一歩先に行く勇気
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。もしかしたらショッキングな場面もあるかも知れません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
高校生活が無い生活が想像出来ない三年生の春。僕は、窓際の席から外の桜の艶やかなピンク色を見詰めていた。
恋愛は世界に色を付けると、誰かが言っていた気がする。誰だっただろうか。もしかしたら恋愛アニメのセリフかも知れない。
僕の名前は油橙秀樹。自慢では無いが、イケメンである。
自慢では無いが、大勢の女性に言い寄られる。自慢では無いがこの高校二年間、女子に告白された数は凡そ十七回である。
そして自慢では無いが、生徒会長である。
自慢では無いが超絶ハイスペック男性だ。自慢では無いが。
「おーどうした秀樹。そんな桜を眺めて」
僕の頭を教科書で叩きながら、そんなことを誰かが言った。その教科書を鬱陶しがる様に払い除けた。
「桜を見てても良いだろ。どーせ春にしか見えないんだから」
彼の名前は青水毅。俺の幼馴染である。そして、褒めている訳では無いがイケメンである。褒めている訳では無い。
小学生、いや、幼稚園の頃からずっと同じだ。小学校も中学校も、そして勿論高校も。
それにしても毅は一年中を通してずっと長袖だ。
「どうだ? 進学するか就活するか決めたか?」
「まだ。考えることが多いんだよ」
「それじゃあ彼女は?」
「いない。いる訳無いだろ」
自慢では無いが僕達は言わばイケメンコンビ。黄色い声が教室の外から良く聞こえる。その女子達に、毅はにっこりとした笑顔で手を振っていた。そしてまた黄色い歓声が大きく響いていた。アイドルで生きていけるんじゃ無いだろうか。
女子達は僕達が誰と付き合うのか何時も話している。だが、僕は女子と付き合うことは無い。何故なら――。
「なー秀樹。メロンパン食べるか?」
「……食べる。くれ」
僕は、毅が好きだからだ。
親友としてでは無い。まあ、あれだ。僕の恋は俗に言うBL、もしくは薔薇と言う存在なんだろう。
……小学、中学、高校と、僕達は同じ場所にいた。だが、これ以上はもう難しい。もう大人に近付いている僕達は、全く違う道へ進むだろう。
ああ、そうだ。そうに決まっている。
この恋心を時間と共に風化させるか、それとも玉砕覚悟で突撃するか。……僕には、後者をする勇気は無い。そんな勇気があるのなら、この高校生活三年間ずっと拗らせていない。
「そう言えば、ずっと聞きたかったんだが何で高校三年間ずっと長袖なんだ」
「知りたいか?」
「知りたいから聞いたんだ」
「じゃあ言わない」
「だろうな」
彼は少し変な所もある。
まあ大抵のことは知っている。幼馴染だからな。
何時も通り先生が教卓に立ち、その後の授業を続けている。
チョークで黒板を叩く音で妙に眠くなる。これは小学生の頃からずっと同じだ。もうこれは人類の本能的に眠気を誘き寄せる音なのだろう。
前にある毅の方を見ると、明らかに眠っている。毅が眠っている時は分かり易い癖がある。下げた頭の上に右手を乗せる。
僕だけが知っているその癖。それを自覚すると、何とも言えぬ愉悦感がある。まあ、幼馴染の特権と言う物だ。愉悦感位感じても良いだろう。
授業終わりに、僕は眠っている毅の頭を教科書で叩いた。
「……あ、もう朝か」
「朝は終わって授業も終わってるぞ」
「そうだったか。あーねむ……春の風は温かいから本当に眠い……」
「ああそう」
毅の眠気を吹き飛ばさせる様にもう一度教科書でその頭を叩いた。
結局、僕は毅と親友でいたい。その為に動いてしまっている。この関係が壊れてしまうのが恐ろしいのだ。
そんな僕の気持ちも分からず、毅はただ僕に向けて笑い掛けるだけ。その笑顔に苛立ちも覚えてしまう。その苛立ちも結局僕が僕に苛立っているだけ。
春は過ぎ行き、桜は舞い散り、青々しい葉が木々に実る夏の日。
……とても暇だ。と言うか色々考えることが多過ぎてもう頭が爆発している。
就職か、それとも進学か。進学なら何処に進学するか、進学の為の勉強もしないといけないし。就職なら何処に行くか、等々。
あー面倒臭い。……いや、生徒会長だから意外と何とかなるかも……知れないかも知れない。
生徒会長をやったと言う実績は有利になる。と言うかその為に生徒会長になった。だからどっちでも良いのだが……やはり悩む。
こう言う時毅がいれば、意外と的を射ている方向へ導いてくれる。だが、これは僕の問題だ。毅を巻き込む訳にはいかない。
一人暮らしのLDKの部屋で、僕は寝転び天井を眺めながら熟考していた。答えは一向に導き出せないまま。
「……あー! どうするどうするどうするどうするどうするどうするー!!」
あー駄目だ。頭がこんがらがって訳分からないことになり始めた。
それに、将来の夢も良く分からない。決めてないとも言える。
結局、何も考えていない。この高校生の青春を終わらせたく無いからでもあり、この高校生の青春を楽しんでいるからでもある。
このままエンドレスに夏を繰り返せば、どれだけ良いだろうか。一生夏休みで良いのに。
……いや、それだと毅と会えない。その一点だけで、僕の願望は一番起こって欲しく無い出来事の一つに変わってしまった。
ずっとずっと悩んでいると、家のチャイムが鳴った。体を起き上がらせて玄関に向かうと、またチャイムが鳴った。今度は何度も連続で鳴り響いた。近所迷惑になるので辞めて欲しい。
玄関を開けてその迷惑客を見た。
「誰で――」
「秀樹! おい秀樹! 金持って来い! 電車乗るぞ!」
そこには毅がいた。確かに何時出会っても嬉しいが、ここまで急に来るとは思わなかった。何時もの毅なら連絡の一つ位入れてくれるはずだ。
「どうした毅。いきなり押し掛けてきて」
「良いから金持って着いて来い! 電車乗って海行くぞ!」
「はぁ!? いきなりどうした!?」
毅の顔には、何故かガーゼが一つ貼られていた。
「それどうしたんだ」
「これか? 家でぶつけた。いや、それは良いんだよ! 良いから海に行くぞ!」
「だーからちょっと待て! あー……! 分かった! 海行くか!」
「だから行くぞ! 金だけで良い! 眺めるだけだからな!」
毅の勢いに負けてしまって了承してしまった。本当は今日一日就職か進学の何方を選ぶか考えようとしていたが、まあ毅が行きたいと言うのなら余程の理由が無い限り親友の僕はそれを快く承諾するべきだろう。
……少し位、思い出を作りたいとも思ってしまった。別々の道へ行けば、辛い物になると理解しているはずなのに。
僕は家の中を荒らし、財布を片手に毅と共に近場の駅へ向かった。道中は、毅が長袖を着ている所為で汗だくになりながらも全速力で走っていた。
「秀樹! 何やってるんだ! その調子だと海に着く頃には夜になっちまうぞ!」
「まず何で海に行きたいんだよ!!」
「夏と行ったら海だろ! 中々行けないし!」
「それは毅がいっつもバイトに明け暮れてるからだろ!!」
「だからこそ今行きたいんだよ!」
何だか毅の様子がおかしい。こんな男では無かったはずだ。
毅はもっとこう……イケメンオーラを放ちながら優雅に歩くか、もしくはボケーっとしているかの二択だ。特に僕の前だとボケーっとしている。
こんなに元気ハツラツに暑い中長袖で全速力で走る様な性格では無かったはずだ。
偽物が僕を誘き寄せて食べようとしているのでは無いかと、そんな幼稚で馬鹿みたいな妄想をしてしまう程には、今の毅の行動には違和感を覚える。
すると、毅はその汗だくの手で僕の手を掴むと、半ば僕を引き摺る様に走り出した。
暑い。ああ、暑い。何故だろうか。僕はあまり汗をかかないのに、こんな猛暑でも額に汗の一滴も浮かばないのに、毅の手を握っている手に、多くの汗をかいていた。
ああ、駄目だ。これ以上握っていると、僕はこの一夏を風化出来なくなってしまう。この夏を、忘れることを拒んでしまう。
それでも、離したくない。拒んでいる。拒んでしまっている。
……もう、これ以上僕の心を掻き乱さないでくれ。もう叶わない恋と言うのも分かっているんだ。
だから、毅から拒んでくれ。僕はこれを拒もうとしていない。
それを伝える勇気も無い。
駅で、次の電車を待った。僕達はもう息を切らしていた。
「あーあっつ。流石に夏真っ只中を長袖で走るとヤバいな。こんな時位半袖で来れば良かった」
「僕みたいにTシャツ着れば良いだろ」
「秀樹みたいに夏服がある訳じゃ無いんだよ」
「どれだけ金に困ってんだよ」
「そりゃまあ、バイトする位には。早くに親が死んで色々大変なんだよこっちは」
「……ああ、そうか。三回忌が去年だったな」
「そーそー。こっちは妹育てる為に大変なんだよ」
「妹ちゃんは今年で何歳だっけ?」
「来年高校生デビュー。遂にJKになっちまう。あーやだやだJCのまま止まってくれないかな」
「でもお前、前に妹がウザいって言ってただろ」
「家族が一人になると自然と情が湧くんだよ。お前だって分かるだろ気持ちくらい」
「……まーな」
僕達は顔を合わせ、笑いあった。
僕は、早々に弟を亡くしている。その時一緒に母親も。
まだ物心付いていない頃の話だ。何もかも理解出来ずに、何故かもう二度と会えないことだけを知って幼稚園でも泣き喚いていたらしい。そこで出会ったのが、毅だった。
恐らく僕の恋は、そこから始まっていたのだろう。
……やっぱり、終わらせたくないな。
「お、電車来たな」
相変わらずボロっちくて三両しかない電車だ。酷い時には二両しかない。まあ人が乗っている所を日曜日にしか見ないから仕方が無いのだろう。
僕達は電車に乗った。相当な時間をかけて、僕達は海へ行く。本当に何故行きたいのか。
車内はエアコンが稼動しているお陰で相当涼しかった。毅もここなら快適に過ごせるだろう。
「あー暑かった。地球様は何でこんな暑い季節を作ったのか……」
「何だ、科学の話でもして欲しいのか?」
「頼んだぞ生徒会長」
「仕方無いな……。この地球って言うのは、太陽の周りを回る公転に対して自転の軸が傾いているんだよな。大体23度位だったはず。その所為で太陽の光が当たる時間に変化が出来た訳だ。光が長時間当たると当たり前だが温度も上がる。その季節が夏だ」
「何で傾いてるんだ」
「知らん。多分衝突して傾いたんだろ」
そればかりは僕に聞かれても困る。そう言うのは天文学者に聞いてくれ。
「そう言えば結局、秀樹は就職するのか?」
「……まだ決めてない。進学しても良いとは思ってるけど」
「じゃあ、お前は進学しろ」
「は? 何で」
「俺より頭良いから。頭良い奴が頭良くなる為に大学があるんだぞ? だったら行かないと損だろ。だから行け。幼馴染からの命令だ」
「……お前命令出来る程権力無いだろ」
「何言ってんだ。俺は内閣総理大臣も決められる最高権力者だぜ?」
「民主主義の日本の国民が最高権力者なのは当たり前だ。それだったら僕も最高権力者だ」
「天皇ってすげぇよな。人権も無いのにあんな激務やってんだぜ」
「話がコロコロ変わるな」
「俺だったら絶対やりたくない。絶対あれ精神ぶっ壊れるって。だってあれだろ? 休んだら駄目なんだろ?」
「政治参加の権利も無いからな。公務を休めば政治に干渉したことになる。……確か」
「何でそんなに自信が無さそうなんだよ」
「あんまりここは覚えてないんだよ。何でも知ってるラプラスの悪魔じゃ無いんだぞ僕は」
「何だその厨二病溢れるかっちょ良い名前は」
電車で揺れながら、一つ目の駅を通り過ぎた。相変わらず毅といると時間が早く流れてしまう。
……ああ、もう二つ目を通り過ぎてしまった。
「すこーし思ったことがあるんだよ」
「何だよ毅」
「いや、お前この高校生三年間一人も彼女作ってないだろ。モテるのに勿体無いねぇ」
「毅もだろ」
「まぁ確かに。だが俺はバイトで忙しいからと言う明確な理由がある」
「僕も会社運営で忙しいんだ」
「お前会社運営してたのか!?」
「……あれ? 言ってなかったか? じゃあ今言った」
「初耳だぞおい! で、どれ位なんだ」
「何が?」
「そりゃお前、月収だよ」
「あー……どれ位なんだろ。確か……月収60万とか行くのか。まだ小さいな」
「それで小さいのかよ。年収700万超えるぞ」
「目標年収1000万」
「まじかお前。養ってくれ」
「僕はそれでも良いが、毅はどう思う」
「……やっぱり自分で稼ぎます」
毅のこう言う所が、僕の心を掴んでくる。
毅の体から汗が吹き飛んだ頃、もう三つと四つ目の駅を通り過ぎていた。
……もう、ずっとここで毅と話していたい。ここでなら、僕の気持ちを打ち明けなくても、毅と一緒にいられる。海が離れてしまえば良いのに。
「キリスト教ってよ」
「毅の口からそんな言葉が出るなんて……お前誰だ!?」
「青水毅だよ!! お前の親友!!」
「まあ冗談はこれまでにして。キリスト教で、何だ?」
「キリスト教ってよ、何で同性愛禁止してるんだ?」
「……どうした。男が好きなのか?」
「そう言う訳じゃ無いけどよ。ちょっと気になったんだよ」
「……そうか。……そうだよな。うん。……新約聖書の一つには、偶像崇拝や婚前性交渉、魔術や占いをする者と共に男色する者は神の国を相続しないって書かれてるんだよ。キリスト教が広がった欧米とかだと同性愛は聖書において指弾されるされる性的逸脱で、宗教上の罪になってきた訳だ。しかも伝統的にそれがあった訳だからな。ヒンドゥー教とかも同性愛を禁止していたはずだ」
「あーはいはい。つまりあれだ。日本の男色文化が無くなったのはキリスト教の伝来の所為か」
「まーそうだな。近代化に伴って西洋化を押し進めたって中学で習っただろ? あの影響でもある。GHQの政策もあったし。妾とかの文化も消えたしな」
「戦前にも妾ってあったのか!? その時代に生まれたかった……」
「妾を持つことが一種のステータスにもなってたらしいぞ。養える位金持ってる証拠だからな」
「おのれGHQめ」
「……ま、どんな意見でもある程度は尊重してやる」
そうだ。ある程度は尊重することは出来る。……ただ……。……ああ。
もう五つ目の駅を通り過ぎてしまい、六つ目の駅を通り過ぎようとしていた。
電車の中から窓の外を見てみると、もう太陽が相当傾いていた。僕達が電車に乗ったのが、何時かは分からないがもう数時間は経っているはずだ。
ずっと、この電車の中で、隣に座っている毅の横顔を眺めながら、もう数時間経ってしまった。
そろそろ、海の近場の駅に着く。たった二人で、ちょっとした旅行に近い。
「お、そろそろか。さーて、そろそろ海に行きたかった理由を言うか」
「やっぱりあったのか」
「砂浜に行ったら教えてやる」
やがて僕達は、七つ目の駅で降りた。
太陽が周りの山に隠れようとしている。もう空は赤く染まり、魑魅魍魎が跋扈し始める時間に差し掛かって来た。
そんな赤色で身を包みながら、毅は全速力で走っていた。
「おら行くぞ! このままだと日が暮れちまうぞ!」
毅の笑顔に負けてしまって、僕も一緒に走ってしまった。
横断歩道も無い道路を走って横断し、ガードレールを飛び越えて、その向こうにある海へ向かった。
毅が一番に砂浜に足跡を残して、その向こうの海に向かった。海は青いはずなのに、夕焼けの所為で真っ赤に染まっている。
そこに浮かぶ一つの人影。それが毅だった。僕は、それをただ眺めていた。
あの長袖の毅は、此方に振り向くとにっこりと笑ってくれた。
やはりあいつはイケメンだ。無駄に顔が整っている。顔が整っているから僕は好きになったと言うことでは無いが。僕は毅が毅だったから好きになった。それはきっと変わらない。
僕は、波打ち際に座り込んだ。赤い海の上で燥ぎ回っている毅を眺めながら、その光景を目に焼き付けていた。そうするだけで、何故か嬉しくなってしまう。
……この夏は、きっと今年で最後なのだろう。毅と共に過ごす夏は、これで最後なのだろう。
青春とは儚い。人の人生の十分の一よりも短い期間の思い出は一生の宝物ではあるが、その時以外では手に入らない儚い物だ。
……ああ、今日を繰り返せば、どれだけ幸せだろうか。毅と一緒にこんな馬鹿みたいなことをする一日を繰り返せば、どれだけ良いのだろうか。
毅はきっとそれを望まない。それを願わない。結局僕の思いは毅を苦しめてしまう物なのだろう。
毅は僕の隣に座った。
「今日海に行きたかった理由、聞きたいか?」
「当たり前だ。いきなり連れて来やがって」
「実はな、もう会えないかも知れないんだ。ああ、あまり深く聞かないでくれ」
「……そうか。分かった。……本当に会えないのか?」
「あくまで会えないかも知れないだ。もしかしたら会えるかも知れない。まだ分からないから、言えなかった。ま、海に行きたかったのは、せめてお前と一緒に夏らしいことをしたかったからだ。……あー! 満足だ! もう悔いは無い!」
「……そうか」
……もう、出会えないのはどうすれば良いんだ。……いや、もう覚悟していたはずだ。高校生生活が終われば高確率で別れること位分かっていたはずだ。
結局、僕の我儘に過ぎない。だから僕は……。……伝えないといけない。親友としての関係を崩しても、この気持ちを燻ったままにする方が、嫌だ。
「……毅」
「何だよ。お前も何かあるのか」
「……お前は、僕からどんなことを言われても親友でいられるか?」
「相当な悪口じゃ無かったらな」
「……そうか。……そう……だよな」
……言うんだ。言え。言えるはずだ。
「……僕は、お前が好きだ。毅。親友としてじゃ無くて、お前が好きだ」
その言葉を聞いた毅は、目を見開いていた。先程までの笑顔を崩し、少し考える様な素振りを見せると何時も通りの笑顔を見せた。
「秀樹、残念だったな。俺には彼女がいる」
「はぁ!? 聞いてないぞおい!!」
「じゃあ今言った!!」
「僕の純情を弄びやがってこのヤロウ!! どんな相手だこら!!」
「俺のことが大好きな女の子!!」
「クッソ……僕の勇気を無駄にしやがって……。……これならまだ気持ち悪がられた方が良かったぞ……」
「あっはっは!! 俺とお前は一生の親友だ! それ以上の仲にはならないんだよ!!」
……毅は、何時も通りだった。特に何も感じていないらしい。
……ああ、そうだ。これで良い。
勇気を出したら、こんな馬鹿みたいな結果になった。まあ、悔いは無い。
これで良いんだ。これで、良い。
「……はぁー……告白したら疲れた。帰るのがダルい……」
日が沈み切った夜空を見上げながら、砂浜で体を仰向きにさせた。
「……さて、そろそろ帰るか。毅はもう何も無いな?」
「そうだな……。……ああ、これを最後に言わせてくれ」
「何だよ」
「俺とお前は一生親友だ。だから、俺のことを――」
毅は、今日で一番にっこりと笑った。
「忘れないでくれ」
そのまま、二人の日帰り旅行は終わった――。
――毅は大きく輝く朝日を、高層ビルの屋上から見詰めていた。
そこにある落下防止の柵をよじ登り、その上に立った。
「……あぁ……気持ち良いな。ずっとこんな風が吹けば、どれだけ良いのか」
その毅の背後に、女性の様な体型をしている人物が立っていた。毅はそれに気付くと、振り向いて親しげに話し掛けた。
「ああ、来てくれたんですか。本当に済みません」
「いいえ。良いのよ。……別に止める訳では無いけど、本当に良いの?」
「良いんですよ。妹がそれで幸せに暮らせるのなら」
「……そう。分かったわ」
毅はもう一度、朝日を見た。
「……最後に、あいつと話せて良かった。……キリスト教何か生まれなかったら、あいつの気持ちも受け入れられたはずなのにな……」
毅の瞳から一粒、何かが落ちた。それを切っ掛けに、溢れ続けた。
「駄目だよなぁ……あいつを、一瞬だけ、気持ち悪く思っちまった……。親友なのに……一瞬だけ……」
限界まで水を入れられて膨らんでしまった水風船に針が突き刺さった様に、毅の心は破裂してしまい中に溜まっていた水を溢れさせてしまっていた。
毅は未だに、彼のことを一番の親友だと思っている。それに、変わりは無い。ずっとずっと、それに変わりは無い。
それは、自分だけの感情だとしても。
毅は、一歩先に行く勇気を出した。
足をたった一歩、前に出した。
近付いて来る地面を眺め、頬を殴り付けて来る風を感じながら、毅は一言呟いた。
「ざまぁみろ」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
読んでくれた人はもう分かったはずです。タイトルの意味が。
ただのBLと思った方々、大変申し訳御座いませんでした……!!
いや……本当に……これで許して下さい……!! (_;´꒳`;):_
いや! あの! まだ死んだとは限りません! 何かの拍子にケロッと生き残ってるかも知れません!!
……えー……そのー……何で飛び降りたのかは、ご想像にお任せ致します。
私の短編はそればっかりです。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……