらしく指で心臓付近をツンツンしてくる咲月は、微笑ましいほどに無邪気だ。


「ねえ、純星。今日、泊まっていってもいい?」

「明日は学校だろ? ……泊まるのは無理でも、話す時間はほしいかな」

「そうこなくっちゃね」

「……咲月、いつも一緒に居てくれて……ありがとう」

「――感謝するのは私のほうだよ。純星……大好きだよ」


 幼馴染として、好きでいてもらえるなら嬉しいものだ。


 この後、俺は咲月となんやかんやありながら、一緒に居られる幸せを堪能するのだった。


 ――それは、繋がりを意味する、幸せ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ