1.孤独な魔王と女勇者
第一章:孤独な魔王と女勇者
漆黒の空が広がる魔界の中心。
高くそびえる魔王城の玉座に、魔王ジグラルドはひとり、腰掛けていた。
その瞳は氷のように冷たく、だれにも心を開くことはなかった。
異常なほど強い魔力を待ち、家臣達にも恐れられる。
それゆえの、孤独。
「何もかもが、つまらないな……」
ジグラルドはそう呟き、握りしめた手のひらから漆黒の炎を揺らめかせる。
だがその日――
魔王の運命を変える存在が、城門を叩いた。
「魔王! お前を討伐に参上したっ!!覚悟っ!」
大きく、凛とした声が広間に響く。
だが、現れたのは、勇者とは思えない小柄な少女だった。
背中に背負った剣は彼女の体より長く、額には汗がにじんでいる。
「……なんだ、何かの冗談か? 子供か……?」
ジグラルドが嘲笑しかけた瞬間、彼女は力いっぱい剣を振り下ろす。
魔王の障壁を、鋭く切り裂いた。
――この小さな少女は、本物の“勇者”だった。
ジグラルドは、キッと強い瞳で自分だけを見つめる小さな勇者に、驚くほど鮮烈に心惹かれた。
初めて自分の中に沸いた強い感情に少し戸惑いを感じながら、突き動かされるように勇者に問いかける。
「お前、名は?」
「エマ!私は勇者エマだ!」
「……エマ。いい名前だ。」
満足気にエマの名前を復唱したジグラルドは、続けて言った。
「私の名は、ジグラルド。この勝負、私の負けでいい」
「へ?」
訳が分からないと、頭にクエスチョンを浮かべるエマ。
ジグラルドはエマの目の前まで歩み寄り、片膝をついてそっとエマの手をとり、見上げる姿勢で続ける。
「私は、お前に一目惚れした!なんとしても、お前が欲しい!こんな気持ちは初めてなんだ。だから、和平を結ぼう。そして、……どうか、俺を見捨てないでくれ」
「はあぁ?」
勇者エマは、盛大に、戸惑った。