11 道具と音の魔法その三
「ねーねー、純星、似合ってる?」
「……うん」
無事に道具を作り終えた俺は、咲月と帰路を辿っていた。
俺の道具作りは正直言って、見所がなかった。
造形して、魔然からなる力を込めて、日常で壊れにくくする程度なのだから。
創一さんみたいに、俺はまだ細かい作業での道具作りは出来ない。
上には上がいるから、努力をしたいと思えるんだ。
咲月で試す……傷つけない魔法のように。
星夜の下。
身につけたピンク縁のメガネを似合うか聞いてくる咲月に、俺は頷くしかなかった。
気持ちがこもっていなかったせいか、咲月がやけに不服そうにして頬を膨らませている。
「純星、私の顔を見てしっかり言ってよ」
やっぱり、咲月は不服らしい。
頬を膨らませながら、俺の顔をグイグイと咲月の方に向かせてくる。
咲月は女の子だが、結構積極的なんだよな。
幼馴染を加味しても、ここまで押しが強いと俺が困る。
「ごめん。咲月を見すぎてると、俺の気持ちが揺らぎそうな程に可愛かったからさ」
「じゅ、純星が……か、かわいい……って……!?」
どうして咲月は驚いたように固まっているのだろうか?
咲月の顔の前で手を振ると、咲月はハッとしたように目を丸くしていた。
それでも頬は夜よりも目立つ、ほんのりとした赤色のお化粧をしている。
「純星、素直なのはいいんだけど、唐突だから心臓に悪いよ」
「それはすまないな」
「なんで謝るの! 褒めてるんだよ?」
いい加減、その頬の膨らみを抑えてくれないだろうか。
頬を膨らませている咲月もいいが、俺からすれば自然体である咲月がちょうどいいのだ。
「もー、純星が頬を膨らませることを言ってるの!」
「一言も言ってない! てか、人の気持ちを読むな!」
「読んでない! 純星がわかりやすいだけだよ!」
そんな当たり前のような会話をして、お互いに顔を見合わせて笑った。
「で、このメガネ似合ってる?」
俺は改めて、足を止めて咲月を見た。
咲月のかけているピンク縁のメガネは、さきほど作業場で俺が作ったものだ。
メガネとはいえ、度が入っていないオシャレ用なので、視力のいい咲月がかけていても問題はない。
咲月を考えて作ったせいか、やけに咲月の顔にフィットしている。
透き通るような黄緑色の髪……そして、咲月の可愛らしい小顔さながらのもっちり白い肌。
全てを合いみても、答えはひとつしかないな。
幼馴染の顔をまじまじと見る日がくるとは、思ってもいなかった。
「うん、似合ってる。とても、咲月に似合ってるよ」
「似合ってるだけ……でも、純星らしい褒め言葉で、私は好きだよ」
そう言って笑みを浮かべる咲月に、俺はついつい頬を掻いた。
……どうしてだ。
咲月で魔法を試す関係……その前から、俺は咲月の一面に目を離せないものもあったが、余計に意識をしている。
夜の下に咲く咲月の笑みが、夜空を照らす月よりも眩しいのだ。
「……咲月、お前、本当に怪我するなよ」
「純星ってたまに言葉が下手だけど、優しい所は変わらないよね。それそれー」
と言って、咲月は俺の頬をわざとらしく押してくる。
「ねえ、純星。そうさんの魔法、純星が目指してるものだよね」
咲月はまるで心を読んでいるかのように、しっとりと染み入る声色で言ってきた。
――咲月の問いに、間違いはない。
俺は、創一さんの魔法を見て、心が揺れたんだ。
俺は相手に魔法を打てない、魔法陣を使えない……だから、正直なところ魔法に自信がなかった。
そんな中、お父さんが紹介してくれた創一さんは、咲月と同じように俺に魔法を見せてくれたんだ。
創一さんの魔法は傷つけないや、傷つけるとか関係なく、人々の心に語りかけるようで。
音の魔法――本来は大きな音を出して、相手の耳へ負荷を与えたり、爆発を起こす魔法。
だけど創一さんの魔法は、相手の心へと響かせる魔法だ。
魔法イコール相手に攻撃するもの、って見方を変えてくれる……それほどまでに洗練された魔法を俺は見たことがなかった。
魔法陣を使わないで魔法を打てる人が希少だから、考え方も希少なんだろうけどな。
俺は思わず、拳を握りしめていた。
「うん。俺は創一さんになりたい訳じゃなくて、俺なりの形として、目指すべきものだと思ったんだよ」
「……良かったね、そう思える、夢に出会えて」
ふと聞いた咲月の声は、どこか寂しそうだった。
「なあ、咲月」
「なに?」
「この後、俺の家寄っていかないか?」
「もしかして、私の料理食べたいとか?」
「そんな感じだ」
「仕方ないなー。一回うち戻ったら、純星の家に勝手に上がるね」
「てか、いい加減、合鍵返せよな」
「やだよ。純星の両親直々に渡されてるものだし、純星に返したらそれこそ無くしそうじゃん」
「……ご最もで」
実際、部屋が散らかり過ぎて一度鍵を無くしているので、咲月の言葉は重くのしかかるものがある。
ふと気づけば、横を透き通るような黄緑色の風が通り過ぎた。
そして彼女は、前に出て振り向いている。
「それじゃあ、家に着いたらすぐに行くからね」
「ああ、待ってる」
顔の下で小さく手を振る咲月に、俺は頷いた。
帰るべき、二つの屋根が見えたから。




