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恋する幼馴染と魔法のような時間  作者: 菜乃音


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19 電気の魔法その二

「電気の魔法を今度は使う予定だよね?」


 家に帰ってきた俺は、リビングで咲月と隣同士で話していた。

 咲月は疑問そうに首を傾げて尋ねてくる。それでも、嗜むお茶の手は止めない。


 咲月はどこか、俺が怪我をしたきっかけになった魔法を試してほしそうにしている。

 傷つけない魔法。それは、普段使いの魔法とは違う性質に変える、俺の考えを実現した魔法だ。


 咲月は茶のみをテーブルに置き、透き通るような黄緑色髪を束ねるヘアゴムを解いていた。


「今まで通りならそうだよな」

「……純星、気乗りしてないね?」


 咲月はよく見ている。

 解かれる咲月の髪とは裏腹に、俺の気持ちは沈んでいた。

 沈みきっているわけじゃない。ただ、魔法を咲月に使うこと、それへの恐怖があるのだ。


 当たり前のように、俺は咲月に魔法を使っている。

 だけど、失敗して、咲月を傷つけてしまったら……なんて気持ちは残ったままだから。


 不安な気持ちが募っていた時、握りしめていた拳を包むように、慣れはじめた温もりが包み込んできたんだ。

 いつだって近くにいるだけで笑顔をくれる……そんな優しい温もりが。


「純星」


 いつも呼んでくれる、優しい声。

 俺の名前を呼んでくれる、幼馴染。

 俺は咲月になにを思って、こんな気持ちに浸っているんだろうな。


 情けない。そんな言葉が、今の俺にはお似合いだ。


「今、自分のこと卑下してたでしょう? 純星は本当に顔に出やすいね」

「そう言って、俺の顔を突くな」


 いやだよ、と笑顔で言って、頬を突いてくる咲月には苦笑するしかなかった。

 ふと目に映る……白い肩から滑り落ちる、透き通るような黄緑色の髪。


 ……最後に見たのは、咲月と一緒に寝た時。少し前に見たばかりなのに、どこか懐かしく感じるな。


 俺は咲月の指を包むように抑えた。

 そして、しっかりと咲月を見たんだ。


「まあ、なんて言えばいいのかな。咲月を魔法で傷つけたくない……ただ、それを思っていただけだ」

「ばか」

「……なんでいきなり暴げぇん……」


 苦笑すら、息を飲み込むことすら忘れた。


 薄らと光を帯びた黒い瞳に、くっきりと俺の姿が反射している。


 咲月にまじまじ見つめられるとむず痒いし、なによりも距離が近い。


 ……あの、座っている距離的にも、前のめりはやめてくれませんか?


「純星――今の私は、傷つくことを恐れてないんだよ」

「どういうことだよ、それ……?」


 不意に呆気に取られていた。

 咲月には、自分が傷つかないようにしろ、と俺は最初に言った。


 いくら咲月の回復魔法が優秀な力であっても、俺が傷つく咲月を見たくない、そんなエゴがあったから。


 疑問は即座に答えとして返ってきた。


「純星が私を大事にして、傷つけない魔法を使ってくれるから、温かいんだよ」

「……うん」

「じゅ、純星の魔法がたまたま、えっちな感じになっちゃってるのは驚いてる。だけど……純星だから、嫌じゃないし、こうして今も一緒にいるんだよ。幼馴染でも、純星が大事」


 咲月は頭が良くて、美少女で、深い考え方ができて優秀なのに……俺の前では不器用すぎるだろう。


 生真面目なやつほど、相手を知らぬ間に思いやりすぎてるんだ。


「咲月、俺は謝らない。でも、咲月がくれる言葉はいつも、俺を支えてくれる。だから、ありがとう」

「純星、やっぱり努力馬鹿で、周りが見えてないよね」

「し、失礼すぎるだろ」

「えー、だって、なんで私が今言ったのかわかってる?」


 ……それは、あれだろ?

 あれがああして、ああなって、こうなったってやつだろう。


「やっぱり、わかってないね」

「さりげなく心を読むなよ」

「それ、何回目?」

「……何度でも言う。俺だって、隠したいことが増えたら困るからな」

「私は純星の隠し事を知っても困らないけど……もしかして、散々魔法で私のえっちな姿見て欲情してるとか?」


 幼馴染の咲月に欲情するほど……堕ちていない。

 咲月がなぜか頬を膨らませたが、見ていないことにした。


 隠したいことが増える時……それはきっと、努力ではなく、身近な人への思いを隠したくなった時だ。

 俺は自分でもわかっているほどに、近しい感情が尊いほどに薄いんだ。だから、傷つけないようにして目を逸らすために、隠すのかもな。


「なあ、さつ――」

「これが、私の電気の魔法」

「……ああ。確かに痺れたよ」


 不意に、咲月が抱きしめてきた。

 咲月を受け止めたのだが、心は跳ねるように鼓動を増している。


 仕方ないだろう……。


 咲月は今、キャミソールとショートパンツ姿……もはや見慣れた格好でありながら、慣れない柔らかさを布一枚で伝えてきたのだから。


 俺の胸に顔を埋めては、当たる二つの膨らみが形を変えるから、心臓に刺激的すぎる。


「純星は、家や部屋でだとラフな格好をする女の子を、どう思う?」

「どう思うって。……人それぞれで、良いと思う。まあ、咲月は俺の前以外と、部屋以外では絶対にするなよ?」


 咲月が他の人に、その姿を見せる時がこないように、俺は咲月を見ていたいのかな……。


 咲月に抱きしめられながら、何を考えているんだよ俺は!


「ふふ。純星は守るために、ベランダの見える範囲を魔法で囲ったもんね」

「なんで知ってんだよ」


 確かに俺は、俺の家のベランダと、咲月の家のベランダ、その二つの間を隠せるほどの魔法を使用した。


 風と水で見える反射角を変えただけに過ぎないが。


「電気の魔法、楽しみだよ」

「まあ、頑張ってみるよ。なあ、咲月」

「何?」

「ヒントを得たいから、俺も咲月を抱きしめてもいいか?」

「うまい口実だけど、素直な純星、嫌いじゃないよ。おいで」


 心臓に悪い。

 甘い囁きの小悪魔は終わっているだろう。


 俺は自然と腕を回して、咲月を抱き寄せた。

 この柔らかさが、咲月だけからしか得られない柔らかさが、俺は好きなのかもしれない。


 咲月なりに云うのなら、俺はすでに、電気の魔法を使っていたのだった。

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