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第十二話

おめでとう、ラブコメのバーゲンセールだよ!

第十二話


「おはよー」

いつもの場所で皆と会う。

コウ、トモミ、リオナはすでに来ていた。

「いよう」

「おはよう」

「おはようね」

レルフィムとアリシアも頭を下げて朝のあいさつをする。

「おはよう」

「おはようございます」

「……誰?」

レルフィムを見てコウが硬直する。彼女はニコリと笑った。

「あ、えっと……その……従姉妹! そう、従姉妹だよ!」

「……またか?」

「うん! 僕よりアリシアの方が近いかな! レルフィムって言うんだよ」

「ご紹介にあずかりましたレルフィムです。以後お見知りおきを」

そう言ってレルフィムは優雅な礼をする。

コウは僕の頭をヘッドロックで抱え込むと、そのまま万力のような力でギリギリと絞め始める。

「おい、こんな美女二人と同棲だなんてどういう了見だぁ? ちょいとそこらへん、しっかりシメとかないとダメか? あぁ? なんか言ってみろよ。おい、言ってみろよぉ!」

「いた、いたたたたた! ちょ、コウ! ストップストップ!」

レルフィムはくすくすと笑う。アリシアやトモミ、リオナも面白がるだけでちっとも助けてくれない。

「いや、コウ! マジで痛いから!」

「そりゃそうだろうよ。痛くしてるんだからな」

今日も僕達の世界は平和だ。

こんななんでもないような日常が繰り広げられている。それはとても楽しいことだった。

そうして話しながら歩いているうちに昨日ノエルにあった場所まで到着する。

こうして今になって思うと、昨日の出来事がまるで嘘のように思えてくる。

本当に僕はあんな命のやりとりをしたのだろうか。隣で笑っているアリシアは死ぬような怪我を負った。レルフィムも苦しい戦いを強いられた。あんな出来事が昨日あったのだろうか。

今の平和な日常を思うと、まるで蜃気楼のようにさえ感じられる。

「ユウタロウ? どうかしたの?」

ふと、気付くとアリシアが心配そうな表情で僕の顔を覗き込んでいた。

「なんだか複雑な表情してるよ?」

「ん、なんでもないよ」

僕は頬をぱんぱんと叩くと、にっこり笑った。

「ただ、僕はこんな毎日を享受できて幸せだなって思っただけだよ」

「?」

彼女は不思議そうな表情を浮かべる。

「さ、早く行こう」

「うん、そうだね」

僕らは並んで歩き始める。

今日も平和で楽しい一日になりそうだった。



「じゃあまた後でね」

昇降口でレルフィムと別れる。この瞬間が一番ほっとする瞬間だった。

「一生戻ってこなくてもいいわよ」

「あなたこそ邪魔だからくっついてこなくていいわよ?」

アリシアとレルフィムの睨み合いが始まる。そこで僕はまた頭を抱えてうずくまりたくなる。

「レルフィムちゃんは学年違うのか?」

「んー、まあそんな感じ?」

階段を上ればそこは三年の教室である。

「てっきり同学年だと思ったぜ」

「女の子だと背格好大して変わらないからね」

もちろん、これはコウを納得させるための口実である。

だが、よくよく考えてみるとレルフィムの本当の歳を知らなかった。

「あら? 私は皆よりいくらか年上のお姉さんなのよ?」

レルフィムは妖艶な笑みを浮かべる。

「うおう、その言葉の響きはマジだな……」

「コウ、そろそろ僕達も行こう。時間がなくなっちゃうよ」

「ん、そうだな。じゃあレルフィムちゃん、またな」

「ご機嫌よう」

レルフィムは階段を上がっていく。僕達は廊下を進んで自分達の教室へと向かう。

僕はアリシアだけに聞こえるように小さな声で尋ねる。

「ところでレルフィムって何歳なの?」

「さあ? でも私達と大して歳は変わらないんじゃないかしら。いいとこプラス1か2くらいだと思うわ」

教室に到着し、席に腰を下す。あと数分でホームルームが始まる。

「ねえユウタロウ」

アリシアは自分の席に座ると一番に話し掛けてきた。

「私……またユウタロウと戦えるかな……?」

それはまた僕のリトマスに戻れるのか、という意味だろう。僕は首を縦にも横にも振ることができない。

「わからない。レルフィムがそう簡単に諦めてくれるとは思えないけど……でも、僕はアリシアと戦いたいな」

「……それを聞いて安心したわ」

彼女はふっと笑う。僕の気持ちが彼女と同じでほっとしたのだろう。

「もうすぐホームルーム始まるよ」

僕がそう言うと同時に担任が入ってくる。

「そうね。じゃあ、また後でゆっくり話しましょう」

ホームルームが始まる。

僕らは姿勢を正して先生の話に耳を傾けた。



昼休みになると、僕達は屋上に集まった。

僕とアリシア、レルフィム、トモミにリオナ、そしてコウの六人である。

なんのことはない。皆でお昼ご飯を食べるためである。

僕とアリシアとレルフィム、そしてコウはコンビニ弁当。トモミとリオナは自分達で作った弁当だ。

「おいユウタロウ。お前はともかくアリシアちゃんとレルフィムちゃんまでコンビニ弁当ってのはおかしくないか?」

「え、なんで?」

「そんな女の子までそんなものを食わせて、すべすべの肌が荒れちまったらどうするつもりだ!」

「私達は気にしてないからいいわよ」

「コンビニ弁当って結構美味しいのね」

アリシアとレルフィムは各々選んだコンビニ弁当を美味しそうに食べる。

「まあ、本人達が喜んで食べてるんだからいいんじゃない?」

「む……それはそうだが……」

コウはなんとなく納得できないようだったが、やがて自分の弁当を広げてご飯を食べる。

「まあまあ、最近のコンビニのお弁当は栄養面とかも考えているみたいだし、いいんじゃないかな」

「私はトモミのお弁当が一番なのね」

トモミにも言われて少ししょんぼりするコウ。

「そういえばユウタロウ、あの子の調子はどうなの?」

「あの子って……東條さん?」

「そうよ。そろそろ良くなると思うけど……」

「また女か? ああ? お前はどんだけ女の子と親しくなれば気が済むんだ?」

「いや、そうじゃなくて! ほら、東條さんっているでしょ! HASにかかって倒れちゃった人!」

「クラスメイトの……?」

コウよりも先にトモミが思い出したようだ。それにやや遅れてコウも思い出す。

「それがどうかしたのか?」

「聞いた話だと、彼女の体調が最近いいんだってさ。もしかすると意識が戻るかもしれない……」

コウにはレルフィムが彼女の心を解放したから、なんてことは言えない。

「HASの末路って、そのまま全身の筋肉が脆弱化していって、心臓の筋肉が止まって死ぬんだよな。それ以外の症例なんて聞いたことないぞ?」

「彼女のは特別らしいよ」

「じゃあさ、皆でユイさんのお見舞いに行かない?」

トモミがそう提案する。コウもリオナも異論はないようだ。

「私はちょっと用事があるからパスね」

レルフィムはそう言うと、弁当のオムライスを一口食べた。

「私も。今日は美食ツアーの録り溜めしたのを見ないとね」

彼女たちがいない方が静かでいいかもしれない。あまり多人数でおしかけても迷惑をかけるだけだ。

「決まりね。レルフィムちゃんとアリシアちゃんは仕方ないけど……私達だけでも行きましょ」

「そうだな。もしかすると奇跡の瞬間に立ち会えるかもしれないんだからな」

奇跡の瞬間、というのはいくらなんでも言いすぎだろうが、確かにHASから復帰したという例は聞いたことがない。

「もしかすると雑誌の取材とか来るかもな!」

「いや……さすがにそれはないと思うよ……?」



学校を終えた僕達は病院へと向かう。

受付で面会バッチを受け取ると、彼女の病室へと向かった。

「失礼します」

先日話をした老婆がいた。

「いらっしゃい。おや、今日はお友達も一緒かい」

老婆は嬉しそうな表情を浮かべる。

「はい、今日も東條さんのお見舞いにきました」

「ああ、あの子かい。あの子は……」

ふと東條さんのベッドの方を見ると、そこには彼女の姿はなかった。

「今日のお昼くらいに目を覚まして、今検査に出かけているよ」

それを聞いて僕達は驚く。彼女が目を覚ますことを信じていたが、こうして実際に目の当たりにするとやはり驚く。

「嘘だろ……? HASから復帰なんて話、聞いたことねえよ……」

「レルフィムちゃんの言葉を信じてよかったね」

僕はトモミの言葉にうん、うんと頷く。やはりレルフィムに心を差し出して正解だったようだ。

「あらシメコさん、お見舞いですか?」

ふと気付くと、扉の辺りに看護婦さんが立っていた。そして彼女が押していた車椅子に座っていたのは……。

「東條さん!」

「あら、東條さんのお見舞い? 話が伝わるのも早いわね」

看護婦さんは車椅子を押していく。僕達は脇に逸れて道を空けた。

「えっと……坂下君……ですよね?」

彼女はベッドに戻ると、一番に僕へと声をかけてきた。

「う、うん。東條さん、意識が戻ってよかった……」

「あの、なんでなのかはわかりませんが……ありがとうございます」

そう言って彼女はぺこりと頭を下げる。

「え、何? いきなりどうしたの?」

「なんでかわからないですけど……黒薔薇の女の子が、起きたら一番にあなたにお礼をしろと言っていた……気がするんです」

黒薔薇の女の子というだけですぐに誰かわかった。間違いなくレルフィムだろう。

「黒薔薇の女の子? 誰だそりゃ?」

コウだけが誰だかわからないようだった。僕はひとまず彼は放っておいて、彼女のベッドの隣に椅子を置いて腰かける。

「体の具合は大丈夫?」

「少しだるいですけど、大丈夫です。お医者様も来週からは学校に行けるとおっしゃっていました」

「来週? ずいぶん早いんだな」

「聞いた話によりますと、この病気は体を蝕むわけではないそうなので、意識が戻らないことの他に異常が見つからないそうなんです。私が意識を失っていた期間はまだ短いそうなので、軽いリハビリをするだけで元のように体を動かせるようになるとお医者様はおっしゃっていました」

「ほー……。なんていうか、色々と拍子抜けするな。あんなにも世界を騒がせた病気が……意識さえ起こせばちょっとのリハビリで大丈夫とはな……」

彼女は小さなため息をつく。

「私、半年もの間、眠っていたんですよね。なんだかそのことが私には信じられません。もし、半年も眠っていたのなら……」

彼女はそこで一息おくと、にこっと笑って話し始める。

「学校の出席率が気になります」

その笑顔は思っていたよりも可愛くて、僕は思わずドキッとしてしまった。



どこまでも広がるビル街。夜に沈んだ街並みには未だ活動の証の電灯が明るく灯っていた。

強い風が吹きすさぶ。その度に黒い羽が何枚か宙を舞う。

レルフィムは一人、街中のビルの屋上に立っていた。

背中には巨大な黒翼をたたえ、時折小さくはばたく。

「エルフィド」

彼女の手のひらが黒く輝くと、それに呼応するかのようにビルの屋上に黒い陣が浮かび上がる。

それはいつものように黒い庭園を展開することはなかった。だが、その効果に満足したのか、彼女はにこりと笑って手を下す。

「何をしているの?」

そのとき、鋭い声がかけられる。レルフィムはしばらくの間動かなかったが、やがてゆっくりと振り返った。

「あなた、夢の美食ツアーを見るんじゃなかったの?」

「こそこそと街の至る場所にこんなものを設置されたら誰だって気になるわよ。……一体何のつもり?」

アリシアの手が緑に輝く。それに呼応するように屋上に設置された黒い陣が光る。中心には一振りの剣。アリシアはそれに手をかけた。

「こんなもの……禁咒のエルフィドを使って何をするつもり?」

「あなたに教える義理も義務もないわよ?」

「もしユウタロウを巻き込んで何か危ないことをするつもりなら……」

より強い風が吹きすさぶ。アリシアの周りの幾重にも風が巻き起こる。

「私はあなたを倒し、やめさせる」

アリシアは真剣な表情でレルフィムを見つめる。しばらくの間レルフィムはアリシアに視線を合わせていたが、やがて大きな声で笑い始める。

「あはははは! あなたって、本当におかしいわ!」

「何がおかしいの!」

「私はユウタロウのことが好き。あの心を思う存分味わい尽くすことができればどんなに幸せでしょうかね」

「それが……それが一体何よ?」

「そんな好きな人を危険な目に合わせると思う?」

アリシアは言葉を詰まらせる。

「手を離しなさい。この陣は別に彼を危険な目に合わせようとか、人を捕まえてどうしようとかってわけじゃないわ。目的はまだ秘密だけど、これだけは信用してほしいわね」

「誰があなたのことなんか……」

「私はユウタロウと約束した。もう人を襲わない、とね。私は約束を守る女よ? 私達の間に交わされた契約ってのはどれだけ重い価値を持っているか、あなたもわかるわよね?」

「それは……」

「なら、あなたは黙って指でもくわえて見てなさい」

レルフィムの黒い翼が大きく広がる。

「まだ私は他のエルフィドのチェックをしないといけないから行くわね。ユウタロウ達が戻ってくる前に家に戻って、テレビでも見てたら?」

「待ちなさい!」

レルフィムは夜の街へと飛び出した。その姿はすぐに闇夜にまぎれて見えなくなる。

アリシアも後を追おうと思ったが、すぐに見えなくなってしまい、諦めることにした。探そうと思えば探すこともできたが、そりよりも彼女の言葉が気になった。

彼女のことを信じろ、とはどういうことなのだろうか。信じろというからには目的を教えてくれてもいい気がする。だが、彼女は目的も告げぬまま行ってしまった。

確かに、ユジューにとって契約という言葉は重い意味を持つ。それが交わされたからには絶対に守らなければならないものであり、カードであろうともそれを破ることは許されない。感情の力は信頼によって持続的に得られるものだ。信頼を裏切れば、感情の力を相手から得ることはできない。

それはユジューにとって食事を絶つことと等しい。エネルギーを得なければユジューも生きていくことはできない。

アリシアはビルの屋上に戻ると、レルフィムが残していった剣を見つめる。

このエルフィドは禁咒のエルフィドと呼ばれるもので、複数同時にエルフィドを展開することによって、とてつもなく強い力を生み出すことができるため、人間界で行使することは禁止されているものである。

街中に散らばる幾十幾百ものエルフィドを同時に発動させればそれだけ力は何乗もされて、強力な力が生まれる。それほどまでに強力な力を発動しなければならない理由などあるのだろうか。

アリシアにはレルフィムが何を考えているのかわからなかった。

もうすぐ時間は19時となる。ここまで遅くなればユウタロウ達も帰ってきてしまうだろう。ユウタロウには余計な心配をかけたくなかった。

アリシアはもう一度剣を見たが、首をぶんぶんと振る。

「レルフィムを……信じましょう」

そう一言呟くと、剣をその場に残したまま飛び立った。



僕が家に戻ると、予想通りアリシアはテレビを見ていた。

「ただいま」

「おかえりなさい」

ぼりぼりとポテトチップスを食べながら、ソファに横になってテレビを見ているアリシアの姿は、女の子にあるまじき姿だと思った。

「まあ……アリシアだから仕方ないけどね」

「何か言った?」

「何も言ってないよ」

僕は荷物を置くと、冷蔵庫からインスタントコーヒーのボトルを取り出して、コップに注ぐ。

「レルフィムは?」

「まだ帰ってきてないわよ」

「そっか」

僕はコーヒーを飲む。ほろりと苦いコーヒーが舌を刺激する。

「そろそろご飯の支度でもするかな……」

時間は19時。そろそろお腹が空いてくる時間だ。

「でもまだレルフィム帰ってきてないしな……」

「いいわよ、あんなの放っておけば。さっさと食べましょ」

食べる気満々なのか、テレビを消して台所の方までアリシアはやってきた。僕はふうとため息をついて、立ち上がる。

「わかったよ」

コーヒーを片付けると、僕は台所に立った。

「ねえユウタロウ」

晩ご飯の準備に鍋を洗っている僕にアリシアは声をかけてくる。

「ん?」

「いつになったら……私のリトマスに戻ってくるかな……?」

鍋を洗う僕の手が止まる。

水道から水が流れ落ちる音だけが辺りを支配する。

「わからない……」

それだけ言うと、僕は鍋を洗う手を再び動かした。

「だよね。あのレルフィムが簡単に諦めるわけないもんね」

僕は汚れのついた鍋をこする手に力を込める。

「ごめんね、アリシア」

「ううん、ユウタロウは何も悪くないよ」

水を中にいっぱいまで入れて、洗剤の泡を落とす。そして、布巾を持ってきて水を拭く。

「レルフィムが人を襲わないって約束したのは大きいよ。メセブリィでもレルフィムの存在は脅威だったもの。それが今や私達の仲間となって積極的に手伝ってくれる。昨日だってカードと戦ってくれた。それに、私よりもレルフィムの方が強いもん」

「そんな……アリシアだって強いじゃないか」

「わかってる。私とレルフィムが戦ったら負けるのは私。そんなことは戦わなくたってわかってるわ。だから、ここは私が身を引くべきなんだよ」

「アリシア……」

彼女はしばらくの間悲しそうな表情を浮かべていたが、やがてにっこりと笑って顔を上げる。

「私はユウタロウと一緒にいれるだけでいいから! だから、そんな悲しそうな表情を浮かべないで」

アリシアが僕の顔に触れる。そんなにも僕は酷い顔をしていたのだろうか。

「ありがとう、アリシア」

僕は鍋を置いてアリシアの体を抱きしめる。彼女は頬を赤く染めたが、嫌そうな表情は浮かべない。

顔と顔の距離がとても近かった。吐息が触れ合うほどの距離。僕はアリシアの目を見つめる。

「なんだか……恥ずかしい……」

「僕も少し……でも……」

アリシアも僕のことを見つめてくる。

「僕はレルフィムよりも……アリシアのことが好きだから」

「ありがとう……」

アリシアはそっと目を瞑る。僕も目を瞑った。

そして、彼女の唇に自分の唇を……。

「ただいま」

そのとき、玄関の方からレルフィムの声が聞こえてくる。

僕とアリシアは慌てて離れる。

「ただいま……ってアリシア、台所なんて立ってあなた料理なんかできたの?」

「うるさい! 馬鹿!」

アリシアはそう怒鳴るとどこかへ行ってしまう。

「変なの」

レルフィムは呆れたような表情を浮かべると、ソファに腰を下した。

僕は自分の胸に手を当てる。心臓がばくばくと鼓動していた。僕はアリシアに一体何をしようとしていたのだろうか。

数秒前までの状況を思い出して、僕は思わず頬が熱くなるのを感じる。

「ユウタロウ、どうしたの?」

「え、あ、いや、そのご飯作ろうと思って……!?」

そのとき、レルフィムが僕の額に手を当てる。

「頬が真っ赤だし、なんだか熱いわよ? 風邪でもひいてるんじゃないの?」

「いや、大丈夫! 大丈夫だから!」

僕はレルフィムを台所から追い出す。これ以上見られるのは恥ずかしい。

「レルフィムはそっちでテレビでも見てて! 僕は料理作るからさ!」

「?」

レルフィムは不服そうな表情を浮かべながらもリビングへと戻っていく。僕は彼女に背を向けると自分の頬に手を当てる。

彼女の言う通り、確かに熱くなっている。外見からわかるほどなのだから、相当なのだろう。

「ああ! 僕はなんてことをしてしまったんだろう……」

ちらりとアリシアの駆けて行った方を窺ってみる。もちろんのことながら戻ってきてはいない。

ちょっと惜しいような、後悔したようなもやもやとした気分の中、僕は晩ご飯を作り始めた。

せっかく作った晩ご飯だったが、結局アリシアは降りてこなかった。

ラブコメ展開になってきました。これから先はラブラブコメコメな展開が増えていくかと思われます。

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