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恋する幼馴染と魔法のような時間  作者: 菜乃音


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21 回復の魔法その一

 ……思った以上にまずいな。

 この日、俺は顔色を悪くしていた。


 いつもの校舎裏。

 魔法を、適当に受け流すつもりだったのに。


「もしかして、気づいてないとでも思ってたんかよ!」

「がっ……」


 吐き出した息が重い。

 俺は校舎の壁を背にして、腹を腕で押さえながら地面にへたり込んでいた。


 主要の一人を除き、いちいち連れを変えていたから気づけなかったんだ。

 まさか、俺を嘲笑うためだけに、上級生とも手を組んでいたとは。


 無理やり呼吸をしながら、見上げた。

 にやにやした表情で、俺を見下す、主要一名と、俺の腹に直接殴りを入れてきた上級生の先輩が一人。


 俺は魔法を受け流せても、物理的な手段の受け流しまでは対応していなかった。


 おかげで休み時間になるなり、俺は罠にかかってしまったんだ。


「なんだぁ、その目は!」

「うっ……あっ……」


 上級生の中に、不良候補がいるとは聞いていた。だけど、運が悪すぎだろ。


 そいつが手を貸して、手を咥えてくるなんてよ。


 横腹に蹴りをもらい、意識が朦朧とした時だった。


「あなたたち、純星に何してるの……?」

「……さ、さつ、き……」


 声がした方を見ると、咲月がいた。

 薄らと光を帯びているはずの黒い瞳は……校舎裏の影に飲み込まれるように、とても黒かった。

 咲月は険しい表情をして、俺の前に立ちはだかる二人を睨みつけている。


 ぼんやりとする視界なのに、咲月の周りにはまるでオーラがあるように思えた。


「誰かと思えば、こいつと同じで魔法を全く使えない、回復だけ、専門特化のポンコツか」

「みりゃわかるだろ? 可哀想なこいつで、俺らは遊んでやってたんだよ」

「あそんでた、ね。それじゃあ、人の痛みを知らないあなたたちは、遊ばれてもいいってことだよね」


 咲月は二人に向けて手を伸ばした。

 二人は咲月を馬鹿にしたように笑っては、腹を抱えている。

 だが、その二人の笑いはすぐに――悲鳴へと変わっていた。


「いっだぁああああ!? な、なんだよこれ、あああ、ぁああああががぁ!?」

「だ、だずげぇ――!?」

「回復魔法、だと思って油断したでしょう?」


 咲月は二人に蔑んだような、それでいて芯のある視線を向けている。

 静かだが、咲月は怒っていたんだ。


 地面でのたうちまわる二人。まるで何かの痛みが体中から溢れ出るように、悲痛な叫びを喉から出している。


「回復魔法。私の魔法は人の治療や、病を治すことに最適で、勝負や戦闘向きじゃないの。でもね、それは解釈の違いで攻撃へと変わるの」


 咲月はゆっくりと、ゆっくりと、地面で助けを乞うようにのたうちまわる二人へ歩んだ。


「人は古い角栓が気づかぬまに落ちて、新しい角栓へと変わる。そう、私の回復魔法はね――無理やり古い皮膚を剥がして、再生してを繰り返すこともできるようにしたのよ。痛みを知るにはちょうどいいでしょう?」


 咲月が今まで、拡大解釈をしていたのはそのせいか。

 俺は初めて、咲月との考え方の差を実感した。

 咲月が俺に回復魔法を使わなった理由。それは、咲月が人を、俺を傷つけないための考慮だったんだ。


 回復するだけ……一般の視線で見ればメリットしかない魔法だろう。

 咲月の考える世界を知らなかった俺は、そう見ていたんだ。


 だけど、今二人に魔法を使う咲月は、間違いなく鬼と言える。


「おねがいじまず、だずげっ……」

「仏の顔は三度まで。純星に同じことをしたら、この魔法は再度蝕む、覚えておきなさい」


 咲月が指を弾き、音を立てた。

 その瞬間、二人は痛みが治ったのか、キツネにつままれたような表情をしている。

 咲月が睨むなり、声も出さずに一目散に逃げ出していた。


「……咲月、どうして」

「純星、今日は一緒に早退しよっか。先生たちにも言ってあるから」


 咲月は、壁を背にしてへたり込んでいた俺に手を伸ばしてきた。

 中腰で、俺に笑顔で手を差し伸べてくる咲月が、今はただ心苦しかった。


 本当なら、俺が咲月を守る立場なのに。


 どうして咲月は、こうも優しいんだ。


「純星」

「……うん」

「人を傷つけない、それはとても良いことだよ」


 まるで幼子をあやすように、その声は優しかった。


「でもね、人を傷つけない、裏を返せば自分を死に至らしめるの。どれだけ耐えても、どれだけ苦しんでも、知らない人は助けてくれないよ」


 咲月の言葉に、俺は返す言葉がなかった。

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