4.反乱の城
4.反乱の城
村人達とジグラルドが村中を駆け回りエマを探していると、魔界の統治を魔王に代わり行っている側近のクルトが血相を変えてジグラルドの元に訪れた。
服はズタボロに引き裂かれ、身体や顔にも争った跡が残っている。
「ジグラルド様!! 将軍バルヴァトスが、エマを人質に魔王城を拠点とし、反乱を起こしました!私が居ながら、大変申し訳ありません!!」
その瞬間、ジグラルドの瞳が、久しぶりに氷のように冷たくなった。
将軍バルヴァトス。野心家で、力こそ全てという考えを持つ、魔族の中でも群を抜いて底意地の悪い奴だ。
「バルヴァトスが……。和平にも良い顔はしていなかったが、反乱とは大舐められたものだな……」
だが、そんな事より、聞き捨てならない事がある。
「……エマを、人質に、したのか……?」
「はい。バルヴァトスが、自ら“魔王”を名乗り出て――」
「奴が、魔王、と名乗ったのか?」
「はい……。我々、魔王軍も対抗したのですが、奴は禁忌とされている魔道具を使用し強くなったようで……、今の魔界に奴に敵う者は……居ません。魔界は任せてくださいと、言ったばかりでのこの失態……、どう詫びればいいか……!」
悔しさに唇を噛み、自分の手を強く握り深く謝るクルト。
魔道具とは、強力な力を持った腕輪で、腕に嵌めると魔力が大幅に増すが、力の弱い者が使うと腕輪に心を乗っ取られ凶暴化してしまうという代物だ。
「あれを使ったか……」
ジグラルドはクルトの肩を優しく叩き、上を向かせると、力強く言う。
「お前はよくやった。後は、私に任せろ」
どうか、無事でいてくれ、エマ。
ジグラルドは、心の中で、そう呟いた。
〜〜〜〜
魔界――反逆者が拠点とした、かつての魔王城。
その最上階、黒き王座の前に、鎖で縛られた少女が立たされていた。
「離しなさいよッ! ジグラルドが来たら、絶対にあんたなんか――」
「ジグラルド……。“元”魔王、は人間ごときにそう呼ばせているのか?」
不気味に笑う、バルヴァトス。
ジグラルドの留守に乗じて勢力を拡大し、“真の魔王”を自称していた。
「ジグラルドは、貴様のような人間の小娘に心を奪われ、戦を放棄した。まさに魔界の恥」
「……あんたの方がよっぽど恥よ」
エマは睨みつけた。
「彼は、変わったんじゃない。強くなったのよ。誰かを守るってことを知ったから――」
「ふん、ならば証明してみせろ。
この“黒き呪いのキス”で、お前の心は我に染まる。
その目で、貴様の愛した男を、我が手で殺すがいい」
バルヴァトスの指先が触れると、エマの額に禍々しい紋章が浮かびあがった。