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第四話

またしても後悔したくなるようなネタが詰まっています。

その辺は華麗にスルーしていただけると助かります。

第四話


「あの……感触……」

彼女は胸の傷を癒しながら、少年の心の一端に触れたときの感触を思い返していた。

今まで命を食らって生きてきた彼女が久しぶりに舐め取った心、感情。

それはかつて忘れかけていた欲望という名の蜜の味を思い出させるには十分だった。

「あの少年……欲しい」

彼女は久しぶりに心を欲望に支配される。

長年吸血鬼として恐れられる生活を送ってきた彼女だったが、再び昔のようにお茶を楽しみながら感情を舐める生活も楽しいかもしれない。

「うふふふ、決めた」

熱い感情を持っていた少年のことを思い描く。彼の心は熱く、燃えるような勢いを秘めていたにもかかわらず、蕩ける和合水のように淫らで甘い。辛味と甘味の融合、これはなんて脳裏を刺激するデザートだろうか。

「ユウタロウが欲しい。ユウタロウの様々な感情が欲しい。怒り、悲しみ、喜び、楽しみ、それらを混ぜ合わせたモノは一体どんな味がするのかしら……」

闇の環が彼女の胸の傷を癒す。それはほぼ塞がりつつあった。

「元気になったら彼に会いに行きましょう。そして、私のものにするの。死ぬような苦痛を与え、天にも昇るような快楽を与え、理性を壊しながらミックスジュースを作り、生き血を混ぜて飲み干すの。ああっ! 想像するだけでも背筋がゾクゾクするわぁっ!」

漆黒の翼を広げ、彼女自身の姿を包み込む。

それは更なる力を胸部に集中させ、傷の治りを早くする。

「そのためには治療が先……お楽しみは後にとっておかないと……ね」



「ごめんごめん、機嫌直してよ……、ね?」

「……」

翌日の教室、僕は不機嫌な表情を浮かべるコウにひたすら謝る。

僕達は昨日レルフィムを退けた後、喫茶店で一人待つコウのことを忘れて帰宅してしまったのだ。

彼は実に閉館する10時まで待っていたという。映画が終わったのが7時頃であることを考えると、物凄い忍耐力である。

「先に帰るとか酷くないか? しかも四人だぜ? 誰か一人くらい俺のことを思い出さなかったのか?」

「いや、その……あの後色々あってさ、それで皆自分のことで精いっぱいだったんだよ。それで、つい……」

「つい、じゃねーよ! そんなことで人のこと忘れるなよ!」

彼の目はふるふると潤んでいる。やっぱり寂しかったのだろう。

「今度やったらただじゃおかねーぞ? 全員に罰金1000円は払ってもらわないと気が済まないぞ?」

やけに現実的な値段に、彼が本気でそう考えていることがわかる。

「わ、わかったよ。今度やったら1000円払うよ」

誰の了承も得ないまま、僕は彼の言葉を承諾する。いざというときは僕が思い出してあげればいいのだ。そうすればわざわざ全員で彼に1000円ずつ支払う必要はない。

「ったく……疑心暗鬼に陥りそうだぜ……」

彼はぷいとそっぽを向いて椅子に座り直す。一応機嫌は直ったのだろう。

「ユウタロウ君」

そのとき、トモミが現れる。

「明日の土曜日どうしようか。クッキー作る約束……」

「あ……」

コウのことは忘れていたのに、こっちの約束は覚えているようだった。

「材料とか買いたいんだけど、付き合ってもらえるかな」

「うん、いいよ」

クッキーの材料とはどんなものなのだろうか。クッキーというと、チョコチップクッキー、ジンジャークッキー、アイスボックスクッキーなど、色々な種類が思いつく。

「ユウタロウ君は甘いの苦手?」

「ううん、好きだけど?」

「よかった。それならどんなクッキーでも美味しく食べられると思うよ。それと、コウ君とリオナにもお土産にしないと可哀想だよね。多めに作ろっか」

「お、俺の分も焼いてくれるの!? ラッキー」

彼はとても嬉しそうに笑う。

「なんだか美味しそうな話ね」

そのとき、ポテトチップスの袋を片手に持ったアリシアが現れる。

「アリシア、休み時間中だからって……」

「いいじゃない。お腹空いちゃうんだから。じゃないとまた自動販売……もごもご!」

僕はアリシアの口を押さえた。あの後自動販売機が破壊されたことによって全校集会が実施され、外部からの侵入者によって自動販売機が破壊されたということになっている。あれ以来学校全体の警備が厳しくなり、一時的に不審者対策として警備員が雇用された。それほどまでの大事件となっているので、アレを生徒のせいだと誰かに知られるのは非常にマズイのである。

「自動販売機は壊されちゃったからもうないよ!」

「あれは酷い事件だったね。あそこのパンを楽しみにしている生徒はいっぱいいたのに……」

「食堂のメシなんかより美味いモンもあるからな。まったく……壊したヤツがわかったらとっちめてやる!」

というように、そのことを恨んでいる生徒はかなり多い。生命線として使っていた者すらいたほどだ。これがアリシア(と僕)のせいだとわかれば一体どんな目にあうか……想像に難くない。

「仕方がないから今日は食堂のお弁当だね」

「でもアレは競争率が高いぞ? 先にコンビニで買ってくるんだったな」

「というわけでアリシア、頑張ってね! と、ところでどんなクッキーを作るの?」

どうにかして話を自動販売機から逸らそうとする。なんとしてでも暴露するわけにはいかない。

「うーん……簡単なプレーンクッキーからかな……。普通に小麦粉とバター、卵を練って型にはめて作るの。ユウタロウ君の家にはクッキーの型とか、そういう道具はあるかな?」

「多分ないと思う。母がそういうお菓子を作っていたという話は聞かないし、父も忙しくてそんな暇はなかったはずだから……」

「じゃあ、道具とかも持っていくね。オーブンはある?」

「あるよ」

彼女はうんうんと頷きながら必要な道具を挙げていく。

「じゃあ、私が持っていく物はクッキーの型くらいかな。小麦粉とバター、お砂糖はある?」

「どれくらい必要?」

彼女は次々に必要な材料を挙げていく。どうやら一部の材料が足りなそうだった。

「うん、今確認しといてよかった。一日で材料も買ったら、夕方になっちゃう」

「何か夕方に用事でもあるの?」

「せっかくだからティータイムに間に合うほうがいいかなって思うの。あんまり遅いとお腹いっぱいになっちゃうでしょ?」

「なるほど……」

「じゃあまた放課後にね」

彼女は軽い足取りで教室から出ていく。

「話は聞いていたね」

「うわ、リオナ!?」

どこからともなく突然現れるリオナ。

「凄く嬉しそうにしてたね。私が知る限りでは初デートね」

「で、でででデートなんてそんな!?」

僕は思わず慌ててしまう。デートだなんてことは考えてもいなかった。

「で、でもアリシアもいるんじゃ……」

「あら、私は今日はまっすぐ帰るつもりよ。四時半から夢の美食ツアーがあるのよ」

「それって……テレビ番組の?」

彼女はこくこくと頷いた。そういえば、毎週金曜日の夕方から始まる低視聴率の番組である。美食とは名ばかり、世界中の珍品妙品を紹介する番組でこの世界の知識を仕入れるためと言い張って毎週見ている。おそらく、ただ単に美味しそうなものを見たいからだろう。200ペソ賭ける。

「じゃあ俺は200人民元賭ける」

「じゃあ私は200SEED賭けるね」

「どこの通貨だよ……」

「TWね。とても面白いね」

ともかく、今日の寄り道には僕の他にはトモミしかいない。これは実質デートということになる。

そう考えると、途端に心臓が高鳴る。

よく考えてみろ、と自分に促す。彼女とは何度も二人きりで帰り道を共にした仲である。そんなに構えることはないではないか、と。

だが、二人きりで出かけたことなどあっただろうか。いずれの場合もコウやリオナが一緒に着いてきた場合がほとんどだ。いや、ほとんどというよりだけと言った方が正しい。

「どどどどうしよう!? 何着て行こう!?」

「帰り道だろ。制服のままなんじゃないのか?」

冷静になれ。いや、クールになれ。クールになれ、坂下ユウタロウ。

こんなことでは彼女に笑われてしまう。いや、呆れられてしまうだろう。

「トモミに何かあったら絶対に許さないね。一木一草鼠一匹彼女に触れさせずに死守するね!」

「Yes,Sir!」

「いや、そこまでする必要はないだろ……」



「ば、バターってどれを買えばいいのかな?」

「有塩バターだったらどれでもいいよ。一番安い『俺のバター』がいいかな?」

「名前がアレだね……」

トモミは仰々しい字体で刻印されたバターを手に取る。

ユウタロウはそれを震える手で受け取った。

「おいおい大丈夫か……?」

「ダメダメなのね」

「アリシアは本当に薄情ね。テレビ見たさに本当に帰るとかありえないのね」

「まあアリシアちゃんにはアリシアちゃんの事情があるんだから察してやろうぜ?」

スーパーを学生服の少年少女が二人……コウとユウタロウが怪しげな様子で歩いている。それは明らかに目立つものではあったが、ユウタロウ達は気付かないようだ。

「強力粉はあるよね? 打ち粉に少し使うんだけど……」

「うん。それならまだ余ってたと思う」

「じゃあ薄力粉を買いましょう」

二人は製菓コーナーへと向かう。その後をやはり二人はこっそりと後を付ける。

「何を言ってるかわかるか?」

「全然わからないね」

製菓コーナーには様々なお菓子の材料が並んでいた。

アーモンド、チョコレート、ナッツなどのデコレーション材料、簡単なお菓子の作成キットなどが並べられている。その中からトモミは薄力粉を選び出す。

「あれ……?」

そんな製菓コーナーに並ぶ人影の中、ユウタロウは頭を抱えたくなるような立ちつくしているのを発見する。

「あ、アリシア……?」

彼女はこんにゃくゼリー作成キットを右手に、そして左手に携帯テレビを持って目を皿のようにして見つめていた。

「寒天ゼリー……寒天ゼリー……いえ、そんなことより二人を探さないと……」

彼女は私服……最初に現れたときも着ていたあのドレスをベースとした、鎧姿で悩み続けていた。周りでは主婦達がまるで別世界の生物を眺めるかのような目で彼女を見つめている。

「アリシアちゃん……? 何やってるの?」

そんな彼女にトモミは何のためらいもなく話し掛ける。

「え、あ、ユウタロウ!? それにトモミ!?」

「えーっと……テレビ見に帰ったんじゃないの?」

「て、テレビなら見てるわよ!」

そう言ってどこから入手したのか、携帯テレビを見せつけるように掲げる。

「……いつも家のテレビで見てるよね」

「べ、別にあなた達が気になったから来たとか、そういうわけじゃないわよ!?」

ユウタロウは大きくため息をつく。その後方でコウとリオナもため息をつく。

「何してるね……」

「あちゃー……台無しだな……。ってかあの服なんだよ……。なんていうか、RPGのお姫様みたいな服だな」

「アリシアは常識がわかってないね。だから平然とあんな格好ができるね」

アリシアは発見されたことに慌てつつも、こんにゃくゼリーを片手にテレビを突き出す。

「ともかく、私はこの寒天ゼリーを買いに来たのよ!」

彼女の言葉もあながち間違いではないようだ。テレビではどこぞの名物である寒天ゼリーについて、ゲスト達がよくわからないことを議論していた。

「言い訳がすごいな」

「もうメチャクチャね」

ユウタロウはもう一度盛大なため息をつく。

「それ、寒天じゃなくてこんにゃくだよ……」

「わ、わかってるわよ! 私だって寒天を探していたんだから!」

トモミはしばらくの間棚を見つめていたが、やがてゆっくりと手を伸ばす。

「はい、寒天」

彼女が差し出したのは棒寒天。寒天を使用した料理を作る際には必須といえるアイテムである。

「あ……ありがと……」

アリシアはゆっくりと寒天を受け取る。

「寒天を使ったゼリーはゼラチンのゼリーと比べて固くなるから注意してね」

「う、うん……」

アリシアはぽかんとしたまま棒寒天を持って唖然としたままその場につっ立っていた。それに対し、トモミは声をかける。

「一緒にお買い物する?」

「え、あ、い、いいの?」

彼女はさも当然だという様子で頷いた。

「じゃ、じゃあご一緒しちゃおうかな」

ぎしぎしと鎧の一部が音を立てて動く。

「なんなのね。まったくユウタロウは役立たずなのね。一木一草鼠一匹触れさせるなという命令を無視してるのね。これは軍法会議ものなのね」

「いや、厳密には守ってるぞ? アリシアは物理的には触ってない。そこは近付けさせるなって命令を出しておくべきだったな」

「はッ! 一生の不覚ね!」

リオナはどんよりとした空気をまとって落ち込む。コウは慰めるようにぽんぽんと肩を叩いた。

「あ、アリシア? ところでアリシアは何を買うつもりなの?」

「うーん……あとはフルーツの缶詰かな……」

「缶詰はあっちだね! 僕達もう終わりだから、じゃあね!」

「待ちなさい、ユウタロウ。ここまで来たからには付き合ってもらうわ」

「ええ!? なんで!?」

ユウタロウからはありありと拒否のオーラがにじみ出る。今まで二人っきりでいられたという空間を崩されたくないのだ。だが、トモミはすぐに頷いた。

「せっかくだし、付き合ってあげよっか」

「ええ!? なんで!?」

数秒前と同じセリフを言うユウタロウ。しかしその意見は聞き届けられず、すでに歩き出す二人。

「あー、なんだかユウタロウが可哀想だな……」

「なのね。まったく、アリシアは全然空気が読めないのね」

だが、アリシアはずんずんと缶詰コーナーへと突き進む。

「あ、アリシア~!」

「あったわ。何の缶詰がいいの?」

「好きなフルーツの缶詰がいいかな。桃とかみたいに一種類のでもいいし、ミックスフルーツでいろんな種類を楽しむのでもOKだよ」

二人はどんなフルーツにするかの話で盛り上がる。まるでユウタロウなどそこには存在しないのではないかというほどの盛り上がりっぷりだった。

「ホントユウタロウ可哀想だな」

「完全にアリシアにリードを持ってかれたのね。ユウタロウに期待した私がバカだったね」

「あ、その、そろそろ会計行こうよ。ね?」

「あとジュースを買わないと。寒天とフルーツミックスだけじゃ具だけでゼリーに味がつかないよ」

そう言って、今度はジュースコーナーへと向かう。

「そろそろ助けてやるしかないな」

「まったくダメダメなのね」

二人は諦めて物影から体を出し、三人の前に姿を表す。

「おい、お前ら偶然だな」

「え、コウにリオナ!? ど、どうしてここに!?」

「明日写真展があるって話したろ。結構缶詰にされるっぽいから、食糧とか買いに来たんだ。で、リオナが手伝ってくれるっていうからな」

「そ、そういうわけで買い物に来たのね」

いつの間に用意したのか、彼の手には買い物カートと山積みの菓子。そして飲料物。

「リオナが?」

トモミが不思議そうに首を傾げる。

「いや、俺の写真を見たいっつってな。それで、会場の設営とかその辺手伝ってもらうことになったんだよ」

「え、写真展ってコウの写真も載るの?」

「当たり前だろ? 現役写真部エースを舐めんなよ?」

そう言って彼はガッツポーズを取る。今の瞬間まで、ここにいる全員が彼が写真部所属であることを忘れていた。

「帰宅部だと思ってたよ」

「私も」

「私もね」

「部活なんか入ってたの?」

コウは全力どんよりモードに突入する。

「俺なんか……俺なんか……どうせ空気だよ。アルゴンよりも存在感薄くていてもいなくてもあんまり変わらない存在なんだよ」

「ま、まあ写真展に出品できるんだから、きききっと凄いことなんだよ!」

「……はぁ。俺の存在感の薄さが認識できた時点でもういいよ。十分すぎる収穫だな」

「い、行くよ! 一日だけじゃないんでしょ!?」

「そうだよ。明日と明後日の二日間だな」

「じゃあ明後日行くよ! 明後日だったら空いてるし!」

「ほ、ホントに来てくれるのか……?」

「うん、絶対行く!」

コウは先ほどまでのどんよりモードを吹き飛ばし、一気に元気になる。

「うおっしゃぁ! リオナ、明日の設置頑張るぞ!」

「あいさーなのね!」

こうして、五人は今日もダベりながらスーパーを後にした。



通学路。それは長いようで短い雑談場。ちょっとした報告、告白、漫才を繰り広げるのである。

だが、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

「じゃあアリシアちゃん、ユウタロウ君。また明日ね」

「うん。明日はよろしくね」

「ゼリーの作り方も教えなさいよね」

「うん、明日一緒に教えてあげる」

それだけ言うと、リオナを伴って歩き始める。

「俺も明日は写真展の準備があるからな。じゃあな」

たくさんの食糧を両手に彼も十字路で曲がって進んでいく。

「じゃあ僕達は帰ろうか」

「そうしましょう」

こうして僕達はまっすぐに進む。

やがて、彼女と出会った公園にたどり着く。あの事件以来、通るは自重してきたが、たまにはいいかもしれない。

「こっちの方が近いよ」

僕は公園の方へと一歩一歩、足を踏み出す。

彼女も黙って後をついて歩く。

公園には緑の木々が生い茂り、夏と春の境目らしい世界を作り上げていた。

夕闇は西に傾き、徐々に辺りを闇が支配つつある。

「ちょっと待って」

彼女が突然制止の声をかける。

「これを見て」

彼女が指をさす方を見る。

「これは……シグマ……?」

「エルフィドを形成するシグマの一端ね」

そこにはシグマ特有の陣が広がり、中央に一本の黒い剣が深々と突き刺さっていた。

「エルフィド……?」

「今までのカードは皆自分の世界を展開していたでしょ。あれをエルフィドというんだけど……これはそんな小規模のものじゃない。街そのものを飲み込むほどの強力なエルフィドの一端ね」

アリシアは何のためらいもなく剣を引き抜く。すると、シグマを形成していた陣は崩れ、そして剣と共に消滅する。

「消えた……」

「これはたくさん張られている陣の内の一つでしょうね。これと同じものが数十……いえ、下手すると数百は設置されている可能性があるわ」

「そんなにたくさん……」

「これほどの陣を張り、維持するには、それだけ力が必要よ。つまり、これを作って回っているヤツはとんでもない力の持ち主ってことね」

それは、この先とてつもなく強い敵と戦わなければならないかもしれないということを意味している。先日の戦いなど、ただの試し撃ちなのかもしれない。

「これは……レルフィム?」

「恐らくそうね。下手をすると大変なことになるわ。この街の人々全てをそのエルフィドの中に収めることができれば、それこそ世界のバランスを崩しかねないほどの力が生まれることになるわ。彼女は純粋な生命力を糧としているだけあってかなり手強い。これが発動する前に倒さないと……大変なことになるわ」

今までシグマが展開されていた場所をじっと見つめるアリシア。これと同じものが数十数百存在する。もしそれが一斉に効力を発揮すれば、この街はまさに地獄となる。

「帰りましょう。今出来ることはもうないわ。さすがにシグマ全てを見つけ出してエルフィドの発動を阻止することはできなさそうだし……」

「となると、発動する前に本体を叩くしかないね」

彼女は複雑な表情を浮かべて考え込む。

「そう簡単にいけたらいいんだけどね……」

何を考えているのか、僕にはそれはわからなかった。

けれども、街を守るために彼女が戦ってくれるということが純粋に嬉しかった。

「ありがとう、アリシア」

「……え?」

「ううん、なんでもない。帰ろう。寒天ゼリーが待ってるよ」

寒天ゼリーを思い出した瞬間、彼女の表情が変化する。

「そうよそうよ! 早く帰って作らないと! こんなことをしてる場合じゃないわ!」

そう言うと、まっすぐに僕の家の方へと全力疾走を始めるアリシア。

僕もそれに倣って少しだけ走ってみることにする。

たまにはこうやって運動をすることもいいのかもしれない。

だが、後に僕は嘆くこととなる。

適当にこなしていた運動程度の体力では捌ききれない過酷な戦いが待っていたのだった。

特に書くこともないので、以降は後書きなどは真っ白になる可能性大です。

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