ぼんやり令嬢と課題と心根
「はいっ次の単元で、魔力量と属性値の関係に入るんだけど、次までの課題を出すよぉ」
実戦魔法学だけでなく、魔術理論も担当するシャルル先生は、可愛らしい表情でそういうと皆、上品な表情ではいはいと納得しているが、私はただでさえ、板書を写すことで精いっぱいなのに、勘弁してよぉ、と大声でなきたい気持ちになったが、決して表情には出さないように努めた。
「なぁに簡単だよぉ~。属性相性の輪について論文をまとめておいてね、軽くでいいよぉ」
……なるほど?何を言っているんだ先生は、とぽかんとしている私を、隣のギャラン様は小声で
「おーい大丈夫か?」
と気にかけてくれたらしいが、正直、混乱していてよく聞こえていなかった。
「あっ、そうだ難しかったら先輩たちに聞いてね。このへんから、ちょっとややこしくなるからねぇ」
先生?先生、最初からややこしいし難しいんですけど、もしかして、それよりややこしいってもう、私にとってもうそれは理解できるのかさえ疑問すぎて、自分の頭の足らなさに、泣きそうになった。
「フルル……大丈夫?」
授業が終わった瞬間に、シャロが聞いてきてくれたが、私は恥も外聞もなく、シャロに泣きついた。
「シャロぉ、先生が何いってるのか全然わかんないよぉ」
「あーうんうん、だと思った。でもこれ時間が掛かるやつじゃないから」
私をじゃれてきた犬をなだめるように、よしよしなでたあと、シャロは呟いた。
「まぁ、なんとかしてあげるから、ついてきなさい」
「はぁい」
未だ混乱中の私は、上級生のクラスに、シャロに手を引かれ向かうことにした。
ルル先生が言った通り、魔術理論の課題は、去年、同じような講義を受けたであろう上級生からアドバイスを受けたり、なんなら、プリントを貸してもらって予習をしたりすることで、授業をスムーズに、かつ優位に進めるのだが、そうでないとなかなか困難を極めることもある、けれど例えば、自分に上級生の知り合いがいなくとも、上級生と関わりのあるクラスメイトから、見せてもらうなどなど方法は沢山ある
ん?今までそういう課題どうしてたかって?そんなの、先生に頼んで課題手伝ってもらってましたよ。
うん?婚約者そのころいただろって?
面白いことを聞くなぁ、あの人が私のために、時間を割くわけないじゃないですかやだぁ、はっはっは。
……と、脳内で愉快を超えて、珍妙すぎる虚しい一人劇場を開催したところで、見覚えのある薄桃色の髪が目に入った。
「マリアン先輩」
「げ…………じゃなくてこほん、何かしら」
面倒ごとを持ってきたわね、とまんま顔に書いてあるが、どうにかして取り繕おうとしているあたり、私に言いがかりをつけてきた時より、淑女として気を遣おうと、努力しているのが垣間見えた。
……成長したねぇ、と呑気に思いつつ口を開いた。
「そんな、人を害虫みたいな目で見なくても」
「見てないわよ……と」
ばつがわるそうな顔をしているマリアン様に対して、私は通常運転で答えた。
「あっ、多分、聞かれてないので大丈夫ですよー」
「そう、というかシャルロット嬢は、私に頼らなくても、ヴィクトル様がいるでしょう?」
マリアン様の疑問に、シャロは深く息を吐いた後、嫌悪を込めた表情で呟いた。
「私も、今まではそうしてたんですけどね、お兄様は、あのバカと同じクラスなの。もし鉢合わせたらたまったもんじゃないわよ。」
「そんな、害虫みたいな目でみなくても」
今度は、マリアン様がそういうも、シャロは首を横に振ったのだった。
「みるわよ 私、あぁいう男嫌いなのよ。」
その言葉に、私もマリアン様も否定できず、複雑な表情をすることしかできなかった。
「……まぁとりあえずこれが課題ね、一応、魔術理論基礎は取ってたからわかるわよ」
「……基礎……これが……」
マリアン様のその言葉に軽く絶望する私の横で、シャロが段取りを決めてくれたのはとてもありがたかったが、私はその間も虚空を見つめて
「基礎……基礎これが?」
と呟くことしか出来なかった。
そうして、午前授業のあと、マリアン様のクラスに近いカフェテラスで、課題を進めることになった。
「ここは、全部資料集にのってるのを写せば、大丈夫よ」
「あれ……載ってない……」
私が、何度も資料集を眺めても見つからないのを、横からみてたシャロは、巻末を見て呟いた。
「あぁ、たしか出版社が変わったんだっけ?」
「ふぅんじゃあこれみていいわよ?」
マリアン様が、言いながら気前よく資料集を渡してくれ、それがありがたく、思わず深々と頭を下げると、マリアン様は困った表情をしていた。
「ありがとうございます。」
「やめてよ。私が、後輩いじめてるみたいじゃない」
「いやいや、そんなことは」
もう過去のことですよ。と心のなかで思いつつ、やっぱりマリアン様って、根はとてもいい人なんだよなぁ、としみじみとしてしまった。
そうして、マリアン様が失礼ながら、意外にも教えるのが上手で上手で、頭痛がしそうなほど、頭を悩ませていた課題が殆ど終わった頃だった。
突然、誰かのテーブルに勢いよく手をついて、その衝撃で、カフェオレが少しこぼれたことに驚いて顔を上げると、話したこともない上級生が、こちらを忌々しげに、憎悪のようなものをはらんだ表情で、こちらをみていた。
「レヴィエ様が、あんなことになってるのに、よくのうのうと学校にこれるわね?」
一人の上級生がそういうと、どこにいたのかその他の、たぶんレヴィエ様のことが好きだった方々だろう……。
彼女たちの言い分は、ざっくりいってしまえば八つ当たり、レヴィエ様が、突然自分たちの関係を切ったのも、前みたいに話しかけてくれないのも、どこか様子がおかしいのも、あまり学校に来なくなったのも、全部全部、私のせいということだった。
「そうよ、今まで放置してた癖に……レヴィエ様の人生を、ここまでめちゃくちゃにしておいて……」
だれかがそういいかけた途端、マリアン様が勢いよく立ち上がった。
「アンタらいい加減にしなさいよ。」
その声は凛としていて、なんにも欲がなく、まっすぐに響いた。
そのせいか、彼女たちはすこし怯んでいる。
「私達が、こうやって普通に過ごせているのは、全部全部この、フルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢の、温情なのよ」
そう私をさししめすも、一人の上級生が声を上げた。
「けど、レヴィエ様が……」
そんな意見も許さない、と言わんばかりにマリアン様が、ぴしゃりと即座にいいきった。
「それはあの人の自業自得、婚約者をないがしろにし続けて許されるわけがないのは私より貴女たちのがしってるでしょう?」
そこまで言いきると、彼女らも思うところがあるのか、黙ってしまった。
「ほら、下らないことしてないで帰りなさいよ。こんな下らないことで人生、家ごとダメにしたくないでしょう?」
その言葉で、彼女らは退散した後に、マリアン様はこちらを振り返った。
「まぁ……私がいえた義理じゃないけどさ、大丈夫?」
その様子を見ていた私は、自分のことなのに、どこか放心してしまっていた。
「あ……いえ……、びっくりはしましたけど……えと」
「うん?」
言葉につまる私を、心配そうに見つめるマリアン様に、私は心からの感謝を込めて、マリアン様に頭を下げた。
「マリアン様、庇ってくれて、本当にありがとうございます。」
「だからいいって、さて残りの課題やっちゃいな」
「はぁい」
マリアン様の促しで私も、シャロも、課題はどんどん進んだ。
「じゃあ気をつけて帰りなよ」
「はぁい」
「マリアン様も気をつけて」
そう、マリアン様とわかれると、シャロが感心したように口を開いた。
「やっぱり、マリアン様って、本当に根はまっすぐでいい人なのよね……。つっぱしっちゃうだけで」
その言葉に、私は深く深く頷くのだった。
マリアンは本編でもあるように猪突猛進なところがありますが基本は善人なんですよね。
あれは初恋ブーストとレヴィエが嘘をついていたからっていうのもありますし 反省できるだけいい子です。
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