17 時間の魔法その四
小鳥のさえずりが聞こえてくる。
カーテンの隙間から差し込む光。
瞼の裏を叩いてくるようで、眩しさがある。
眩しいのに、腕の中は、胸のうちはとても温かい。
眠る意識の中、俺は腕を動かして、手繰り寄せた。
小鈴のような、甘く柔い声が聞こえた気がする。
腕の中で微かに震える感触を感じたが、気のせいだろう、と俺は眠っていたんだ。
「んせ……純星、おはよう」
聞き慣れた声。
朝起こしに来ることはあったが、ここまで間近で囁くような声は初めてだ。
俺は手繰り寄せるように、手を動かしていた。
「ちょっ、純星、寝ぼけすぎだよ……」
ほっそりとした体は、とても柔らかい。
夢見心地なのかと、俺は暗い瞼の裏で、咲月の温かさを覚えた。
……咲月の、温かさを、覚えた?
俺は自分で思っておいて、疑問しかなかった。
昨日、ベッドの上で疲れて寝て……その際に、咲月と一緒に……。
「はっ、さ、咲月!?」
「あ、やっと起きた? ……何よ、まるで化け物を見たみたいな顔して」
「え、いや、ごめん」
慌てて瞼を上げた。
目の前には、咲月がいる。
水を帯びたように柔く光る黒い瞳は、咲月の無邪気な笑みも相まって朝から心臓が痛い。
……咲月も、たまには可愛らしいところがあるんだな。
心臓が痛いのは、顔から下に視線をずらすと見える、白い肌に、透けたパジャマから見えるルームブラにも問題はあるだろう。
「むむっ、私は前から可愛いよ」
「自分で言うのか。ていうか、さりげなく人の心を読むなよ」
「あの、純星……」
「なんだよ」
うるうるとした瞳で咲月は見てくる。
正直、咲月が何を言いたいのか不明だし、頬を赤く染められても困るしかないんだが?
同じベッドで横になって、顔を合わせているのに、どこか気持ちは落ち着かなかった。
上目遣いで見てくるその瞳は、確かに潤いでいる。
なぜ、という言葉しか頭によぎらないな。
「咲月、どうしたんだよ?」
咲月はずっと沈黙しては、チラチラと見てくるだけだ。
そんなもどかしい空間に、咲月はゆっくりと口を開く。
「えっと、純星、いつまで抱きしめているのかなって……い、嫌ってわけじゃないんだよ?」
俺は咲月に言われて、初めて気がついた。
寝る前に、咲月を抱きしめていた。それは、起きた時には腕が離れている、と思った上で咲月を抱きしめたにすぎない。
なのに俺の手は今、咲月を抱きしめている。
パジャマの薄着、張り付くようなもっちりとした肌、それは意識させた気持ちには刺激的だった。
でも、この手を離したくない、って思うのはなんでだろうな。
「す、すまない。つい、寝ぼけて――」
俺は最後まで言い終わらないうちに、たどった視線で目を見開いた。
咲月の露出は確かに高かった。だけど、それ以上に高くなっていたんだ。
「咲月、なんでズボンまで脱いでるんだよ!?」
「ぬ、ぬいだわけじゃないよ!? こ、これは純星が寝ぼけて、ぬ、脱がして……」
「俺が、脱がした……?」
聞き間違いだと思いたかった。
それでも咲月は確かに、俺が脱がした、って言い切っている。
咲月は今、完全に露出が高くなっていたんだ。
パジャマ姿から見える、ルームブラは変わらないとして……寝る前までは履いていたズボンはなくなり、おしゃれなパンツが姿を見せている。
より意識をして鮮明に目に映った、その白い太ももに、下着は言葉を、呼吸すらも忘れさせるようだ。
「純星、寝ぼけていても……魔法と同じで、無意識にえっちなんだね」
「いや、本当にそれは誤解で。……とは、言い切れないよな」
「あっ、認めた」
と言ってくすくす笑う咲月は、俺の前だけでかわいい一面を見せてほしいもんだ。
「と、とりあえず起きようぜ」
「そうだね」
俺が起きようとした時、小さな手の引っ張る感覚があった。
「純星、まだ、私のこの姿の感想を聞いてないなー、なんて」
頬を赤くする咲月は感想を求めているようだ。
何を言えばいいのか、正直わからないんだよな。
女の子がほとんど下着姿、ましてや今後もお付き合いしていくかもしれない幼馴染に、なんて言葉を掛ければいいんだよ。
……でも、一緒に眠った、だからちょっとくらいは言葉をあげられるかもしれないな。
「かわいい。ただ、それだけだ」
「えー、それだけ? でも、純星らしくて、私は嬉しいかな。仮に、純星が細かく言ってきたら、私は純星を同じ目で見られなかったよ」
どうやら、俺の発言は正解だったようだ。
「じゃっ、着替えるか」
「ふふ、着替え終わったら、朝ご飯を作ってあげるからね」
「咲月、いつも助かる」
「幼馴染だからね。純星に餓死されても困るから」
「本当に頭が上がりません」
着替えるために立ち上がったと同じく、咲月は持ち込んだバッグを手に持っていた。
そしてあろうことか、ニンマリと俺を見てくる。
「純星、女の子の着替え、見てみたい?」
「みたい、って言ったらどうするんだよ?」
「へんたい、えっちな純星、って言うかな」
「見るわけないだろ」
純星らしいね、って言ってパジャマや下着に手をつけ始めた咲月から、俺は目を逸らした。
こんなふざけた日常なのに、咲月と過ごせるこの休日は、まるで魔法みたいだった。




