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第六話

あまりにオマージュネタが多いので、飽きた方もいらっしゃるかと思います。スルーしてください。自分でも、今になると恥ずかしいんです!(ぇ


第六話


早朝4時。

窓の外からは薄い光が射しており、うっすらと目の裏を刺激する。

いつも通りの時間に僕は目を覚ます。

「……?」

いつも通りの気配がない。何かの罠だろうか。

僕はゆっくりと体を起こすと、何かの気配がないかと僕は目を凝らして耳を澄ませてみるが、アリシアの姿は部屋の中にない。

電気をつける紐を手探ってみる。部屋の明かりがついたが、彼女の姿はどこにもなかった。

「アリシア?」

ユジューは身体的よりも、精神的な存在の方が重要なので、短い時間の睡眠でも問題ないとアリシアは言っていた。そのため、毎朝のように早朝彼女はやってくる。

僕はゆっくりとドアを開く。扉の外には誰もいなかった。

何か罠でも仕掛けられているのではないかと、僕は慎重に歩む。

「アリシアー? 今日はいないの?」

彼女が住まう客室の前へと向かう。

僕は部屋の扉をノックした。返事はない。

「アリシア?」

ゆっくりと扉を開く。部屋の中は暗闇に包まれていた。

僕はゆっくりと足を進める。

ベッドにかけられた布団は大きく膨らんでいた。時々小さく上下する。

アリシアはベッドで眠っていた。今日はどうやら空腹で目覚めることはなかったようだ。

それがわかってほっとすると同時に頭の中を疑問が満たす。どうして彼女は今日、起きて来なかったのだろうか。

「ん……ゆうたろ……」

僕はいきなり名前を呼ばれてドキっとする。そういえば、僕は女の子が寝ている部屋に無断侵入しているのだ。状況を考えれば僕は大変なことをしているのだ。

僕は急いで部屋を後にする。心臓は大きな音を立てて脈を刻む。そして、ちょっとばかしの罪悪感が心に芽生えてくる。

「は、はは。いつもアリシアだって勝手に僕の部屋に入ってるじゃないか。何を今更戸惑う必要なんかあるんだよ……」

そうは言い聞かせても動悸は止まらない。彼女の寝顔を思い出すと、思わず頬が熱くなる。

そういえば、彼女の寝顔を拝んだのは初めてではないだろうか。疲れなどないかというほどはしゃぎ回り、授業中もしっかり勉強(といっても彼女にとっては暇潰しにしかならないのだろうが)し、夜遅くまで昼寝もしない彼女の寝顔はそうそう拝めるものではない。

そう思うと、じっくり鑑賞できなかったのは残念だ。

「何考えてるんだ、僕! アリシアの寝顔なんて別に……」

そう、彼女には散々迷惑をかけられている。正直いない方がどれだけマシか。そんな相手にときめいてどうしようというのだ。

「そもそも勝手に住みついて、何様のつもりなんだよ!」

彼女の寝顔が頭の中からかき消える。どんどんイライラだけが募っていき、心は不満に満たされる。

「……ふう」

だが、そんなことを彼女に言っても仕方がない。そう、アリシアは迷惑な存在なのだ。

こう考えると、さっきまでの動悸もいくらか落ち着いてくる。

「寝よう。どうせ今日は日曜日だ。遅くなっても大丈夫……」

僕はフラフラと自分の部屋へと向かう。

布団の中に収まり、目を瞑る。日頃疲れが溜まっているからだろうか、すぐに眠気は襲ってきた。

それでも意識が途切れる直前、彼女の寝顔がもう一度浮かんできた。僕は顔をしかめた。



「おっきっろっ! ゆーたろーっ!」

「う、うわ、何事!?」

僕は突然の攻撃で目が覚める。いつもの夢食い攻撃ではなく、物理的手段に訴える方法だった。

僕はベッドから転げ落ちる。目の前にはアリシアの姿。だが、いつもとなんだか違う。

「あ、アリシア!?」

「ユウタロウ、目が覚めた?」

「それより、その格好どうしたの?」

視界の端に時計が映る。時刻は午前6時。結局大して眠れなかった計算だ。

彼女が身にまとっていたのは……桃色のブラウスに若草色のミニスカート。そう、昨日トモミが着ていた格好とほとんど変わらない。

「えへへ、可愛い? メセブリィに言って作らせたの」

彼女はくるくると回る。ミニスカートがひらひらと宙を舞い、けしからんこと大間違いだった。僕はふいと視線を逸らす。正直見ていてこっちが気恥ずかしい。

「何、視線なんか逸らしちゃって? そんなに私が着ると似合わない?」

「いや、そのぱんつが……」

時々白い下着が見える。というのも、僕はベッドから転がり落ちて床に寝転んでいるわけで、角度的にどうしても見えてしまう。

「何よ、もっと見る?」

「見ないよ!」

ユジューの辞書にはしたないという言葉は存在しないのだろうか。僕は起き上がってぽりぽりと頭を掻く。

「で、そんな格好して今日はどうしたの?」

彼女はぽかんとした表情を浮かべる。

「昨日の話、聞いてなかったの? 今日はデートに行く約束でしょ?」

「え、ええ!?」

記憶を漁ると、そういえばそんな約束をしたような気がする。いや、あれはただ反射的に頷いただけで、行くと決めたわけではない。

「うんって言ったじゃない」

「あれはだってその、行くって意味じゃなくて……」

彼女からは無言のオーラが立ち上っている。行かなければどうなってしまうだろうか。恐らくとんでもない目に合わされるに違いない。

「わ、わかったよ! 行くって!」

「今日は絹布茶房に行くわよー!」

絹布茶房といえば甘味処として有名なチェーン店である。先日もテレビで紹介されたばかりだ。

「まったくもう……あれ、何か忘れてるような……」

何か先約が入っていたような気がする。だが、思い出すことはできない。

「でも、その前に朝ご飯ね」

「はいはい……」

エサやり業務を思うと、そんな思い出せもしないことはどうでもよかった。

僕は諦めて台所へと向かう。僕の周りを嬉しそうにアリシアがくるくる回っていた。



絹布茶房は商店街を奥に行ったところにあるデパートの一角にある。

そこまでステップを踏む彼女と一緒に歩くことになったわけだが……。

「ねえユウタロウ、見て見て! これ美味しそう!」

一区画歩く度に様々な店のショーウィンドウに張り付く彼女は物凄く目立っていた。

下手に顔立ちがいいだけでなく、紺碧の流れるような髪に美しい琥珀色の瞳は黒髪黒目の日本人の中では異彩を放つ。彼女が一歩歩く度に視線が集中することがとても恥ずかしかった。

「ね、ねえアリシア、もう少しこう、節度を持ってさぁ……」

「あ、あの中華まん!」

もはや僕の言葉など聞こえていないようだった。サークルキューの中華まんのケースに張り付いて涎をこぼしている。僕は頭を抱えたてうずくまりたくなった。

「アリシア! 早く行くよ!」

「あーん、中華まんが私を呼んでいる~」

未練タラタラの彼女を引きずりながら、僕はデパートへとまっすぐ邁進する。

ようやくデパートに到着して少し静かになった彼女を連れて、まっすぐに絹布茶房へと向かう。

「着いたよ」

と思いきや、早速ショーウィンドウにびったりと張り付いている。

「わぁ~……早速目移りしそうだわ!」

「……はぁ」

ショーウィンドウの中には色とりどりなデザートが溢れ返っている。

「何を目的に来たの」

「……はっ! そうだったわね! さぁ~あんこ入りフルーツクリームパスタライスパフェ、食べるわよ!」

彼女の元気な行進を先頭に入店する。

「いらっしゃいませ、お二人様で……」

そこでウェイトレスの言葉が途切れる。なんだか聞き覚えのあるような声だった気がする。

「ユウタロウ君?」

「え、あ、まさかトモミ!?」

そう、僕の目の前にはトモミがウェイトレスの格好をして立っていた。

「あら、なんでここにあなたがいるのかしら」

アリシアが不思議そうな顔をして尋ねる。

「ここで私、バイトしてるの。時給結構いいし、日曜日だけでもいいって言ってくれたからね。それより二人はどうしてここに?」

「デー……」

「ここのパフェをアリシアが食べたいってうるさいんだよ! それで仕方なく連れてきたんだよ!」

「ふーん……なるほどね」

面白くなさそうな顔でそう言うと、彼女は僕達を席へと案内する。ちょっと奥まったところにある四人席だった。

「トモミー! 私あんこ入りフルーツクリームパスタライスパフェね! あと、テレビ見たから抹茶クリームサービスしてねー!」

アリシアは席につくやいきなり注文する。トモミはポケットから伝票を取り出してさらさらと書く。

「うん、ユウタロウ君は?」

「え、あ、僕はアイス抹茶でいいよ」

「かしこまりました」

そう言って彼女は一礼した後にメニューを持って下がる。

「そうか、ここでバイトしてたんだなぁ……」

トモミがどこかで週一でバイトしていることは知っていたが、まさかここでやっているとは思っていもいなかった。ということは、ここでの会話は全て彼女に筒抜けということになる。迂闊なことは話せない。

「ねえねえユウタロウ。あんこ入りフルーツクリームパスタライスパフェってどんな味なんだろう」

「食べたことないっていうか、名前から中身が想像できないからなんとも言えないよ……。とりあえず甘いんじゃない?」

「あれを頼む人、初めて見たよ」

気付くと、トモミは椅子に座って普通にお喋りに混じっていた。

「あ、え、仕事は?」

「今の時間帯はまだ忙しくないの。忙しくなるのはお昼から夕方にかけてかな。ここ、レストランもやってるから、お昼ご飯に利用する人も結構多いの。その後は甘味目当ての人達でいっぱい。だけど、午前中は比較的楽なんだよ」

「なるほど……って、だからってサボってていいの?」

「大丈夫だよ」

そう言うと、彼女はお冷やのコップを傾ける。わざわざ自分の分も用意したようだ。

「作るのは裏方の仕事だし、私達の仕事はお客さんの注文を承って、それを運ぶだけ。あのパフェはかなり時間かかるだろうし、他のお客さんなんて小説家のあの人しかいないから大丈夫」

「小説家のあの人って……?」

彼女はゆっくりと指を差す。その先にはコーヒー片手にひたすらノートパソコンに向かって何かを打ち続けているおじさんの姿があった。

「そこそこ売れてる小説家なんだって。毎日コーヒーとスイートポテトを注文しに来てるらしいよ」

「コーヒーはともかく……スイートポテト?」

「ここの名物で、あったかいスイートポテトの上にソフトクリーム載せたやつなの。あ、ほら運ばれてきた」

それは確かに彼女の言う通りのものだった。黄色いポテトの塊の上にどっかりとソフトクリームが居座っている。ポテトはアツアツなのか、ソフトクリームの根本の方から徐々にとろけ始めている。

彼はスプーン片手に原稿を打ち続ける。スプーンが舞う度にソフトクリームの山は崩され、ポテトと一緒に口へと運ばれていく。そして、一口咀嚼する度に原稿の文字が打ち込まれていく。

「いつもあんな感じだよ」

「小説家って仕事も大変なんだな」

「神崎さーん! パスタライスパフェ入りました」

「はい、今行きます」

彼女は立ち上がると、巨大なパフェとアイス抹茶をトレイに乗せて運んでくる。それを重そうにテーブルへと下す。

「あんこ入りフルーツクリームパスタライスパフェと、アイス抹茶です」

「キター!」

それはテーブルに置かれて彼女の首元まで届く巨大なカップに飾られて出現した。

下部にはもち米とあんこをミックスしたものが入れられ、中段にはクリームパスタ。上段には数々のフルーツとアイスクリーム、あんこで彩られている。その上から抹茶のクリームソースがかけられてこの作品は出来上がっていた。

「凄いボリューム……」

「あはは! 美味しそう!」

「実はこれ、大食いメニューのうちの一つなんだよね。十分以内に完食したら1000円の賞金付き。負けたら2000円だけどね。どうする、挑戦する?」

「それ、挑戦しなかったらどうなるの……?」

「普通に1500円……今はセールで980円かな」

彼女は一瞬で答えを決める。

「挑戦する!」

その言葉を待っていたと言わんばかりに、トモミはストップウォッチを取り出した。

「心の準備はいい?」

「任せちゃってよ!」

「じゃあいくよ……。よーい、どん!」

ストップウォッチのボタンが押された。少しずつ時間が刻まれていく。

まずはアイスを押しのけフルーツから片付ける作戦に出るようだ。メロン、イチゴ、リンゴ、オレンジなどのフルーツの盛り合わせだけでもかなりの量がある。だが、そんなものなどモロともせずにアリシアは平らげる。

次の難関はアイスクリームだ。冷たいのをそのまま頬張れば頭にキーンとくること間違いなしだ。

だが、あえて彼女はそれをする。だが、彼女は冷静だった。そのまま塊ごとではなく、細かく崩してあんこと混ぜこんで口へと運んでいく。こうすることによって、一度に受けるダメージは微々たる物となる。

「アイスとあんこ……新しい組み合わせね」

彼女はう頷きながらあんこアイスを食べていく。

「早い……」

「いえ、まだこれからだよ」

続いてパスタゾーンだ。パスタには甘い生クリームが絡められており、ここまで甘味続きの相手にはなかなか手強い相手である。だが、アリシアはそんなものはモロともせずに完食する。

「残り5分!」

残り5分で半分以上平らげた計算になる。普通の人ならお腹いっぱいになってしまうが、彼女はそうはいかない。

最終段階はもち米とあんこのミックスだ。

もち米は案外腹に溜まるものだ。事前にパスタを食べている身には堪えるはずだ。

だが、そんなことなどまるでなかったかのようにもち米をすくい上げて口に運ぶ。

「ん~あんこが美味しいっ! それにもちもちした食感……たまらなぁいわぁ!」

器を一気に傾け、まさに流し込むという表現が正しいような勢いで飲み干す。

「ごくっごくっ……ぷはぁ。美味しかったわ!」

ストップウォッチが止められる。残時間3分12秒。十分好成績だと言えるだろう。

「アリシア、やったじゃん!」

「美味しかったわ。あ、ありがと」

アリシアは千円分のキャッシュバックを受ける。

「ところで、もう一杯おかわりしていい?」

「ちょ、アリシア!?」

彼女の表情は本気だった。このままでは本当にやりかねない。

トモミ達の表情にも困惑が浮かんでいる。このままでは店が潰される。そんな危機感を覚えたのだろう。

「今度は普通に食べるわよ。それならいいでしょ?」

「それだったら……」

トモミは向こうの方にいる店員と何かを話をしている。

「普通に食べる分なら構わないって」

「やったね! じゃあお願いね~」

トモミは伝票に書き足す。そして、注文をしに一度店の裏方へと消えていった。

「お腹いっぱいじゃないの?」

「うーん……ちょっと?」

普段からかなりの量を食べるアリシアだ。このくらいではビクともしないのだろう。

「もち米一合、パスタ二束茹でてるはずなんだけどなぁ」

「うわ、トモミ!?」

いつの間にか戻ってきたのか、トモミはまたしても会話に溶け込んでいた。

「それだけあったら普通、お腹いっぱいになるよね」

「でも、アリシアちゃんだからなぁ……。普段食べてる量を思い返すと、これくらいすぐ入っちゃいそう……。それで太らないんだからびっくりだよね。ユジューって本当に不思議」

「リオナはどうなの?」

「リオナは……普段は私の感情と夢を食べてるし、お弁当もちょっと多めにしてるから大丈夫みたい」

「大丈夫なの……?」

彼女はこくりと頷く。思えば、彼女が感情を爆発させたというのは見たことがない。それは普段から感情をリオナに食べさせているからだろうか。

「リオナは……凄くいい子だよ。私の感情を食べて、私に共感してくれるの。楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと……そういうことを全部共有して、私のことを思ってくれて……本当にいい友達だと思ってるの。まあ、ちょっと扱いが大変だけどね」

彼女はうまくユジューとの共同生活に適応しているようだ。だが、僕の場合はストレスが溜まりっぱなしで、彼女のようにうまくアリシアと付き合えていないような気がする。

ならば、アリシアにこのストレスを食べてもらうというのはどうだろうか。だが、僕としてはこんな感情を他人とは共有したくない。できることなら自分の胸の内に秘めていたかった。

「神崎さーん!」

「はい、今行きます!」

トモミは立ち上がると、店の裏側に消えていく。やがて大きなトレイにこれまた大きなカップを載せてトモミが戻ってくる。

「あんこ入りフルーツクリームパスタライスパフェです」

トモミは重そうにカップをグラスを置いた。アリシアの目はすぐに輝き、むしゃむしゃと食べ始める。

それを見届けると、トモミは僕の隣に腰を下した。

「ねえユウタロウ君、アリシアちゃんとはうまくやれてる?」

「うーん……やっぱり扱いが大変だよ……」

「私も最初はそうだった。なかなかこっちの常識に馴染めないリオナを何度も投げ出したくなったよ。でも、リオナは私の心を共有して、それでどんどんこっちの知識を学んでいった。だから今のリオナがあるのかな」

「じゃあ……僕もアリシアと心を共有した方がいいのかな?」

トモミは寂しそうな表情を浮かべて首を振る。

「これは最善手じゃないよ。自分の嫌なところも、そういうところも全部知られてしまう。そういうの、特にユウタロウ君は嫌でしょ?」

「それは……」

自分の嫌な部分……それを日の元に晒し出そうというのか。

僕は……そんなことは耐えられない。

「じゃあ、一つずつ教えていくしかないね」

「ユウタロウ君……無理してるでしょ?」

彼女の言葉は核心をついていた。そう、僕は確かに無理をしている。

今までの生活から比べれば、今の生活はとてつもなく負荷がかかる生活を送っている。毎晩夜には勉強をする間もなくぶっ倒れてしまう。それほどまでにアリシアには振り回されていた。

「これは私がリオナと暮らしてきて思ったことだけど……そこまでして、私達にユジューを養う必要があるのかな……?」

僕はアリシアを見る。彼女はすでに三段目のパスタゾーンに入っていた。話など一言も聞いてはいない。

「ユウタロウ君は男の子でしょ? 女の子に見られるの、嫌なこととかたくさんないのかな……? 私、もしリオナが男の子だったら……放っぽり出しちゃったかもしれない」

彼女の顔は真剣だ。同性だから我慢できた。その顔はそう物語っている。

だが、僕の場合はどうだ。アリシアは女の子で、僕は男だ。

正直、心の中を探られるなんてことは絶対にされたくない。暗い過去を詮索され、暴き出されるだなんて絶対に嫌だ。

「ユウタロウ君……無理だけはしちゃダメだよ?」

かたり、とアイス抹茶の氷が音を立てて溶ける。僕は一口も飲んでいないアイス抹茶を見つめながら、一人思索に耽っていた。



「お帰りくださいませお客様。またのご来店をお待ちしておりません」

ギャグなのか本気なのかわからない口調でトモミが言う。半分は恐らく本心だろう。

「今度来るとしたら僕だけで来るよ。アリシアを連れてくるとややこしいからさ、ね」

「そうしてもらえると嬉しいよ……」

彼女はどんよりと落ち着いている。これで彼女達の給料カットなんてことになったら大変である。

「後片付けだけしたら休憩だから、後で少しお茶でもする?」

「いや、アリシアが元気に動き回るからちょっと休憩ってわけにはいかなそう……また今度にしてもらってもいいかな?」

「そう……ちょっと残念だな」

彼女は本当に残念そうに言った。

「きっとこの埋め合わせはするからさ! じゃ、また明日ね」

「うん、またね」

僕はトモミと別れてアリシアを探す。まったく一体どこへ行ってしまったのだろうか。

「あ、ユウタロウ!」

アリシアの声が聞こえてくる。だが、姿が見えない。

「ユウタロウ、こっちこっち」

「……え?」

いつの間にこんなに買い込んだのだろうか。両腕一杯にあんパンやクリームパン、チョコレートパンにジャムパン……様々なパンが入った紙袋が彼女の手にあった。

「いつの間に……」

「さっきあそこのパン屋さんで買ったの。美味しいよ」

そう言って彼女はあんパンを一個差し出す。僕はありがたく一個いただくことにする。

「あ、ホントだ、美味しい」

「でしょ? さすが北海道産小豆を厳選使用ね。特に生クリームと混ぜ合わせているあたりが素晴らしいと思うわ……あ!」

何かを見つけたのか、彼女はパンの紙袋を僕に押し付けると、突然どこかへと走り出す。

「何を見つけたんだろう……」

しばらくして彼女は紙袋を手に戻ってきた。

「あん団子、美味しい~っ!」

「あの……パンは?」

「ちゃんと食べるわよ。はい、ジャムパンちょうだい」

僕は紙袋の中に入っていたジャムパンを取り出すと、アリシアへと手渡した。彼女はもさもさとジャムパンを食べながら、左手に持ったあん団子を食べる。

「これぞまさしく和と洋の融合……和洋折衷ね!」

これを和洋折衷と言ってもよいのだろうか。僕にはただあん団子を食べながらジャムパンを食べているようにしか思えない。だが、その消費スピードの早いこと。気付くとジャムパンはすでになく、あん団子も串だけになっていた。

「次メロンパンちょうだい。メロンパンはこのサクサクのところとモフモフのところを交互に食べるのがいいのよ!」

「それ、どっかでも聞いたことがあるんだけど……」

彼女はリスのようにカリカリとメロンパンの端っこを食べ、もさもさと熊のように柔らかい部分を食べる。

「次あんパンね。確かあんパンは坂を上りきったときに……」

「あんまりやりすぎると原作者に怒られるからね? ほどほどにしておきなよ」

僕は一応注意をしておく。あまり放っておくと、つい行き過ぎてしまう。たまにストップをかけなければならない。

「じゃああんパンは普通に食べるわよ。あー美味しいわ」

僕はパンの入った袋を手に椅子へ腰かける。

……なぜ僕はこんなところで荷物持ちをさせられているのだろう。気付くとパンだけでなく、いつの間にか団子のケースまで持っていた。このままでは衝動買いしたもの全てを持たされるかもしれない。となると最悪の場合、瓦煎餅とかを背負うことになりそうだ。

「あ、見て! あの変な形のお煎餅!」

そもそも、なんで僕は彼女に付き合ってこんなことをしているのだろうか。

「かわら……せんべい?」

よく考えてみよう。

僕にこんな義務はないはずだ。

せっかくの休日を下らないことに使って、前の僕ならば絶対に考えられない。

……逃げだそう。いや、正しい姿に戻るといえばいいのだろうか。

僕は彼女に気付かれないようにこっそり店から離れる。

「あ、待ってよー! ユウタロー!」

もう、こんな日々はうんざりだ。

急ぎ足は徐々に駆け足へと変化する。

僕は家の方へと向かって走り出していた。

ラブコメ編急展開です。

こっちの後書きはmixiで自分でつけたコメを参考に書くことにしました。

ただし、後半になるにつれてあんまりコメントが付かなくなったので、今後真っ白になる可能性がなきにしもあらずです・・・。

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