24 回復の魔法その四
「はは、女に振られる数が辛いってんなら、振られた数は勲章だ」
「もはや暴論」
咲月の一件を聞いて以来、俺は心に残っていた気持ちを拭うように、創一さんにあることを相談していた。
相談する相手は、誰が見ても間違いではあるが。
それでも、この人以上に……魔法に置いて、帝国で相談できる相手はいないのだ。
俺のお父さんが、魔法で困ったら創一さんに相談しろ、と耳にタコができるほど幼い頃に言っていた。
創一さんは、白髪混じりの黒髪のカールパーマをかきあげるように、手でくしゃっとしている。
避けた前髪から差し込む瞳の圧が、心を刺してくるようだ。
「で、魔法を深く知ろうって、どう言う風の吹き回しだ?」
「わかってます。俺が、魔然を扱うことだけに注視すればいいのは。でも――」
「でも、がなんだ?」
今日の創一さんはどこか違った。
いや、違っていると思っているのは、俺のせいだ。
俺が変わろうとしているから、創一さんが変わっているように見えてしまう。
圧を感じさせる創一さんの声に、俺は勇気を振り絞る。
「咲月を、俺が助けたいんです」
「何で、何して、何をするために助けたい」
「……それは」
「じゅん、言葉にするのは簡単だ。でもよ、行動に移せるのは、脳がイメージをある程度固めてねえと、魔法のように不発で終わるんだぞ」
甘えんな、と言いたいのはわかっている。
貴重な時間を割いてもらってまで、創一さんに相談させてもらっている。だからこそ、俺だって柔な気持ちで言ってるんじゃない。
咲月を助けたい、そんなのエゴだ。
咲月を助けるための力を、努力をするための知恵が欲しい、それが本音。
とはいえ、創一さんの言っていることは的を得ている。
人の脳の仕組みは複雑で、日頃のルーティンに雑音を鳴らせば、人はたちまち動けなくなる。
だけど、そうならないように今を動いているんだ。
「引き下がらねえと」
「下がりませんよ」
「じゅん――目を見せろ」
(な、魔然で強化して――)
創一さんは有無を言わさず、その手で俺の両頬を掴むようにして顔を掴んできた。
視線を逸らすことも、動かすこともできない。
じっと、その目は、俺の目を見てくる。
前までだったら、蛇に睨まれたネズミだった。
でも今は、俺が進みたいと決めた道があるから、下がれないんだ。
呼吸すらも止めそうな手の力。
恐怖に怯えたら、それこそ決意も、覚悟もないも同然だろう。
「なかなかの覚悟があるじゃないか」
「げほっ……馬鹿力め……」
「ふん、それくらい魔然、魔法で固めてみせろ。人を傷つけない、それがお前が魔法を使う理由だろうに」
やっぱり、この人は全てを見透かしている。
魔法のない体術は、魔然や魔法をうまく使って身体強化をすれば、簡単にいなせるのだから。
創一さんは懐から白い棒のお菓子を取り出し、口に咥えた。
「じゅん、断っておくが、お前は回復魔法を使えないからな」
「知ってたの」
「咲月ちゃんの回復魔法は、人の寿命すらも扱う……帝国の内部事情を知っていれば当然だ」
内部情報を暴露するこの人を、まずはどうにかした方がいいのでは?
まあ、それを踏まえても創一さんのお店は帝国で特権を得ているようだし、仕方ないのか。
「死神でもあって、天使でもある。あの子はデメリットを増やした代わりに、回復できる範囲を広げてしまった」
「だから、狙われていると」
創一さんは静かに頷いた。
咲月の魔法は、回復魔法の中でも特別なのは初耳だ。
不治の病を治せるんだから、不思議ではないのかな?
創一さんは近くにあった椅子に腰をかけ、お菓子を手に持ってため息をこぼした。
「話は戻るけどよ、魔法を知って、お前はどうしたい?」
「それは……」
「はあ、そんなこったパンナこったと思ったよう。じゅん」
「はい」
いきなり名前を呼ぶとか、心臓に悪くないか。
「女に振られた歴イコール年の数と呼ばれし俺が教える」
「なんですか、その不名誉な二つ名は」
「お前は、咲月ちゃん自身を見てやれ。まずはそれだけだ」
「……え?」
意外だった。
この人のことだから、正直当てにならないことを言うと思っていた。
ぐっ、と指を突き出しそうな創一さんの笑みは置いておいて、しっかりと目を見る。
「別に裸を見ろって言ってんじゃない」
「はだ……か……」
「はあ、最近のガキは盛んすぎだろ。なんだ、もうヤルコトヤッテンノカー。ヒニンハシトケヨー」
「いきなり何を言ってるんですか!?」
だからこの人は苦手だ。
真面目なんだか、不真面目なんだか、落差が激しすぎる。
ましてやルールを破る……だから内部事情を。じゃなくて、フレンドリーにも程があるのだ。
俺は、咲月の下着姿くらいしか……って本当に何を想像しているのだろうか。
咲月はただの幼馴染で、たまたま不慮の事故が重なっているだけだよな。
「初心ガキ、まずは、咲月ちゃんにしてもらっていたことをしてみろ」
「してもらっていたことを?」
「そうだ。咲月ちゃんとお前は、幼馴染や、友達、そのわずかな壁に阻まれているからな」
「師匠、俺と咲月を見たの、あの時が初めてですよね?」
「ふん、お前の両親が楽しそうにお前のことを話すと、咲月ちゃんの話もよく出てたから聞いてただけだ」
元凶は両親だったようです。
……創一さんに相談してよかった。
俺は確かに、咲月とは幼馴染だから、を理由にして偽物の気持ちを払拭できていない。
ぎゅっと拳に力を込めたのに、どこか軽いのはなぜだろうか。
「回復魔法は、じゅんと咲月ちゃんの間じゃ、ただのアイコトバだろ」
「なんで片言。でも、わかった気がします。師匠、相談に乗ってくれてありがとうございます」
「良いってことよ。あと、師匠じゃなく、そうちゃんか、そうさんと呼べ」
「創一さん、ありがとうございます」
俺と咲月にとって、傷つけない魔法を試すようになってから、魔法は言葉の解釈で変わっていくんだったよ。
この後、俺は創一さんに咲月のことを根掘り葉掘り聞かれそうになりながら、退勤まで耐え凌ぐのだった。




