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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

兎苔

真夜中の森

ウトリクラリアがあちこちに咲いている


少年は押し倒した僕に馬乗りになると、喉にその柔らかな指を食い込ませる

作戦は成功とも言えたし、大失敗とも言える状態だった


僕は状況がこちらの意図とは違うものになり始めている事実を彼に伝えようとしたが、少年の体重は僕と同程度のものであり、どう暴れても彼を跳ね除ける事は出来なかった


そうしている内に脳からは酸素が奪われていく


急に眼の前が暗くなる

もしかすると、僕はいま白眼を剥いているのかも知れなかった


「大丈夫ですか!?」


少年が慌てて僕から離れる

肺が呼吸と結び付き、眼が視える様になった

少年は、泣きそうになりながら必死で僕の肩を揺すっていた


「まずは…」


言いかけて、僕は激しく咳き込んだ

肉躰の苦痛が涙となって眼球から零れ落ち続ける

偶然かも知れないが、彼の首の絞め方はとても上手で体重の乗ったものだった


「首を絞めるのは、やめよう」


荒い呼吸を散々繰り返したあと、ようやく僕は一言そう言った

もう少し喋るつもりだったが、躰がぐったりとして話す気力が喪われていた


「もう止めましょう、死んじゃいますよ」


少年が涙を溜めた瞳で僕を視る

実際には、いま止めた場合こそ僕は生物として終焉を迎えてしまうのだが、説明は困難を極めた


「とにかく」


「方向性を変えよう」


焦る活力さえ無かった


僕は少年に刃物は持っていないかと尋ねたが、残念な事に所持していなかった

次回以降は僕自身が刃物を持っておく様にしよう

無論、生きていたらの話にはなるが


「馬乗りになるまでは良かった」


「でも、首は絞めなくていい」


「思いっ切り、僕の鼻の辺りを殴ってみて欲しいんだ」


「何度も、僕が血を流すまで」


ひっ、と声がする

少年は、これから自分がやらなくてはいけない行為に深く恐怖している様だった


僕は「血を流すまで」の部分を彼がちゃんと理解している事を願いながら眼を閉じ、両手を広げて仰向けに倒れた

躰を起こしているのがつらくなり始めていた


しかし、いつまで待っても拳が振り降ろされる事は無かった

訝しんだ僕が眼を開けると、彼は両手で顔を覆って静かに泣いていた


「出来ませんよ」


「僕には出来ないです…」


痺れを切らした僕は、ふっと吐息を彼に吹き掛けた


僕の躰から出た花粉を孕んだ風が、少年の呼吸に吸い込まれ消えていく

しばらくすると彼はうつろな視線で酩酊を始めた


『殴れ』 


視線を合わせて暗示をかける

少年はうつろな表情のまま僕に跨ると、僕の顔に両の拳を交互に振り降ろし始めた

顔に向けて拳は振るわれるが、僕は瞬きもせずそれを観察しなくてはならなかった


程無くして血が飛び散り始める

しかしそれは暴力に慣れていない、柔らかな少年の手の皮膚が裂けて流れ出した血液だった


僕の心は絶望に包まれた

「花も咲かせずに僕は死んでしまうのか」と思うと、自然と涙が溢れた



数分が経過した

僕は抵抗する力も無く殴られるに任せていた


少年の拳の軌道が曲がり、僕の右眼に突き刺さる

もう痛みなど感じなくなっていたかに思えたのに、僕は刺すような激しい痛みに声を上げていた



その時、ようやく返り血が少年に降り掛かったらしかった


片眼が潰れているため確認出来なかったが、血が粘膜に付着でもしたのか、直ぐに特有の変異が彼に発生し始めた

具体的には彼の躰に一輪、僕の躰にもあるような花が咲いていた



少年が正気を取り戻す


僕の花粉の毒が抜けた訳では無い

むしろ、「躰の総てが毒になった」のだ


『ありがとう』


僕は彼に、言語に依存しない形式で語り掛けた

もう僕たちには言葉すら必要無かった


『ここでいつまでも、一緒に咲いていよう』


僕たちの四肢が絡まり合っていく

ウトリクラリアが咲いている

とても気持ちが良かった

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