ぼんやり令嬢と好意と事故
帰宅後、どう考えても、レヴィエ様の今までの行動を鑑みても、どこをどうしたら、あの人が私のことを好きという、点と点がつながらず、思わず身近な男性であるオルハに
「ねぇねぇオルハ、オルハは、好きな子に罵詈雑言いったりとか、殴ったりする?それで好きとか言える?」
ときくと、オルハは呆れた表情で
「俺は、好きな女の子にはべったりですよ。どこ行くにもついていきますし、ハチャメチャ甘えますけど」
「あぁ、すごい意外な面を見ちゃったわぁ」
私がオルハの恋愛面に驚きつつ、静かに返すと、オルハは軽くため息をついた。
「少なくとも俺は、好きな子に対して、ひどいことをしようだなんて一切思わないし、それが普通じゃないんすかねぇ」
「そぉゆうものなのかぁ」
「……って、唐突に聞かれたけど、なんかあったんすか?」
「あったというかぁ、うーんなんというかぁ」
うまく言葉にできない私を、咎めるわけでもなく、オルハは優しい声色で続けた。
「まぁ、俺でよければいつでも話聞きますよ。経験値全然ないですけど」
「ん、ありがとうオルハ」
その後、ウォーレンさんに同じことを聞くと。
「……好きな子を虐めたくなる子供みたいですね」
と、オルハ同様呆れたような表情をした。
私は言葉の意味が分からず、小さな子供のように疑問と不満を口に出した。
「何で好きな子を虐めるんです?いじめられた方はたまったもんじゃないです」
ウォーレンさんは、小さな子供を相手にするような、いやウォーレンさんからしてみれば、私は子供で間違いないのだけれど……、とりあえず、とても優しい表情と声色で答えた。
「お嬢様の言う通りですね、好きだと言えば、何をしていいわけではありませんから」
「おぉ……なんか感銘です。」
「お役に立てて何よりです。」
こう色々聞いてみたりしても、どう考えても、レヴィエ様の行動は許されるものではないけれど、だとしても、どうしてここまで修復不可能になってから、異常な行動に出たのだろう。
シャロの予想が当たったとしたら、どうしてそんなことをしたのかもわからないし、わかりたくもなく、とりあえずその日は眠ってしまった。
「あー、えっと、私の発言のせいだと思うけど、そこまで気にしなくていいと思うけど……」
登校してすぐ、シャロに心配そうにいわれたものの、私はうんうん唸っていた。
そんな様子を、みていたギャラン様に、どうしたんだと聞かれ
「ギャラン様……愛とは一体何なんでしょうね、生命とは……運命とは、そもそも存在の証明とは?」
「おー、朝から重たい話題ぶつけてくるなぁ」
私の突拍子もない発言に、笑顔で嫌みなく返事をしてくれるギャラン様をみて、しばらくしてから頭を下げた。
「すいません。今、混乱中なんですよ」
「みたいだなぁ、姉さんから聞いたよ」
……そうだぁ、ギャラン様って、アイン様の弟なんだぁ、としみじみ痛感しつつ、いや筒抜けすぎるっていろんなものが、と自身が何かアイン様の前でやらかしていないか、それだけが心配だった。
いや、多分やらかしてるんだろうなぁ、と遠い目をしていると、ギャラン様は、さわやかな笑顔で、何故か心の声に当たり前と言わんばかりに返す。
「大丈夫大丈夫。姉さん、フルストゥル嬢のこと気に入ってるし」
「よかったぁ」
ひとしきり安心していると、ギャラン様はさらには続けた。
「ぼんやりしてるところが、かわいいってよくいってるし」
「よし、これからいっぱいぼんやりしよう」
ぐっと拳を握る私を見て、シャロはガクリとうなだれた。
「どんな決意表明?」
「いやアイン様に、喜んでもらおうと……」
シャロは、私の拳をやんわりとおろしながら、正論をぶつけた。
「それはいいことだけど、ヤル気満々でぼんやりするって、それはもうぼんやりじゃなくない?」
「……確かに」
「まぁ忠義もので助かるよ。」
吹き出すのをこらえきれず、ギャラン様は一瞬噴き出したものの、その後に、いつもの表情に戻り一言だけ呟いた。
「まぁ、フルストゥル嬢は素直だからなぁ」
「うん?」
なぜ今その言葉がでてきたのか、その意味が皆目見当もつかなかったけれど、まぁギャラン様ほど高尚な方の考えが、私ごときにわかるわけもないかぁ、何せ顔面国宝だしねぇ、とぼんやり考えつつ、何時ぞや、王宮から見えたレヴィエ様の幻影は、もしかして本物だったのかどうか聞くべきか思っていると、またまたギャラン様がその疑問に答えた。
「……まぁレヴィエ先輩も、王宮の周辺うろついてて、警備に捕まってたりしたしなぁ」
「えぇ……本当にえぇ……」
あれ本当にそうだったんだぁ、ってあの人本当に何をしているんだろう……。
なんかそういうの聞くたびに幼い頃の綺麗な思い出を汚された気分になりもうもはや双子なのかな、小さい頃仲良くしてたあの男の子は影武者だったんだ……うんそう思うことにしよう、そう思わないと朝から吐きそうだ。
「ちょっと帰ろうかな……あぁでも単位がなぁ」
「変に真面目なのよねぇ」
心配と呆れが、混ぜこぜになった表情で、シャロが答えているうちに、一時間目が始まるのだった。
「え?マリアン様帰っちゃったんですか?」
放課後、マリアン様に課題を教えてもらおうと、上級生のクラスにいくと、いつもマリアン様とよく話している方が、対応してくれた。
「えぇ、実戦基礎魔術の授業のときに……。私たちは補助具として、杖を使ってるんですけど、その杖の制御ができなくなって、怪我をしてしまって」
「え?マリアン様は大丈夫なんですか?」
心配すぎて身を乗り出すと、女生徒は心配させまいと、微笑を浮かべ答えた。
「ええ、結構派手に魔力が暴発したんだけど、気絶しただけで、怪我という怪我はないみたい。」
「あぁ……不幸中の幸い……」
私が、胸をほっと撫でおろしている隣で、シャロは、上級生に話しかけた。
「失礼ですけど、実戦基礎魔術って、そこまで危険じゃないですよね?」
「えぇ、せいぜい護身術程度ですし、うちのクラスは特にそうですね。魔力量が多い生徒はいないです」
そう、この学院において、少しでも魔力のある生徒にとって、魔術の授業は実技と座学の両方必須。
理由は、単純に魔力の使い方が分からず暴走することがないように、いざというときに、自身を守れるように、と私が知っている範囲では二つの理由がある。
一応、私やシャロ、ギャラン様が所属している学科は、魔法を主に学ぶ学科で、色々本格的に実戦魔術を学んでいるので、高度な魔術をあつかうこともあるし、魔力が多い人が大半だ。
……私みたいに、属性値が均等なだけで、人並みの魔力しかないのは除外として。
だからこそ、怪我をすることもあるけれど、マリアン様のクラスは、国際学科。
魔術の実戦授業は魔力持ちのみ、しかも基礎のみだから、暴発のようなことが起こることは少ないはず、その違和感を感じ、昨日聞いたマリアン様と、レヴィエ様のやり取りを思い出した。
「……もしかして……」
――レヴィエ様が、私と関わりたいがために、マリアン様に危害を加えた?――
「ごめんなさい先輩、失礼します」
「え?」
「あ……ちょ、フルル」
先輩とシャロを振り切って、私は走って職員室に向かった。
「シャルル先生ごめんなさい……。国際学科の、マリアン様が使ってた杖を、調べてもらっていいですか」
「いいけど、どぉしたのぉ?」
「……嫌な予感がするんです。」
突然のことなのに、シャルル先生はうんうんと笑顔で頷いた。
「うーんそっかぁ。わかったよ」
先生は、それだけ言うと、私の頭をぽんぽんとなでてくれた。
「初めて自分から頼ってくれたねぇ。先生は嬉しいよぉ」
そう、満面の笑みで答える先生の後ろで、書類仕事をしていた影が、すっと前に出た。
「……俺も協力しよう」
「マオ先生……」
「たまには担任らしいことをしないとな」
「えっと……」
すでに沢山迷惑かけてるのに、と思っていると、マオ先生は、嫌な顔を一切せずに答えた。
「気にするな。教え子が困っていたら、どうにかしてやるのが教師の仕事だ」
そう堂々と答えるマオ先生は、今まで見てきたどの姿よりも頼りがいがあって、この人が、担任でよかったと、心の底から思うのだった。
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