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死に至れない病

作者: 村崎羯諦

「あなたの症状は記憶喪失と……それから不死の病ですね」


 気がついたら記憶を失った状態で診察室の丸椅子に座っていた俺は、目の前の医者からこんなことを告げられた。


「不死の病って、どういうことですか?」

「どんなことがあっても死ぬことはできないということです。痛みを感じることもないですし、年を取ることもできません。今試してみましょうか?」


 そう言うと、医者は突然懐から拳銃を取り出し、躊躇うことなく引き金を引いた。室内に銃声が響き、銃口からは一筋の煙が立ち上っている。痛みも何も感じなかったから、俺は弾が外れたのだと思った。しかし、ゆっくりと自分の胸に手を当てると、服に穴が空いていて、そこに指を突っ込むと、確かに自分の身体を銃弾を貫通していることがわかった。


「ちなみに、あなたが考えていることを先に言うと、これはおもちゃの拳銃ではなく、本物の拳銃です。不死の病にかかっていない人間であれば、即死とはいかずとも、強烈な痛みを感じているはずです」

「正直まだ信じられない気持ちですが、それだけ聞くと、別に悪いことじゃないような気も……。不老不死だなんて人類の夢じゃないですか?」


 しかし、俺の言葉に医者がため息をつきながら、首を振って否定する。


「あのですね、何もやっても死なない体というのは大変珍しく、研究者からしたら欲しくてたまらない人材なんです。何せ人体実験をし放題ですからね。あなたのことが知れ渡ったが最後、マッドサイエンティスト集団に攫われて、永遠に彼らのおもちゃにされるでしょう。本来、私たち医者には守秘義務があって患者のことを外部にペラペラ喋ることはできないんですが、残念なことに、そんなのクソ喰らえって思うような大金を彼らは支払ってくれるんです。そんな事情を考えると、この診察が終わった後、私があなたの情報を彼らに売る可能性は非常に高いのです」

「せ、先生がきちんと守秘義務を守ってくださるということはないんですか?」

「ええ、私もそうあって欲しいと強く思います。ただ、あなたにとって不幸なことに、ちょうど先週、自宅の冷蔵庫が壊れてしまったばっかりなんです」

「そんな!」


 マッドサイエンティストによって自由を奪われ、残酷な人体実験を受ける自分を想像し、恐怖で震え上がる。しかし、そのタイミングで別室からもう一人の男が入ってきて、医者と俺を交互に見て呆れたようにため息をついた。


「きっと記憶がないことを言いことに色々言われたと思うけど、基本的には相手にしなくていいからね。この人はタチの悪い嘘つきでさ、君みたいな右も左もわからない人を相手に、笑えない冗談を言って、からかうような人間なんだよ」

「冗談っていうのは、私が不死の病で、マッドサイエンティストに狙われているということがですか?」

「あー、それは半分本当で半分嘘かな」


 男はそう言うと、医者が机の上に置きっぱなしにしていた拳銃を手に取り、それで自分の頭をぶち抜いた。爆音が狭い部屋に鳴り響くだけで、男は微動だにしない。ポカンと口を開けていた俺に男は小さく微笑み、銃弾で穴が空いた頭を楽しそうに見せつけてくる。


「君が不死の病というのはある意味本当だけど、マッドサイエンティストに狙われるなんてことはない。こっちの世界では、こんなの当たり前だからね。というか、そろそろ君も記憶が蘇ってくる頃なんじゃないかな?」


 頭の中にゆっくりと記憶が蘇り、いつかの出来事が走馬灯のように頭を駆け巡っていく。そして、走馬灯の最後。そこに映っていたのは、雨の日の濡れた車道とそしてスピードを緩めることなくこちらへ向かってくる大きなトラックの姿。


「不死の病なんて、変な言い方をしてるけどさ……」


 全てを思い出した俺に、男が笑いかけながら喋りかけてくる。


「死んだ人間がもう一度死ぬなんてありえないんだから、病気でも何でもないよね」

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