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第零話

4月頃からmixiで連載していた小説です。

10月末に完成したので、こちらで再投稿させてもらっています。

内容はmixiにて連載していた内容と全く同じとなっています。


第零話


深夜2時。日が沈んでから遥かに時は過ぎ、草木も眠る丑三つ時。

むせび泣く声。こんな深夜には不釣り合いなほどの幼い声音。

震えるようなその声は、誰かを引き寄せてしまう不思議な魔力を持っていた。

彼がその声に気付いたのは、自宅への帰路の真っ最中であった。

家に帰れば妻が待っている。こんな遅くまでご苦労様、と温め直した晩ご飯が出てくるはずである。

二人の時間は短いけれども、そこそこに幸せな毎日だった。

「うぇぇん……ぐずっ!」

彼はそれを不思議に思った。こんな夜中になぜ少女の泣き声が聞こえるのだろうか。何かの折檻に家を追い出されたのか、それとも家出か。そのどちらかであっても、大変なことには違いなかった。

声の源へと彼は足を向ける。公園のベンチ。そこにその少女の姿はあった。

腰まで届きそうな長い髪。真っ白な手足。とても小さな体。

それにもかかわらず、彼は今までに感じたことのない類の魅力を感じていた。

「お、お嬢ちゃん。こんな遅くにどうしたんだい?」

それでも、彼はその雑念を振り払って少女に声をかけた。

少女は少しだけ顔を上げると、泣きながら話し始める。

「ぐす……ひっく……寂しいの」

「……え?」

「誰かに抱いてもらいたいの。抱きしめてほしいの」

それは少女から飛び出すとは思えないような言葉。

いや、それは単純に胸に抱きしめてほしいという意味だろう。彼はそう思い直すと少女を見据えた。

「おじさんは……私のこと、抱いてくれる?」

まだ20代半ばというのにおじさんと呼ばれたことに少し眉をひそめたが、それでもその妖艶な少女はそそられるような魔性の魅力をもって抱けと命じる。

「こ、こうかい……?」

彼は恐る恐る、少女の体を抱きしめる。だが、彼女は首を横に振った。

「そうじゃないの。そういうことじゃ……ないの」

少女は泣きながら彼の顔を見据える。そして、その円らな瞳で彼の目を見つめた。

「ちゅぅ……」

「!?」

次の瞬間、少女の唇は彼の唇と重なっていた。

舌は彼の口内へ侵入し、その中を冒していく。

「ちょ、ちょっと!?」

少女は無言で彼の口内を貪るように舐め、吸い、そして奪う。

狂おしいほどのディープキス。彼女は男の中の理性という名の堤防を崩していく。

「おじさん……私の言ってる意味、わかったかなぁ?」

「そ、それは……」

「抱 い て ほ し い の」

妻を一人家に待たせている彼としては、こんな少女に構っている暇はなかった。

だが、少女が持つ何かに強い魅力を感じていることは明らかだった。

できることなら彼女の体を貪りたい。少女の体を犯し、その精をぶち込みたい。

そうできたらどれほどいいだろうか。正直なところ、彼の理性のタガは外れかけていた。

だが、最後の理性の糸がちぎれる前に彼は少女の体を突き飛ばした。

「だ、ダメだ! 俺にはそんなことはできない!」

「こんなにお願いしてもダメなの……?」

少女はふるふると瞳を震わせながら彼のことを見つめる。彼は顔を背けてその姿を見てしまわないようにする。さもなければ、理性が引きちぎれるのも時間の問題だった。

「そう……それじゃあ仕方ないね……」

彼は少女がそれは諦めてくれた声だと思い、ほっとする。これ以上彼女に求められてしまったら、それこそ襲いかかってしまいそうだった。

「せっかく“最期”に女の子と遊ばせてあげようと思ったのにぃ」

「……最期……?」

それは本来ならば、命の終焉を意味する言葉。彼はその言葉の真意を理解することができなかった。

「おじさん、幸せそうだね。美味しそうだなぁ。あはっ、あはははははっ!」

少女はゆるりと立ち上がると、大きく口を開けて笑い始める。その姿に彼は恐ろしさを感じる。彼の中で第六感が叫ぶ。ヤバイ、逃げろ、と。

だが、その少女の視線は釘のように彼の姿をその場に打ちつけ、逃がすことを許さない。

「いただきまぁす!」

次の瞬間、彼の胸の中へと少女は飛び込んでいく。その姿が彼の両腕の中に収まったとき、彼の体から気力という気力が全て消え失せた。

「……げぷ。美味しかったけど、やっぱり最期に遊んだ方が美味しいなぁ。今度からは誘い方を考えないとねっ♪」

ぐったりとした彼をそこに残し、少女はスキップを踏みながら闇の中へと消えていく。

虫の鳴く声が響く。小さな音と、わずかな街灯の明かりだけが後には残っていた。

まだまだ続きます。

ちなみに結構長いので、読むときは明るい部屋でディスプレイから離れて読んでください。


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