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第4章 交錯する運命、最後の戦い

 エリオットが下層区で指揮を執ってから、数日が経っていた。彼女の呼びかけに応じた数人の騎士と、怒れる民衆の志願兵たちは、「解放の剣」を自称し、瞬く間に下層区の支配権を確立していた。魔法の技術を持つ貴族出身の騎士と、地の利を知り、数で勝る民衆の連携は、予想以上に強力だった。しかし、王都を完全に掌握するには、圧倒的な武力と、何より「正当性」が必要だった。


「エリオット様、聖樹の森で、また大規模な魔力変動がありました! 王宮の結界が、さらに弱まっているようです!」


 疲労困憊のセドリックが、治療を受けたばかりの腕を押さえながら報告する。彼はエリオットのそばを離れようとせず、半ば強引に「解放の剣」の参謀役を買って出ていた。その青い瞳は、熱病のようにエリオットの背中を追っている。

「魔力の変動が激しくなるほど、王宮は焦る。リリアーヌ様を無理にでも動かすだろう…」


 エリオットの脳裏には、捕らえられたリリアーヌの姿がよぎった。聖樹の巫女の力を強制的に引き出せば、その反動で何が起こるか分からない。彼女の身体が、この世界の真のバランスを保つ鍵なのだ。


「セドリック、王宮の警備体制を調べてくれ。特に、リリアーヌ様が幽閉されているとされている『聖樹の間』の情報を急いで」

「承知いたしました! 死んででも果たして参ります!」

 セドリックは勢いよく敬礼すると、数人の精鋭を引き連れて闇の中へと消えていった。


 エリオットは空を見上げた。夜空に輝くクリスタルの光は、以前にも増して弱々しく、その下で繰り広げられる舞踏会の音楽は、もはや遠い幻のように聞こえた。このままでは、アルカディアは、その魔法の光と共に崩壊してしまう。民衆を救うためには、王政を倒すだけでは不十分だ。聖樹の魔力、そしてリリアーヌを守らねばならない。


 その頃、王宮の奥深くに隠された「聖樹の間」では、リリアーヌが、まさにその身を削っていた。


「もっとだ! 巫女よ! 聖樹の魔力を放て! この暴動を鎮めよ!」


 宰相の声が、石造りの空間に響き渡る。リリアーヌの手足は魔法の枷で拘束され、無理やり聖樹の根源と繋げられていた。彼女の身体から、かつてない量の魔力が引き出され、王都の結界を維持するために使われていく。


「やめて…! これ以上は、聖樹が…!」

 リリアーヌの肌は透けるように白く、唇からは血の気が失われていた。聖樹の魔力を無理に引き出せば、その恩恵を失うばかりか、森そのものが枯れ果ててしまう。それは、この国の生命線が絶たれることを意味した。


「黙れ、巫女! お前はただの人形だ! 国のため、王のために、その身を捧げるのが務めだろうが!」


 嘲笑う宰相の言葉に、リリアーヌは絶望の淵に突き落とされた。これまで信じてきた王家、そして自分の存在意義が、全て偽りだったのか。


 その時、聖樹の間の分厚い扉が、轟音と共に爆砕された。


「リリアーヌ様!」


 現れたのは、埃と血にまみれた、見覚えのある銀色の髪。エリオットだった。彼女の背後には、解放の剣の志願兵たち、そして、いつの間にか傷が癒えているセドリックが立っていた。彼らは、下層区から秘密の通路を通り、奇襲を仕掛けたのだ。


「エリオット!」

 リリアーヌの目に、希望の光が宿った。


「貴様ら、反逆者どもが! よくも王宮に乗り込んできたな!」

 宰相が叫び、聖樹の守護騎士団がエリオットたちに襲いかかる。エリオットは、迷いなく剣を振るった。彼女の剣は、もはや躊躇することなく、王家のために振るわれる刃を打ち砕く。


「リリアーヌ様! 今、助け出します!」

 セドリックは叫び、リリアーヌの元へと駆け寄ろうとするが、宰相が放った強力な魔法の障壁に阻まれた。


「無駄だ! 巫女を解放すれば、この王都の結界は崩壊する! そして、聖樹の森から、真の災厄が目覚めるのだ!」


 宰相の言葉に、エリオットの眉がひそめられた。真の災厄?

 その時、足元から、微かな振動が伝わってきた。それは、かつてないほどの巨大な魔力の脈動だった。聖樹の森から…?


 王宮全体が激しく揺れ始め、天井のクリスタルが崩れ落ちる。宰相は高笑いした。

「我が王の目的は、最初からこの王都の解放ではない! 巫女の力で、聖樹の封印を解き放ち、この世界の全てを手に入れることだ!」


 宰相の言葉が終わるか終わらないかのうちに、聖樹の森の方向から、漆黒の巨大な影が姿を現した。それは、太古の文献に記されていた「森の災厄モルフォ」と呼ばれる、すべてを無に帰す魔物だった。聖樹の魔力の乱れと、リリアーヌの力の強制的な引き出しによって、その封印が解かれてしまったのだ。


「まさか…こんなものが…!」


 エリオットは息を呑んだ。もはや、革命など些細な問題だった。この「森の災厄」が目覚めれば、王都どころか、この世界そのものが滅びかねない。


「セドリック! リリアーヌ様を解放しろ! 私が時間を稼ぐ!」

 エリオットは叫び、単身で宰相と守護騎士団に向かっていく。彼女の剣は、その身を挺してリリアーヌを守ろうと、稲妻のように閃いた。


 セドリックは、宰相の魔法の障壁に体当たりを繰り返す。その時、リリアーヌの拘束された手から、僅かな光が漏れ出た。彼女は、絞り出すような声でセドリックに語りかけた。

「セドリック…! 私の魔力を…私の身体に触れて…!」


 セドリックは、リリアーヌの言葉の意味を測りかねたが、迷わず彼女の伸ばされた手に触れた。その瞬間、彼の身体に、温かい魔力が流れ込んできた。リリアーヌが、自身の魔力を彼に流し込み、枷を破壊しようとしているのだ。


 エリオットは、宰相の強力な魔法と、守護騎士団の猛攻を受けながらも、決して退かない。彼女の背後には、大切な幼なじみと、そして守るべき世界がある。


「来い! どんな敵であろうと、私はこの剣で道を切り開く!」


 漆黒の「森の災厄」が、王宮へと迫りくる。絶体絶命の状況の中で、三人の若き運命は、再び交錯し、最後の戦いへと挑もうとしていた。

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