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恋する幼馴染と魔法のような時間  作者: 菜乃音


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12 道具と音の魔法その四

「もー、純星、ちゃんと部屋の掃除はしてよね」

「……分かってる」


 家に帰宅してから、咲月を迎えいれて一緒に食卓を囲っている。


 咲月のお説教に俺は目を逸らし、作ってくれた料理を口に運んだ。


 テーブルに並ぶ、ご飯に味噌汁、卵焼き、野菜炒め。

 二十時を過ぎていたのもあって、簡単な手料理を作ってくれたらしい。


 簡単と言っても、咲月は料理が上手いんだ。

 なんと言ってもこの卵焼き……外見はしっかりと綺麗に整った横長の丸み帯びたフォルム。しかし、口に運ぶと柔らかな感触にふんわりとした舌触りで食欲を虜にしてくる。


 堅焼きにしなかったのは、夜の遅い時間で消化のことも考えてあるのだとか。

 幼馴染の付き合いとはいえ、生活を支える咲月の料理には頭が上がらないものだ。


「咲月、美味しい」

「ま、まるで私が美味しいみたいじゃん!」

「俺はどこぞの主語がない生徒かよ!?」

「嘘だよ。茶化しただけ。ありがとう」


 感謝をするのは俺の方だ。

 ダイニングテーブルで、一緒に食事をしてくれる咲月……俺は、それだけでも十分に幸せを覚えている。

 優しさを人で例えるなら、咲月としか言いようがないな。


「……てか、風邪は引くなよ。それと、その姿は俺以外の前ではするなよ」

「し、しないよ! ……純星は運がいいだけだからね……」


 咲月は頬を赤らめて、恥ずかしそうに味噌汁を啜った。


 咲月の服装は変わらず……キャミソール姿だ。

 肩が見えているし、紐がズレればあれは見えそうで、心臓に悪い。

 まあ、以前咲月がブラを付けているのを理解したから、ある程度は見る目が変わったが。


 透き通るような黄緑色のポニーテールに、水色のシンプルなキャミソールは、俺の男心的には鷲掴みだ。


 とはいえ、幼馴染の前だからって咲月は油断しすぎじゃないか?


 俺が手を出すタイプだったら、って考えるのは野暮だよな。


「咲月、その姿で外出るのはやめろよな」

「で、出ないよ……せ、せいぜい純星の部屋に行く時くらいだし」


 そういえばこいつ、夜のベランダにキャミソール姿で出ていた。

 ここが田舎だから救われているが、咲月には危機感を覚えてほしいものだ。

 最悪、俺が咲月を守るべきだろう。


 ……お互いの家の間に魔法で何かを作る、考えてみようかな。


「純星は、こんな姿の私を見ても、興味無さそうだよね……」


 咲月は寂しそうに、そっと箸を置いていた。

 こんな時、どんな言葉をかければいいのか俺は知らない。

 だから、俺なりの答えを口にした。


「幼馴染としては興味無いかもな。でも、咲月には興味ある。……魔法の次に」

「馬鹿だね。純星は魔法だけじゃなくて、乙女心を少しは見た方がいいよ」

「誰が馬鹿だ!」

「だって、純星気づいてくれないじやん。この、魔法努力馬鹿!」


 どうして俺は咲月に文句を言われているんだ?

 魔法努力馬鹿。咲月からの褒め言葉は、有難く受け取るべきなのだろう。


 俺が笑みを零せば「エムなの?」と聞いてくる咲月の言葉はよく切れるナイフだ。


 そっと目を瞑りながら、俺は味噌汁の入ったお椀を口に運んだ。


 夜ご飯食べ終えれば、時間もいい頃合いに。


「咲月、今日は遅くまですまなかった」

「気にしないで……私は、純星と居られる時間が長いの……う、嬉し……最後まで言わせないでよ!」


 だから、なんで俺は怒られているんだ?

 それでも咲月と顔を見合わせ、お互いに笑っていた。


 今は、二階の自室に咲月と向かっている。

 ちなみに咲月は全てを読んでいてなのか、お風呂まで俺の家で済ます行為をした。一体、何を考えているのだろうか?

 おかげで、今の咲月の体からはほんわかと湯気が出ており、白い肌は血色の良さをみせている。


 キャミソール姿なのがまた、変に気持ちをくすぐってくる。


 そんな気持ちを誤魔化すように、俺は部屋のドアを開けた。


「それじゃあ、咲月を向こうに送るから、入ってきてくれ」

「純星、部屋はいい加減掃除した方がいいよ」

「気が向いたらな」


 ギリギリ足場がある散らかった部屋の道。

 俺が振り向き、咲月を見た時だった。


「もー……きゃっ!?」

「さ、咲月!!」


 あろう事か、咲月は床に落ちてた布を踏んだんだ。

 おかげで咲月は倒れ込むように、振り向いた俺の方に飛び込む形となっている。


 俺は咄嗟の判断で腕を広げ、咲月を抱えながら後ろに倒れた。

 床の軋む音が響いたと同時、俺の上にはもっちりとした温かい感覚がのしかかる。


「いっ、いたたっ……純星、だから……!!?」

「さ、咲月……だいじょ……!?」


 俺の仰向けとなった身体……いや、顔に、ふたつの柔らかな感触。

 薄い布越しで、確かに感じる湯上りの温かさ。

 ある方だからこそ分かる、この柔らかな重厚感。


 俺は咲月を抱きしめた瞬間……咲月の胸が顔に当たる形で後ろに倒れたらしい。

 おかげで今、その弾力あるふたつの自前クッションが俺の顔を包むようにのっている。


 咲月のもっちりとした柔らかな体、ましてや湯上り後の温かさを全体で実感しているせいで、息を飲むどころの話ではなかった。


 そんな驚愕な事実に、俺は言葉を失っている。

 咲月の顔は暗闇で見えないが、恐らく咲月も現状を理解して恥ずかしがっているはずだ。


 俺は出来るだけ早く咲月を立たせようと――するはずだった。


「……ごめん、咲月」

「えっ、じゅ、純星!?」


 俺は謝りをいれ、咲月の背に腕を回していた。

 そして、できるだけ咲月の体に負担がかからないように、軽めに抱き寄せていた。


 確かに顔に当たる二つのものはある。だが、俺はさらにその間の奥にあるものに気を引かれていた。

 薄い布越しでより近づけば、それは聞こえてくる。


 ……この音。今の俺と、同じ間隔で、一定だ。


 咲月を抱き寄せ、胸の奥にある心臓の音に耳を済ませた。

 顔が埋まる形になっているのは変な話だが、咲月の鼓動を聞きたいと思ってしまったのだ。


 俺自身、なんで今この行動を取ったのか不明だ。

 でも、咲月も俺と同じでドクドクと早い鼓動を鳴らして、同じ気持ちな気がしている。


「咲月の心臓の音、俺、好きかもしれない」

「きゅ、急に何言ってるの! てか、いつまで抱きしめてるのよ!」

「ご、ごめん」


 俺は咲月を離し、お互いに向き合う形でその場に座り込んだ。

 咲月はどっちの意味で恥ずかしそうにしているのかは不明だが、顔を真っ赤にしていた。

 とはいえ、俺も改めて咲月を見て、さっきまで顔に当たっていたそれを意識して正気ではないが。


 咲月は腕で胸を隠す仕草をしながら、チラチラと俺を見てきている。


「い、嫌だったよな。幼馴染とはいえ、すまない」

「……」

「いや、本当にごめん! 謝って許されるとは思ってない。だから、何でもするから」

「……じゃあ、部屋、ちゃんと掃除して」

「……え?」


 二度と許さない、と言われるとばかり思っていた。

 下げた頭をあげると、咲月は恥ずかしそうにしながらも頬を指で撫でている。


「私も、純星の部屋の掃除手伝てあげるから」

「……さっきのこと、許してくれるのか?」


 咲月は上目遣いで俺を見て、口を開いた。


「純星が抱きしめてきたのは驚いたよ……は、恥ずかしかったし。だけどね……私は純星で良かったと思ってる」

「そ、そっか、ならよかった」

「ね、ねぇ、純星……ひ、一つ、ひとつだけ聞いてもいいかな?」


 俺は咲月に許されるだけで満足なので、しっかりと頷いた。

 笑みを浮かべる咲月の頬は赤いままだ。


「その、私のお……胸が顔に当たったでしょ……? どんな感覚だったのかなー、って。えっとね、他意はなくてね、私のカップは三番目で四よりだし……、嫌じゃなかったのかなって」


 ……カップってなんだ? ホールインワンするやつか?


 咲月の質問真理は不明だが、俺の答えは揺るぎない。

 むしろ、咲月が嫌な思いをしていないか心配だったのだから。


 俺は咲月がキャミソールの肩紐を指で直している際、軽く息を吸った。


「別に。感覚って言っても、柔らかかった。咲月で、本当によかったて思う柔らかさだった」

「じゅ、純星らしい感想だね」

「咲月の甘い香り、俺は好きだしな。……あのさ、カップってなんだ?」

「……ふふ、純星が努力馬鹿で私は嬉しいよ」


 教えてくれないみたいだが、咲月が微笑んでいるのならそれで満足だ。


 ふと気づけば、咲月は前屈みの姿勢で俺に近づいてきていた。

 おかげでキャミソールの胸元が開きかけ、俺は目を逸らしたくなった。

 許されたとはいえ、意識しない方が無理に近いのだ。

 動揺を隠しているだけで、胸の高鳴りがうるさいほどに早い。


「ねぇ、純星。もう少しだけ、居てもいい? 私、純星とお話したいなーって」

「……ああ、俺もちょうど咲月と話したいと思ってたんだ。一人で寂しかったから」

「純星、こういう時は素直だよね」

「うるせぇ」


 ハプニングはあったものの、俺は咲月と少しの時間お話をした。

 音の魔法、道具の作り、今日あったことの波紋を広げながら。


 包まれる温かさは、咲月でしか知り得ないものだと実感するように。

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