ぼんやり令嬢と眼帯従者と真面目女子の職人街巡り
案外、というよりは私の知識不足というべきか、フロルウィッチから、職人街は、なんと徒歩で行ける距離なことに驚くと、ニーチェさんは
「まぁ、職人以外はあまり来ないしなぁ」
とフォローしてくれ、私の歩くペースに合わせて歩いてくれた。
ちなみに、エフレムさんも歩くペースは速い方なのだが、今回は私の後ろについてくれている。
……もしかして私、とろいのかなぁ。元婚約者だけでなく、お母様とマリアン様にも言われたことあるし、と少し悩んでいるうちに、活気のある通りに入ると、ニーチェさんがこちらを振り返った。
「さぁついたぞ」
金属を打ち鳴らす音や、何かを切ったり、そこかしこで、何かの買い付けなどに来ているにぎやかな声と、布や糸を沢山売っている煌びやかな店など、色々あって目を引いた。
「流石、首都の職人街……。なんでもありますね」
「すごいです……。まさかここまでとは」
「二人ともいい反応だなぁ。」
私とエフレムさんの反応に、ニーチェさんは満足そうに笑っていると、どこか、陽気さを感じさせる女性が、声をかけてきた。
「おぉ、ノージュさんとこの」
「あぁ、いつも世話になってます女将さん。」
「……やるじゃないか。こんなかわいい子を二人も」
女将さんと呼ばれた女性は、にこやかに、どこか探るように、といっても子供のいたずらを、ほほえましくみるような陽気さでいうもニーチェさんは、何も気にせず通常運転で答えた。
「はいはい、どーも」
「ちったぁ動揺したっていいのに、つまらないねぇ」
彼女はそう肩を落とす、なんだかその明るさは、学園近くの商店街にあるドーナツ屋さんの女将さんを彷彿とさせた。
……最近たべてないなぁ、いけない想像したら口がドーナツの……っていうか、あそこのチュロスの口になっちゃったなぁ……。
とぽやぽやしてると、その女性の後ろにある布の多さと、種類の多さに驚いた。
「すごい量ですね……」
「だろ?でもいつもより少ないくらいさ…」
女将さんは肩を落としたと思ったら、まるで何かの語り部のように話し出した。
「綺麗な赤目のお嬢ちゃんと、いやに背の高い頑丈そうな男がきて、布から刺繍糸まで沢山買ってたのさ……。まぁ、こちらとしてはありがたいけどねぇ」
「あぁ、いつもの爆買いの」
「そうそう。高い素材も金に糸目付けないで買ってくれるから、こちらとしては、ありがたいけどね」
ニーチェさんと女将が話している間、私はエフレムさんが見守る中、後ろの商品を眺めているも、全然がらんどうというわけでもなく、かといって商品数が少ないというわけでもなく、思わず問いかけてしまった。
「これでも少ない方なんですか?」
「そう見せないのが私の腕ってね」
女将さんはそう腕を見せつけると、その陽気さにあてられて、思わず笑ってしまいながら、驚きの声を上げた。
「ふふっすごいです」
女将さんは、しばらく私の顔をニコニコと観たかと思ったら、急に、後ろにいるニーチェさんに振り返った。
「……おいおい、あんた、やけに可愛らしいこ連れてきたじゃないか」
「でしょう?」
「ありがとうございます。」
何故か自慢げなニーチェさんの横で頭を下げると、女将さんは満足げにほほ笑みながら頷いた。
「うんうん。何か気になったら、ニーチェに買ってもらうんだよ」
「おいおい、まぁいいけどさぁ」
肩をわざとらしくすくめた後、私の方をむくとニーチェさんは、もはや通常運転と言わんばかりに、私の頭をぽんぽんとやさしく触った後に
「本当、欲しいものあったら何でもいいな?この前の詫びもあるし」
ニーチェさんがそこまで言うと、エフレムさんが、がたがた震えながら、ニーチェさんに何度も体を何度も何度も折り曲げて謝った。
「その際は本当に失礼しました」
「いやいやいやいや、いいから誤解した俺が悪いから」
そんなエフレムさんに、ニーチェさんもすごい勢いでそれを止めていたが、二人のやり取りの後ろで、女将さんは変わった色の刺繍糸のセットを見せてくれた。
「へぇ、こんな淡い色の刺繍糸あるんですね」
「そうそう、すこしくすんでいる感じが可愛いだろう?他のも見るかい?」
「見ます。あとすいません、ハンカチに丁度いい布ありますか?」
「そうだねぇ、こんなのどうだい」
女将さんがそう言って出してくれた布は、少しガーゼっぽいような、ちゃんと、水分とかを拭けそうな実用的な素材のものを出してくれた。
「あっいいですねぇ」
ようやく謝罪の応酬が終わったらしいニーチェさんは、私が、女将さんとのほほんとしているのを見て、少し驚いた表情で、後ろから入ってきた。
「この状況でそんなのんびりすることある?」
「えっ?止めるのもなんか変だしなぁと思って」
「うぅんそうか、そうだよなぁ、はいじゃあこのセットと布買おうなぁ」
またまた、小さい子のわがままを聞くかのように、優しく言いながら、ひょいと布を女将さんに手渡した。
「あぁ、自分で買うのに……」
「いいのいいの」
「はい、まいどっと」
そうして流れるように、を超えて、もはやもうすでに買ってあったかのように、ニーチェさんは、刺繍糸のセットと、ハンカチ用の布を手渡してくれた。
その様を見ていたエフレムさんは、ぼそりと
「あまりにも早すぎるお会計……」
と、呟いていたのが、なぜかツボに入ってしまった。
その後しばらく歩いていると、金属加工の職人さんが多くいる場所を、目をきらめかせたエフレムさんと一緒に見たり、まるで、宝石のようにガラスを加工する工房もあって、見とれていると職人さんが
「よかったら近くで見るか?」
と言ってくれ、怪我しない程度の距離で、見せてくれてとても驚いた。それだけでなく金物屋さんをのぞくと、包丁のいい研ぎ方を教えてくれたり、職人さんたち御用達の、コーヒーの屋台の店主さんも、若い女性が来るのが珍しいのか、コーヒーの上にホイップクリームを乗っけてくれ、ほとんどの人に、気前よく優しくしてもらえたのは、昔馴染みであるニーチェさんのお陰だと思う。
そして、クリームコーヒーを飲みながら、通りの奥にあるベンチに腰掛け、通りを一望し、しみじみと振り返る。
みんな言葉遣いとかばらばらだし、寡黙な人や、ちょっと乱暴にも見える人とか、いろんな人がいるが、最初にみた印象の通り活気があって、みんな自分の仕事にしっかり向き合っていていて、素敵だなぁとしみじみ感じていた。
エフレムさんも、何か思うことがあったのか感動したような、感慨深そうな表情をしていた。
「お嬢様、本当にありがとうございます。」
「ううん、私も楽しかったし大丈夫」
色々新鮮なものも見れたし、と答えると、ニーチェさんも心底安心したように呟いた。
「楽しかったならよかったよ」
「はい」
「じゃあ帰るか」
一度ニーチェさんのおうちまで戻り、オルハの運転でエフレムさんと一緒に戻り、心地のいい疲労感のおかげで、ぐっすり眠れたのだった。
フルストゥルとエフレムを見送った後、ニーチェは視線を交わすことも無く、淡々と口を開いた。
「……お前、なんのつもりだ?」
決してフルストゥル前では見せない、冷ややかな表情と、容赦なく注ぎ込まれた敵意を隠すことも無く呟くと、物陰から、学院の女子生徒から持てはやされていたころの面影が薄れててしまったレヴィエ・ブランデンブルグが現れた。
「お前こそ、フルストゥルに気やすく触りやがって」
「おいおい、余裕がないなぁ」
どこか余裕のないレヴィエに対して、ニーチェは、余裕しゃくしゃくで答え続けた。
「そんなことで苛立つくらいなら、どうして優しくできなかったんだろうな、お前ってやつは」
「……フルストゥルが、俺を嫌うことなんて、離れることなんて……」
その、レヴィエの物言いに、ニーチェはいら立ちを隠すことをやめた。
「お前ふざけてるのか?だから傷つけてもいいって?」
「…………。」
「お前さ、もう婚約破棄に接近禁止令に、お家は大変な状況……どう考えたって、元婚約者を、付け回してる場合じゃないだろ」
その言葉はレヴィエの心をまっすぐに射抜き呆然としているだけの彼にニーチェは冷酷に告げた。
「いい加減、現実見ろよ」
その言葉が通じたのかどうなのか、うつむいたレヴィエの表情からは読み取れなかった。
いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。
いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。
お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。




