ぼんやり令嬢らは王宮へ行くことになるそうです。
マリアン様のお陰なのか、その後も上級生のクラスの周辺にいっても、共有スペースにいっても、そういったやっかみは全く受けなくなった。
本当にこれはマリアンさま、様々だなぁ、と感動すらしていたら、マリアン様はうなりながら口を開いた。
「私は、課題とか教えるのは全然苦とかじゃないんだけどさ、万が一、レヴィエ様と鉢合わせたら、大変じゃない?退学したわけでもないし、休学ってわけでもないからさ」
「一応、接近禁止はありますけど……」
私がそう答えると、マリアン様は大きくため息を吐いた。
「……あの噂、やっぱ本当なのねぇ」
シャロがぼそりと呟くと、マリアン様は、重々しく頷いた。
「噂?復縁どうのこうの、のやつ?」
「ううん、そこからちょっと進んだのよ」
私とシャロのその会話を聞いた後、マリアン様は苦虫を嚙み潰したような表情で、ペンをくるくる回しに答えた。
「噂、というかその現場見たんだけどさぁ、あれはやばいわね」
「やばい、とは?」
マリアン様の言葉につられそういうと、なにか言いづらそうに、あたり周りを見ていた。
……え?そんな、周囲を気にしないといけないほどのことなのかな、正直、いろんな噂は流れてるし、当事者さえいなければ、割と好き勝手言ってるような気もしているけれどなぁ、とのんきに思う気持ちと、あの、マリアン様が言いよどむとは一体、と未知への恐怖で、手に持ってるティーカップががったがた震えていた。
「……なんでそんな震えてるのに、こぼれないのかしら」
「横揺れだからかな?」
シャロの疑問に震えながら答えていると、マリアン様は肩をまたすくめて、ちょっと笑っていた。
「いや、やっぱ仲良しねぇ」
そういった後、マリアン様はふぅと息を吐いた。
「……それ飲んだら、ちょっとガゼボに行こうか、あそこなら人気ないし……」
マリアン様が言葉を続けようとしたら、その背後によく見知った姿が見えた。
「その必要はないぞ」
「ニーチェさん……あれ?今日わたしお手伝いの日ですっけ?」
私の顔を見るなり頭の上に手を置いてニーチェさんはにこやかに答えた。
「ううん、違うよ。マオさんから、フルルが、悲しい顔で課題やってるって聞いたから」
「どんな報告?まったくもって事実ですけど」
思わず、脊髄反射でそう答えてしまうが、マオ先生、一体普段どんな報告をしているんだろう、と軽く疑問を抱えていると、だよなぁ、とニーチェさんは私を撫でながら、シャロとマリアン様を眺めて、気のいい笑顔で問いかける。
「とりあえず、そこの二人は、この後何か予定あるか?」
「私は無いですけど」
「私も、問題ないです」
その答えを聞いたニーチェさんは、よしよしとにこやかに頷いた後、さも喫茶店にでも行こうというぐらい軽い口調で
「じゃあ、王宮いくかぁ」
と、いわれあまりに唐突な提案に三人で固まっていると、ニーチェさんは一瞬目を大きく開けたが、そのあと滑らかな口調でつづけた。
「ん?だってあのバカの話だろ?俺も他人事じゃないしさ、何より、うちの姫様も、フルルのことが心配みたいだしさぁ」
ニーチェさんの言葉に、え?アイン様が心配してくれてるの?シンプルに嬉しいなと、思っているすぐ横で、マリアン様はうーんと唸っていた。
「馬鹿って……まぁ馬鹿かぁ」
「うん馬鹿ね、馬鹿」
マリアン様のその言葉を、シャロがバッサリ切るのを、ニーチェさんは頑張って笑いをこらえていたが、ちょっとこらえきれてなかったのを、私は見逃さなかった。
「ははっとりあえず王宮、ていうより俺らが普段使ってるサロンに行くかぁ」
そうして、そんなちょっとお買い物に行こうかくらいの気分でまさかの王宮に行くことが決まり仲良く竜車に乗って向かったのだった。
「まさか、王宮用の、竜車に乗ることになるなんて……」
マリアン様がそういってがちがちに固まっているのがなんか人の家に来た猫みたいで可愛いなぁとほっこりしていたのだがそれを見透かしたシャロは呆れとも何とも言えない表情で私につぶやいた。
「いや、乗りなれてるのもちょっとおかしいのよ?」
「え?」
「え?じゃないのよ」
私とシャロのやり取りを見て、ニーチェさんは、何故か安心したように胸を撫でおろした。
「いやぁ、思ったよりフルルには友達がいるんだなぁって、お兄さん嬉しくなっちゃったよ」
ニーチェさんの、なんかその親戚のおじさん、ないしは、領地の使用人の方々から向けられるような優しいけど、ほんとうに、なんと形容したらいいものか分からない表情でそういうと、シャロは呆れた表情をしつつ、私にしか聞こえない声で
「普段、どうかかわったら、こんな心配されるのよ」
「……ニーチェさんは、ほら優しいから……」
流石に、友達欲しさに、爪の垢をもらおうとした話をするのはできなかった。
……今も片手で数えるくらいしかいないけど、領地のアン(馬)を入れてようやく……。いやもうやめておこう、悲しくなってきたなぁ。
やっぱり一年生の時にしくじっちゃったかなぁ、確実にそうだよなぁ、と考えているうちに王宮についた。
着いたついでに、ニーチェさんの人望のお陰か、何を聞かれることも無くサロンに通されると、女神、もといアイン様が優雅に紅茶を飲んでおり、こちらに気づくと美しく微笑まれた。
「あら、フルルちゃん 今日は制服なのねぇ可愛いわねぇ」
「アイン様、ごきげんよう」
いつも王宮侍女見習いの制服を着てるからか、物珍しそうに、リボンを直しながら呟くその光景を、ニーチェさんはいつものことと受け流しているが、シャロとマリアン様は、それを驚きの表情で、若干、マリアン様は、信じられないものを見るかのように震えていた。
「あらあら、フルルちゃんのお友達ね、シャルロットちゃんは久しぶりねぇ」
「あ、アイン様この人は、マリアン・オルドリン子爵令嬢。私の先輩です。」
「そうなんだ。いつもフルルちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」
あれぇ……?アイン様も、なんか親戚の人みたいな言葉をマリアン様に言ってませんかね?いや、ここまで思ってもらってるのは嬉しいんですけど、見てみ?あのマリアン様の表情を、もう固まっちゃっているんだから、と突っ込みたかったが、とりあえず、マリアン様をこちらに引き戻すのに必死だった。
やっと、色々もろもろ落ち着いたころ、ニーチェさんが馬鹿こと、レヴィエ様の話題をマリアン様に尋ねた。
「そういや、噂の進展って、どんななんだ?」
「噂だけじゃなくて、私が見たものの話も入りますけど……」
「いやむしろそのほうがいいよ」
ニーチェさんは、そうマリアン様に促すも、マリアン様は一度、こちらをうかがうように顔を上げた。
「……フルストゥル嬢、聞きたくなかったら聞かなくてもいいけど……どうします?」
王宮にいるから、いつもより丁寧な口調だが、その表情は、この喋り方が辛いというよりも、本当にこちらを心配している表情だった。
「えっとぉ……一応聞きますね?」
マリアン様の表情に、私はカバンから胃薬をだして、そう答えるのをみてようやく、マリアン様は口を開いたのだった。
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