6.終焉、そして
6.終焉、そして
黒煙が渦巻く玉座の間。
魔道具の呪いに完全に支配されたバルヴァトスが、怒りに身を任せ、雄叫びの様な怒号を上げる。
ジグラルドとエマは、完璧な呼吸で剣と魔力を合わせ、バルヴァトスに立ち向かう。
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「……よくも……!よくも私の術を解いたな!人間の小娘一人に心を許した貴様など、魔王の名に値しないッ!!そんな姿になったお前など、見たくも無いわ!!」
目を血走らせて怒りのまま叫び、ジグラルドに切り掛かるバルヴァトス。
「うるっさいわね!」
エマが切り捨てる様に言い、間に入ってバルヴァトスの剣を弾いた。
「言わせてもらうけどね、あんたの方が、よっっっっぽど王様向いてないわよ!ジグラルドがあんたなんかよりず〜〜〜っと強くて優しいこと、私が一番知ってるんだから!比べるまでも無いわ!」
「小娘が!!!黙れぇぇぇぇぇ!!」
キッパリと言い放つエマに、バルヴァトスが金切り声で怒鳴る。エマに狙いを定め、そのまま剣を振り下ろした。
その瞬間、今度はジグラルドが間に割って入り、右手でエマを庇う様に抱き寄せ、左手をバルヴァトスへと突き出した。
「漆黒の盾」
ジグラルドの手から出る黒いモヤが斬撃を吸収し、その倍以上の衝撃がバルヴァトスを襲った。
「エマ……。そういう事を言う時は前もって教えてくれ。私の身がもたない」
エマがジグラルドの顔を見上げようとすると、顔を塞がれた。
「ちょっと今、見ないでくれるか」
塞がれていて顔は見えないが、かろうじて見えた耳まで、真っ赤に染まっていた。
⸻
「さあ、決めようかエマ。やつを私たちの手で終わらせる」
「うん、一緒に!」
背中合わせでバルヴァトスに向かい、エマは剣を構え、ジグラルドは左手をかざした。
「光の斬撃!」
「ラグナ・クレスト」
金色の斬撃と漆黒の波動が混じり合い、ふたりの力が重なって、巨大な光刃が生まれた。
バルヴァトスの全ての呪いを、欲望を、闇を――
貫いた。
「ギャアアアァァァ!!!!」
バルヴァトスが倒れ、塵の様に消えて無くなり、その場には腕輪だけが残った。
「完璧に消滅したな」
腕輪を拾いながら、バルヴァトスが言う。
「……終わったね」
「いや。これからが始まりだ」
「ん……?」
「エマ。お前の村に住みはっきりしたんだが、私は根本的に戦いが好きでは無い。私は魔界も、お前の村の様な、豊かで平和な場所にしたい。だから、私は魔界へ戻り、部下や魔族と共に、本格的に農業を行ってみようと思う」
エマはくすっと笑った。
「じゃあ、これから忙しくなるね。村に帰ったら、トマトときゅうりとじゃがいもの苗を持ってきてあげる。畑仕事って、本当に大変なんだからね!」
「肝にめいじておく。……だがそれ以降も、時々は魔界に来てくれないか?私もお前に会いにいく」
「ふふっ。うん、良いよ。畑の指導者も必要だろうし!それに……、私もジグラルドに会いたいしね」
こうして、長きにわたる魔界と人間界の争いは、本当の終焉を迎えた。
そして、ここから、ジグラルドとエマの、そして魔界と人間界の、新しい物語が始まった。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!